2-602 正義のスーパーガール 洗脳

スーパーガールは、頭の中で炭酸がはじけるような「ポン」という音を感じた。
 とつぜん、自分の意思に反して、走り出した。

 国道を70km/hほどで快走するシルバーのレクサス。
 あっという間に車に追いつくと、
 右手を伸ばし、バンパーの下のフレームをしっかり握り締め、その場に立ち止まった。

 ガツン!!!

 突然、レクサスは急停止。
 運転していた男の身体は、シートベルトに突き刺さる。
 ベルトがなければ、フロントガラスを突き破って、車外に放り出されるところだった。

 スーパーガールが、自分が何をしているのか分からなかった。
 自分の意識は残っているのに、身体が完全に別の意思を持っているように動いている!?
 握り締めたレクサスのフレームの捻じ曲がる感覚は、指先に感じるのだが、、
 まるで、脳から別の信号が手足に命令を出しているようにも感じた。

 彼女は、運転席まで歩み寄ると、ドアとボディの隙間に指を捻じ込ませる。
 細い指が金属にめり込むと、まるで紙でできているかのごとく、そのまま無造作にドアを引きちぎる。

 メリ、バキッ!!

 彼女の手に軽々とつかまれたドアは、発泡スチロール製のセットのように見えたが、

 ドシャッ!

 アスファルトに投げつけられた、重厚な音が、それを否定した。

 いまだに、スーパーガールは自分が何をしているのか信じられなかった。
 どうして、なに?!と自分も考えは頭を駆け巡るが、声すら出すことはできない。


 運転していた男と、目が合った。
 35歳くらいのスーツ姿。
 この高級車に乗っているということは、それなりに社会では成功しているといことだろう。

 彼は、目の前にいる少女が、
 地球からはるか離れたクリプトン星から来た、いわゆる宇宙人であり、
 地球人を遥かに凌駕する身体能力を持っていることを、彼女独特の青と赤のコスチュームから、
 理解していた。

 ただ、ドアを素手で引きちぎった彼女が、これから何をしようとしているのかは、
 皆目、見当が付かなかった。

「この道路の制限時速は、40キロメートルです。
 この車の停車直前の500mの平均時速は67.4キロメートルでした。
 27.4キロメートルの速度超過の交通違反となります。」

 スーパーガールの自身の意思に反して、彼女は機械的に発声した。

「手続を行いますので、○○警察署まで来ていただきます。」

 というと、彼女の左手は伸び、男の首に5本の指が巻きつく。
 ちょうど首根っこをつかむように、、、、

「ぎゃっー。○△■!#$%&??!!、、、、」

 彼女は必死に、指先の力をコントロールしようとしたが、
 メリメリビシッという骨が砕ける感触が、彼女の指先に伝わった。

 彼女は、地球人に直接触れるときは、絶妙の力加減で危害を加えないようする。
 ところが今、自分の指先が、彼女の意思に反し、手加減なし、、
 人間の身体にとっては致命的な力で、男の首を握り締めてしまったことを感じた。

 男の全身から力が抜け、まったく動かなくなった。
 スーパーガールは、男の首根っこをしっかりと握り締めたまま、ブーンという轟音とともに大空へ消えた。


 ○○警察署の玄関には、交通課の警察官が、彼女の戻りを待っていた。

 上空から、青と赤の残像が彼の前に降り立った。
 男の首根っこをつかんだまま。

「速度超過1名、確保しました。」
 と彼女が言い終わる前に、警察官はスーパーガールがつれてきた男の異変に気づいた。
 顔に生気がなく、手足もピクリとも動かない。

 警察官はあわてて、手元のリモコンでスーパーガールのコントロールを解除した。
 再び、彼女は頭の中で炭酸がはじけるような「ポン」という音を感じると、
 スーパーガールは気を失い、男とともに地面に倒れこむ。
 交通違反取締りのために、スーパーガールを利用して、違反者を警察に連行するシステムを開発したのだ。

 その男は、救急車で近くの病院に搬送されたが、頚椎は粉々。脊髄損傷による即死だったことが確認された。
 スーパーガールの指が、とんでもない力で首に食い込んだため、5本の指の痕がくっきり残っていた。

「失敗か。」

 ○○警察署の会議室で、幹部たちが顔を見合わせた。

「理性や人格をコントロールしてしまうので、力加減がほとんどできていないようです。
 昨日の男性の頚部にくわえられた力は、10トンを超えています。首が千切れる寸前です。」

 と鑑識官から報告があった。

 こんな彼女、これから警察では何に使ったらいいのでしょう?!

(おしまい)

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最終更新:2010年07月14日 23:21
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