ここは近所で「安い」と評判のスーパー。
まぁ、安いのには理由がある。他の所で儲かっているからだ。
そう・・スーパーとは表の顔、本当はここは──
「マスター、新型の弾丸届きましたーーっ!」
国のエージェントたちも愛来する銃器店なのだ──。
ルカと秘密の銃器店
国に正式に認められているこの店は、裏ではかなり有名な店らしい。
そんな店のマスターに、僕は2年前拾われた。
でも何ヶ月か前まで、僕はこの店の存在さえ知らなかった。マスターがまだ中学生だった僕には見せない方がいいだろうとはからい、下のスーパーにしか通してもらったことがなかったからだ。
だが、今年の2月──ついに僕も高校生となり、放課後にここでバイトをしないかと持ち掛けられた。
まぁ、育ててもらっている身、給料はもちろんないのだが──ここは今まで僕が知らなかったものがたくさんあってとても新鮮だ。
品質と品揃えが国1とも称されるほどのこの店は・・下のスーパーに負け衰えないほど広く、とても2ヶ月ほどじゃ把握なんて仕切れない。
そんな訳で今日も僕は、分厚い商品表を片手に 在庫の整理をしているのだった。
銃を使う人なんて刑事ドラマとかでしか見た事がない僕にマスターはおもしろがって
「この弾はRP157と言ってな、中に即効性の精神毒が・・」 とか
「あれはうちのお得意様、組合組織12番隊の・・まぁ、コードネームでノーバスと言う」 とか
絶対必要ないし、僕には覚える必要もない感じの事を吹き込んでいったが・・
そんなその手の知識のない僕にも、フルネームでどんな人かいえるヤツがいた。
それが・・今僕のすぐ後ろでたぶん、ロード国産・・の弾丸を見ている
シセアゼオンメンバー、ルカ・バイオレスだった。
確かまだ13歳だったはずだ。うちのクラスの奴等が「かわいい」とかなんとか騒いでたような気がする。
と言うか、中学生が鼻唄歌いながら弾丸漁ってていいのか。
まぁ、職業柄仕方ないような気もするが・・・いや、やっぱダメだろ。
そんなことを考えながら仕事をしていた僕は・・後ろから近づいて来たそいつに全く気付けなかった。
そしてそいつは棚に弾薬を並べていた僕の手を取り、制止させた。
「これはSLLの351だよ~。同じハーヴィス製だからよく似てるけどこっちには毒が入ってるから間違ってもまぜちゃダメだよぉ」
にこやかにそう言うそいつ・・ルカ・バイオレスはそう言いながら僕が棚に並べていっていたSLLの3なんとかを、2段上の一見同じような弾丸の列へと移し変えた。
「って言うか、どうしたの?今日はお師匠さんの買い出しかな~?もし自分のだったら、あなたは背がちっこいからもっと反動が少ないやつにした方がいいよぉ。わかんないのはお店の人に聞こうね!あ、私でもいいけど」
にぱっ とか言う効果音が合いそうな感じに笑いながらルカ・バイオレスはそう言った・・っつーか!
「背ぇちっこいとか言うなッ!! それにお前より年上だし、バイトなんだよッ──!!」
気づいた時にはそう叫んでいた。
この前は失敗だった。
何かエルフの血が混ざってるらしくて背が年齢より小さく見えるだけで僕はあいつより3歳も年上だ。
大体なんであんなヤツに子供扱いされなきゃ・・あ゙ーーもっかい腹が立ってきた
あの後のマスターの話によれば、あいつもうちのお得意さまで 2週目と4週目の日の曜日に毎回ここに来るらしい。
まあそんなこと知らないしもう会いたくもないけど。
大体昨日はあいつがいてちょっと気を取られてただけで、あいつさえいなけりゃ僕の仕事はいつも完璧なんだ。
って言うより何であいつ あんな人気なんだ。
今日学校で「昨日ルカ・バイオレスと会った」って言ってみたらいつも物好きしか寄って来ない僕の周りに、ものの見事に人垣が出来た。
それで「やっぱかわいかった?そりゃかわいかったよな~」とか「どこでだどこでだどこでだッ!!」とかものすごい質問攻めにされた。
はぁ・・・今日はいつもの27倍ぐらい喋ったような気がする。
というか昨日ちょっと会っただけなんだからマニアックな質問をしないでくれ。
声はソプラノ?もっと高かった? とか。
身長体重スリーサイズなんでもわかること教えて!! とか。
最近ウワサになってる○○とはどうだって言ってた? とか。
分かるわけねーだろ特に最後の方。
でも、まぁ・・・・それだけ人気なんだって事はわかった。
昨日会ったのが僕だからよかったけど・・2番目の質問をした、誰だっけ?確か出席13番のヤツとかに会ってたらあいつ・・運のツキだな。
そんな事をたらたら考えながら仕事をしていた僕だが・・・やっぱりあいつのいない今日の仕事は完璧だった。
あれから2週間が過ぎた。
今日も今日とていつもと変わらず僕は、放課後にマスターの店を手伝っていた。
欠伸が出るくらい平和だ。
そんなことを思いついでにじっさい欠伸をしながら、僕は店のあまり人目のないところで商品に貼る値札を切っていた。
一通り作業し終わったところで、僕はハサミを置いてう~んと大きく背伸びをした。
次の仕事は・・今切った値札シールを貼っていくのかな。
そんな事を考えていた僕の口が・・後ろからいきなり塞がれた。
それだけじゃない。その手には麻の布のような物が握られていて、その布に染み込んだ匂いを嗅いだとたん、僕の意識は段々薄れだした。
薬品か──!
何とか抗おうとしたが、身体には力が入らないし布に阻まれ声も出ない。
それからすぐ立っているのも困難になり、膝が折れてしまった事までは、思考の回らない頭でもわかったが――それまでだった。
崩れた僕の身体が机に当たった反動でハサミが カシャンッ と床に落ちたが、誰もその音に気付いて人気の無いここを覗きに来ることなんてなかった──
まず最初に見えたものはコンクリートだった。
僕はそれだけで床に寝かされているのを察知し、たぶん縛られて寝転がされているんだろうなぁ・・なんて思いながらも一るの希望を託して手足を動かしてみた──つもりだったが僕の希望は見事に裏切られ、指先が少し動いただけだった。
はぁ~と一回大きく溜め息をつこうとして、口に猿轡を噛まされている事に気が付いた。どうやら犯人は用意周到らしい。まぁそれはいいが溜め息ぐらいつかせてくれたっていいだろ。
そんな事をとろとろと考えながら、僕はとりあえず辺りを見回してみた。
僕が今 たぶん監禁されているのであろうこの部屋はそこまで広いわけではなく、だが決して狭いわけではない。たぶん3人ぐらい入ってトランプ出来る感じだと思う。
っていうかそれよりも木造建築にしてくれ。床に直接寝かされてる人の事をちょっとは考えたらどうなんだ。猿轡させてるぐらい用意周到なんならそこら辺もちゃんとやっとけよ。
そうしてもう1回溜め息をつこうとして、猿轡があることを思い出した。
いつもなら溜め息をつくのは自然に・・というかもう僕のくせだからそんないちいち今溜め息ついたーとかこれで今日6回目だーとか気にかけてないが、いざ溜め息をつけないとなると僕が普段からどれだけ溜め息をついているのかよくわかる。
悪いくせかもしれない。仕方ない、今度から気をつけてみるか。
そう思いながら無意識にもう一回溜め息をつこうとして出来ないことを思い出し、なんか腹が立ってきたので無意味に一回 猿轡を思いっきり噛んでおいた。
何この強靭な布。噛んだこっちのほうが痛いじゃないか・・・
そしてちょっと後悔した。
どーーーんっ・・・
遠くのほうでそんな音がした気がして僕は瞑っていた目を開いた。
目を瞑っていたのは別段深い理由があるわけでもなく、ただ果てしなく暇だったから日ごろの寝不足をちょっと補っておこうかなとか健康を気にかけてみただけだ。
まぁそんなわけであれからどれぐらい経ったのかはわからないが・・ついに犯人が動き出したのか。
僕はどうなるのだろう。たぶん人質か何かだから この建物に火でもつけてマスターでも脅すのだろうか。
はーめんどくさい。そうなったらどうしよう。
「僕のことはいいから!」とでも叫んでみるか?いや、やっぱちょっとべたかな。
それに僕らしくない。やっぱりここは遠い目をして無言で突き通すか。
どぉーーーんっ・・
さっきよりも大きな何かが炸裂する音がした。
外では戦闘でも繰り広がっているのだろうか。まーどっちにしろまだ遠いし僕には関係ないな。
どどーーんっ!
さっきよりもまた少し大きな音がした。
あーやっぱ薄々気付いてたけどこっち向かってきてるなー。
つか生き残った暁にはまた学校で人だかりが出来るな。あーめんどくせー大体何話せって言うんだよ。猿轡噛まされて囚われてました、ちゃんちゃん。以外に話すことねーぞ。っていうかただ捕まってたヤツに素晴らしい話を期待すんなよ。
どごぉぉぉーーーーーンッ!!
今までよりも格別に大きな音が響いた。
音がしてからもしばらく耳にきーーーんって音が残る感じの大きさだ。
あーとうとうこっち来たかー
犯人どんな顔なんだろ。見たらどうしよ・・とりあえず殴っとくか。
ガチ・・ガチャガチャ
すぐ近くでそんな音がした。
たぶんこの部屋の固そーなとびらを開錠してる音かな。
よし、なぐる準備だ・・・ってそういや縛られてたんだっけ。ダメじゃん。
ガチャ!
そんな、鍵があいた音がした。
あーどうしよもう時間ないし。動けないとなると・・そうか、そう言えばそうだよ。犯人に1番言わなきゃいけねーことがあったじゃないか。
ギ、ギイィイィィ・・・
そんなさも重い扉を開けてる感じの音がした後、僕はその犯人に文句をつけた。
「~~が、もヵ──~~~!」
あ゙ーーーそう言えば猿轡・・・!
つくづくむかつくな、これ。って言うか僕が今文句つけたのも「猿轡はやめてくれ」って言う内容だったのに全く意味ねーじゃん。
そしてもがもが文句を言われた犯人は、僕が何を言っているのか分からなかったのか、45度ぐらいの角度でかわいらしく首をかしげた。
って・・・犯人女!?
「・・・?今何て言ったのぉ?」
キョトンと不思議そうな目を向けて犯人・・・・ではなくルカ・バイオレスが疑問げにそう聞き返した。
何で犯人じゃなく・・・っていうか何でよりにもよってこいつ・・・・
僕は溜め息──をつこうとして出来なかった事に気付いた。
「──~~?(犯人はどこだ?)」
「ふぇ~捕まってたのって君だったんだね~//」
「~~──っ!(そんなこと聞いてねぇよっ!)」
「私たまたまその時お店にいてねー、ビックリして追いかけてきたんだよー」
「~、──~!(ってか、まず外してくれ!)」
「怪我とかしてないよね??あ、犯人さんは見事捕まえたよぉっ☆」
僕はとりあえず話が通じないことを理解して諦め、冷たい目をして無言で訴えることにした。
ルカ・バイオレスはそんな僕の様子に気付いたのか、僕の方に手を伸ばして
「そう言えば床コンクリートだから冷たいよね~」
と、まぁそうだけど的外れなことを言って起き上がらせてくれた。
それからルカ・バイオレスは乱れた僕の 普通より少し長い髪を手でときながら、思い出したように服の懐を探り出した。
そしてややあって・・なぜかピンクに塗装された小さなピンを取り出して、僕の前髪を止めた。
「なんかね、男の子っぽく見えるからもうちょっと・・ほらこんな感じに!ピンとか付けた方がかわいいよぉ~」
またあのにぱっと言う笑いをしながらそう言うルカ・バイオレスに
『俺は男だぁ────ッ!!!』
と抗議しようとして、猿轡の隙間からもがもがと言う意味の伝わらない声が漏れた。
それが僕とルカ・バイオレスの出会い。
最初の印象は最悪だったけど・・・まぁ、気が落ちてる時に底なしに明るいこいつと話すと なんかバカらしくなってきて気が晴れるという利点もある事にごく最近気付いた。
あぁ、ほら また今日も来た。
「いらっしゃいませ──」
激安スーパーの裏側にある秘密の秘密の銃器店に、明るく笑うお子様が──。
最終更新:2009年08月19日 23:41