「うぇー・・・、何だよこれっ!」
冒険者の集まる街ラフィアで耳にした街外れの洞窟で、
「あの情報屋、ハメやがったな―――ッ!?」
今日という日に晴れて 祝・冒険者となったアリーナはピンチだった。
「うぅ、せっかく旅に出れたのにぃぃ――――っ!!」
さて。なぜピンチかというと、原因はこのおてんばムスメにある。

─ 小一時間前・・
 「う~ん、私の初めてのダンジョンだしなぁ。・・・ちょっと難易度高めのトコにしちゃおっかなぁ~♪」
 10分ほど前にやっと、待望の冒険者となったアリーナは上機嫌だった。
 「それから稼げるトコじゃないとねっ、やっぱり!」
 そして調子に乗ったアリーナは いつも絶対に失敗する。
 「こーゆー時はぁ・・・情報屋を探す!うんうん、さっすが私!わかってるねぇー♪」
 その時、なぜか自分で自分を褒めていたアリーナの後ろから、唐突に声がかかった。
 「お嬢さん、情報屋をお探しかね?」
 「うっっわ!?何だよばあさん、心臓に悪いじゃねーか!」
 声をかけてきたのは80歳ぐらいの老婆で、道の端にゴザのような敷き物を敷いて座っていた。アリーナは何かインチキくさそうなババアだな、と直感的に思ったがとりあえず気にしないことにした。しかしこれが間違いだったのだ。こんな老婆、直感に従って放っておけばよかったのに・・と今のアリーナなら思う。まぁ、もう遅いけど。
 「んで、何の用だよばあさん」
 「ぅむ。さっきから聞いておれば、おぬしは冒険者じゃな?」
 「って、お前盗み聞きしてたのかよっ!?タチ悪ぃなぁ・・」
 「おまえとはなんじゃ、お前とは。というかさっきから道の真ん中で あんなに堂々と喋っておればイヤでも耳に入るわい」
 「へ?堂々と・・・?」
 アリーナは嫌な予感がしてそろそろ~・・っと背後を振り返ってみた。
 するともれなく人々の不信がる視線を感じたし、しっかり見た。
 「・・・・・」
 アリーナはまた、そろそろ~・・っと老婆に視線を戻した。
 「ど・・・、どうしよう・・・・・」
 アリーナは上目遣いで老婆を見上げてみたが、
 「そんなの知らんわい」
 とそっけなく返された。なんだ、冷たい老婆め。
 「とゆーかのぅ、そんな事はどーでもいーんじゃ」
 「・・・・はぁぁ」
 アリーナは深々とため息をついて、まぁ仕方ない!とスッパリ気にしないことにした。
 そして老婆はそんなアリーナを無視して話を続ける。
 「情報屋を探すということはつまり、そこそこに難易度があって稼げるダンジョンの情報が欲しいということじゃな?」
 「あ?何でそんな細かいことまでわか・・・ってさっき聞いてたのか。で、それで?」
 「ぬわぁんと、ここにそなたにピッタリの情報があるっ!!」
 「・・・・へぇ。」
 アリーナはそっけなくそんな生返事をしただけだったが、実は興味津々だった。
 ほんの10分前に冒険の旅に出たばかりなのでラフィアの情報屋がどこにいるかなんて知らなかったし、もし見つけられたとしても ほんの13歳のアリーナなんか相手にしてくれないかもしれないからだ。こんなところで調度いい情報を持った情報屋に会えたのは幸運と言っていいだろう。
 「んで、どんなトコだ?」
 アリーナは期待しているのを表に出さないように注意しながら聞いた。しかし老婆は
 「何を言っておる。先に金じゃ、か・ね」
 と言ってきた。
 「え・・・?」
 ほれほれ、と手を差し出してきた老婆に、アリーナは怪訝な顔を向けた。
 「なんじゃ。冒険者の常識も知らんのか?・・・ハハーン、なるほど。さてはおぬしまだまだヒヨッ子の冒険者じゃな?」
 「ム・・・ッ」
 「あぁ、そう言えばさっき『私の初めてのダンジョン』なんて言っておったなぁ。まさかおぬし、冒険の初心者なんじゃ・・・」
 「だぁ──―っ!!ちがうっ、断じてっ!!」
 頭のどこかで「カチンッ」と音がした時にはすでに手遅れで、アリーナは無意識の内にそう叫んでいた。そう、アリーナは相当の負けず嫌いで相当な意地っ張りの口悪女なのだ。可愛い少女の風をしている外見には似合わず。
 「私は・・・っ私はもう何年も冒険を続けてる、プロの冒険家だっ!!」
 「ほっほーう。なら一番稼げるがとぉっても危険なところでも大丈夫じゃな?」
 「あったり前じゃねぇかっ!!」
 「では、しめて360Gいただきます」
 「さっ、360!?た、高すぎねぇか?剣1本買えるじゃんっ!」
 「なに?おぬしの使っておられる剣はそんなに安っちい物なのかぃ?あぁ、そんなことじゃぁこのダンジョンはム・・・」
 「んなこたねぇよッ!払うって!」
 「・・・確かにお預かりしました。ではお話しよう。その洞窟は・・・」
───そんなこんなでアリーナはそのとぉっても危険な洞窟に向かい、
                そこにいた魔獣に襲われてピンチなのだった。

「あ~もう、こっち来んなぁっ!!」
アリーナはそう言って、左手に持っている自分の身長の4分の3の長さはある大剣を突き出し、鋭く尖った爪で引っ掻いてきた魔獣から身を守った。
「とっとと消えろっ!」
アリーナは今度はそう言いながら右手に持っている、闇色に暗く光る銃をぶっ放した。
魔獣はその弾丸を左前脚にくらい後退したが、今度はアリーナの右後ろから違う魔獣が襲い掛かってきた。
「ふぅッ・・・」
アリーナはこれを足元に銃を発射しておさえ、左から突進してきたまた別の魔獣を大剣で受け流した。
「もぉ、何匹いるんだよぉっ!?」
また遠くから飛びかかってきた魔獣を狙撃し、立ち直った1匹目を剣で刺し、状況を把握しようと周りを見回したアリーナは、間近に迫り牙を剥き出しにした2匹目の姿を見た。
「やば・・・っ」
とっさに銃を構えようとしたが間に合わず、これが最後の時か・・と潔く眼をつむろうとしたアリーナは、視界の隅にありえない速さでこちらに突貫してくる1つの影をとらえた。
「えっ・・・?」
そう声をあげた時にはもう2匹目の魔獣は弾き飛ばされていて、その影は3匹目を排除しにかかっていた。そして、遠くの方で澄んだ女の人の声が何か呪文のような言葉を紡いでいて、アリーナはその声に心当たりがないなぁ―――と思いながら気を失っていった。


























































最終更新:2010年05月28日 21:01