満ちた月ではなかった。ほんの少しだけ、欠けていた。
半月と言うには満ちていて、満月と言うには足りない、そんな月を見ながら、僕は思った。
──まるで、僕みたいだなぁ・・、と。
どちらとも着かず、でも、近い内にどちらかにならなければいけない。
僕を、あんなに大きな月に例えるのは少し変な感じだけど、だけど、やっぱりなんだか僕に似ていると思った。
ふらふらと、どっちなのかよく分からない、どちらともつかない場所にいる。ただ一つ違うのは、あの月はきっとこれから満ちて丸い満月になるんだろうけど、僕はこれから欠けていくことしかできない・・ということだけど。
何だか不思議な感覚だった。ふい、と無意識に月の方へと届くはずもないのに手を伸ばしながら、ゆっくりと歩み寄って行く。
もう少し、あと少しで── 届くはずは ないけれど。
でも──・・・
「・・アイリ?」
そんな、カタコトのコトバが、突然僕の耳に入って来た。
いきなりの事に、思わず手を引っ込めるほど驚いたが、僕がそのコトバの聞こえて来た辺りに目を凝らすと、そこには木の枝で羽を休める鳩の姿があった。
「──ローッ!!」
そしてそのすぐ後に、少し震えた少女の声が聞こえた。
「ドウシタ、何カアッタカ?」
ローはアイリの異変を察して、そう気遣いの言葉を掛けた。
しかし、しばらくして僕の視界に入ったアイリはフルフル、と首を横に振った。
「違う・・。・・・・何で、傍に居てくれないの。・・勝手に、居なくなったの?」
そして、ゆっくりローの方に右手を差し出しながら、そう呟いた。
「・・・スマヌ」
ローは木の枝からアイリの手に飛び移りながら、素直にそう返した。
「・・心配、したじゃん・・・。近くにいてよ・・」
「シカシ、クラハシジュンヲ探シ二行ク時、我ハ傍ヲ離レタガ」
「あっ、あれはいの! どこにいるのか知ってたし・・っ」
そう言いながらアイリは照れ隠しなのか、手をブンブンと上下に振った。
すると、その上に止まっているローの身体も揺れる訳で。
「オ・・ッイ、アイッ・・!止・レ、サス、二我モッ・・」
「・・・・・約束・・した、じゃん・・・」
しばらくして、アイリの手はそう呟きながら止められた。
最終更新:2010年06月05日 22:36