「え、な・・何、それ・・?どういう・・」
僕は、自分の耳を、今度こそ疑った。少し前──目を覚まして、見た事のない空を見た時から、僕は、自分の耳と目がおかしいんじゃないかと思っていた。
──コレハ、夢デハナイカ?ダッテ、コンナ事、アリエナイカラ。モウ一度、目ヲ瞑ッテカラ開ケバ、イツモノ『倉橋家』ノ黄バンダ天井ガ見エルノデハナイカ?今、見エテイル物ハ、聞コエテイル物ハ、全テ幻ナノデハナイカ──?
そう、思っていた。
けれど──そう思うなら、本当に目を瞑って試してみればいいという話だ。なのに、僕は、どうしても目を瞑る事が出来なくて。本当にこれが幻で、目を開けてあの、息苦しい「倉橋家」に戻ってしまうのは、嫌だって。そう、さっきの僕よりも声高々に主張するもう一人の僕がいるから、僕は目が乾いたって、瞬きを極力しないように、努力したりしているんだ。
だから、今度だって、アイリの言葉を信じる。そして、これは現実だと、受け入れる。・・──鳩が喋ったって、別にもう気にしない。
「我等4人は、この世界から、見えるか見えないかの距離にある世界で生まれた。学者にも知られないような、小さなその世界を、我らは“アルティラ”と称す。しかし・・確かに住人がいて、中には私のように、原理を無視した力・・『魔法』を使える者もいる。」
アイリの言葉を引き継いだクロ-クが、手の内に小さな竜巻を起こしながら、僕にそう言った。実際に、「原理を無視した力」を使いながらの説明だからか、クロ-クの威圧感からか・・とにかく、説得力は充分だった。
「だから、アルティラで魔法を使える者は、最初からかなりの権力があるんだけどね・・そんな魔法使いに身一つで挑んで、無傷で勝利した人がいるんだ。・・それが、ラナ様。凄く強いのに、威張ってなくて・・人一倍、優しいんだよ」
アイリはその、「ラナ様」の姿を想い出しているのか、胸の前で手を合せながらそう言った。
「故に・・ラナ様や我等は、この世界とは無縁。しかし、そんな無縁の世界が今、滅亡の危機に有ると知って・・ラナ様は自身のその力で、救おうとしている。」
「えと・・滅亡の危機、って?」
僕は、これが現実だと信じるため、まずアイリ達のしてくれる説明を理解しようと思った。そして理解するために、わからない事は聞いておくべきだ。
「・・ソナタ等人ハ、自然ヤ水ヲ使イ過ギタ。モウズグ、コノ世界ノ資源ハ尽キルダロウ。」
「このまま行くと、この世界の人類は絶滅を避けられん。ラナ様は、そんな愚か者達を救おうとしている。私は気に入らんが・・ラナ様の意思は絶対だ。ゆえ、我等もこの世界の救済に協力している。」
クロークは、僕の今いる“世界”の人間達をあからさまに侮辱していたが、僕はその意見に同感だったので、黙っていた。まあ、それ以前に、クロークに何か意見するなんて、到底出来るとは思えないが。
ちなみに──僕が同感だと言うのは、僕等人間が資源を使い過ぎだと言う事だ。大体、僕のこの病気は、汚れた空気に肺が侵されたから起こったものだ。つまり、僕ら人間が資源を考えもなしに使って空気を汚さなければ、この病気なんか起こらなくて、多くの人が助かったという事だ。だから・・資源を使い過ぎだと言う意見には、大いに賛成する。
「そして、此の世界に来る前、ラナ様が我等に仰ったのだ。──此の世界を救済するには、『鍵』になる、此の世界の人間が一人必要だ。私は他の処置を行うので、貴方達3人にはその『鍵』になる素質の有る人物を連れて来てもらいたい──と。」
「私達はラナ様のその言葉に従って、『鍵』を探していたの。そう、もう──1ヶ月半位になるかな?」
僕の方を見ながら、華美月、次いでアイリが言った。
「それで・・その『鍵』って言うのがあなた、純君なの!とゆーわけで、着いて来てくれるよね?あなたの世界のためにっ!」
そしてアイリが、ガシッと僕の肩を掴んで、力強い瞳でそう言った。
「え・・ぁ、な・・・え、ええぇえぇぇええぇ────っ!?」
僕はそうして、しばらく叫び続けて──・・さすがに息が苦しくなって、ゴホゴホと咳き込みながらうずくまって止まった。
──余談だが、その後は華美月とアイリが2人で背中をさすってくれた。
最終更新:2009年03月27日 21:31