スーパーガールは、頭の中で炭酸がはじけるような「ポン」という音を感じた。
とつぜん、自分の意思に反して、走り出した。
国道を70km/hほどで快走するシルバーのレクサス。
あっという間に車に追いつくと、
右手を伸ばし、バンパーの下のフレームをしっかり握り締め、その場に立ち止まった。
ガツン!!!
突然、レクサスは急停止。
運転していた男の身体は、シートベルトに突き刺さる。
ベルトがなければ、フロントガラスを突き破って、車外に放り出されるところだった。
スーパーガールが、自分が何をしているのか分からなかった。
自分の意識は残っているのに、身体が完全に別の意思を持っているように動いている!?
握り締めたレクサスのフレームの捻じ曲がる感覚は、指先に感じるのだが、、
まるで、脳から別の信号が手足に命令を出しているようにも感じた。
彼女は、運転席まで歩み寄ると、ドアとボディの隙間に指を捻じ込ませる。
細い指が金属にめり込むと、まるで紙でできているかのごとく、そのまま無造作にドアを引きちぎる。
メリ、バキッ!!
彼女の手に軽々とつかまれたドアは、発泡スチロール製のセットのように見えたが、
ドシャッ!
アスファルトに投げつけられた、重厚な音が、それを否定した。
いまだに、スーパーガールは自分が何をしているのか信じられなかった。
どうして、なに?!と自分も考えは頭を駆け巡るが、声すら出すことはできない。
運転していた男と、目が合った。
35歳くらいのスーツ姿。
この高級車に乗っているということは、それなりに社会では成功しているといことだろう。
彼は、目の前にいる少女が、
地球からはるか離れたクリプトン星から来た、いわゆる宇宙人であり、
地球人を遥かに凌駕する身体能力を持っていることを、彼女独特の青と赤のコスチュームから、
理解していた。
ただ、ドアを素手で引きちぎった彼女が、これから何をしようとしているのかは、
皆目、見当が付かなかった。
「この道路の制限時速は、40キロメートルです。
この車の停車直前の500mの平均時速は67.4キロメートルでした。
27.4キロメートルの速度超過の交通違反となります。」
スーパーガールの自身の意思に反して、彼女は機械的に発声した。
「手続を行いますので、○○警察署まで来ていただきます。」
というと、彼女の左手は伸び、男の首に5本の指が巻きつく。
ちょうど首根っこをつかむように、、、、
「ぎゃっー。○△■!#$%&??!!、、、、」
彼女は必死に、指先の力をコントロールしようとしたが、
メリメリビシッという骨が砕ける感触が、彼女の指先に伝わった。
彼女は、地球人に直接触れるときは、絶妙の力加減で危害を加えないようする。
ところが今、自分の指先が、彼女の意思に反し、手加減なし、、
人間の身体にとっては致命的な力で、男の首を握り締めてしまったことを感じた。
男の全身から力が抜け、まったく動かなくなった。
スーパーガールは、男の首根っこをしっかりと握り締めたまま、ブーンという轟音とともに大空へ消えた。
○○警察署の玄関には、交通課の警察官が、彼女の戻りを待っていた。
上空から、青と赤の残像が彼の前に降り立った。
男の首根っこをつかんだまま。
「速度超過1名、確保しました。」
と彼女が言い終わる前に、警察官はスーパーガールがつれてきた男の異変に気づいた。
顔に生気がなく、手足もピクリとも動かない。
警察官はあわてて、手元のリモコンでスーパーガールのコントロールを解除した。
再び、彼女は頭の中で炭酸がはじけるような「ポン」という音を感じると、
スーパーガールは気を失い、男とともに地面に倒れこむ。
交通違反取締りのために、スーパーガールを利用して、違反者を警察に連行するシステムを開発したのだ。
その男は、救急車で近くの病院に搬送されたが、頚椎は粉々。脊髄損傷による即死だったことが確認された。
スーパーガールの指が、とんでもない力で首に食い込んだため、5本の指の痕がくっきり残っていた。
「失敗か。」
○○警察署の会議室で、幹部たちが顔を見合わせた。
「理性や人格をコントロールしてしまうので、力加減がほとんどできていないようです。
昨日の男性の頚部にくわえられた力は、10トンを超えています。首が千切れる寸前です。」
と鑑識官から報告があった。
こんな彼女、これから警察では何に使ったらいいのでしょう?!
(おしまい)
最終更新:2010年07月14日 23:21