同時刻
演習場上空 指揮管制機VCE-1機内

「……フェイルン……まったく無茶なんだからねぇ」

今回、動向確認の意味も有りナミは実戦には出ず、指揮管制機からのデータ収集という形で参加していた。
ナミには分かっていたのだ、あの二人が何に乗ってくるか。

「止めたところで……無駄だっただろうけどね……」
「は?」
「あ、こっちのことよこっちのこと!」

あの二人が空自の所属でありながら技研のテストパイロットをやっていると知った時、何か怪しむべきだったとナミは今さらながら思う。
しかし、二人が乗っている機体のスペックを他の皆に話すことは流石に機密の関係もあってはばかられた。
模擬戦の前に「どんな機体に乗ってくるか判らないから注意して」と釘をさすのが精一杯だったのである。

(そりゃ、あの二人と例の機体が結びつくなんてすぐ出来なかったわよ……名探偵の推理じゃあるまいし)

どちらにしても、程なく模擬戦が始まる。
そうなったら恐らくDoLLSが正面から戦って勝てる可能性はきわめて低い。

(演習とはいえ、ある意味不名誉な記録になるわね)

たった二機の可変戦闘機にDoLLSが負ける――――-

恐らく、オムニにいた頃ならば圧倒的な数の軍勢を前にしなければ到底許容できなかっただろう“敗北”の文字。
普通ならまず頭に浮かぶはずの無い状況を頭に浮かべながらも、ナミはため息をつく。

(まぁ、ただ負けて終わるとも思えないけどね……。その辺は皆の頑張りに期待しましょうか)

その直後、自分たちの遥か上空からエンジン音が響いてくる。

「来たみたいね。さて、地上にいる皆の配置はどうかな……っと」

ナミがモニターに目を向け様とした直前、衝撃波と送れて爆音が響いてくる。
その時の衝撃波は、一瞬機体が分解するのではないのかと錯覚させられるほどのものだったと後日彼女は語ったそうだ。

「な、何だったのよ……?」

まだ、いくらか頭が混乱しているナミがすぐさま窓の方を見ると、上空には飛行機雲が二本描かれていた。
機体の姿は見えず、どうやら自分たちの頭上を通り越したのだろう。

一方、場所は変わって地上に展開するDoLLS一同も上空から響いてくる爆音で自分たちの対戦相手が到着したのを確認した。

「来たわね……皆、準備はいい!?あの軟派野郎をブチのめしてやるわよ!!」
『了解!!』

その直後、ヤオの機体に通信が入る。

『レーダーに反応!サイズはきわめて小さいですが、速力マッハ5以上!!二機居ます!!』

X-7Rに搭乗していたフレデリカ・アイクマンの言葉に、ヤオ達は冷や水を浴びせかけられたような衝撃を受けた。

「……マッハ5以上で反応の小さい物体……!?」
『しかもこの運動性、ミサイルのたぐいじゃありませんよ』

ヤオの背中に冷たい物が流れる。
それは、どこか脳裏に引っかかっていながらこの直前まで忘却の彼方にあったもの。

「奴さんの機体……まさか……」

以前情報収集の際に見た「脚の生えた戦闘機」の姿が頭をよぎる。
まだ、そうと決まったワケではないもののその可能性は極めて高くなったと思っていいだろう。

「シルバーリードより全機へ、敵はきわめて高機動の特機と推測される。搦め手で掛かって行かないと全員あの世行きよ!!」

それまでと打って変わって緊迫感を帯びたヤオの通信に、全員が通信モニタ内でえっ?という表情を見せる。

自分は、いや自分達はとんでもない連中を敵に回そうとしているのではないかという警戒信号がヤオの脳内に鳴り響く。
しかし実際に戦ってみるまではわからないと思ったその時、上空に影が差した。

直後、地上に衝撃波とそれによって生じた土煙によって視界が失われる。
これがレイバー部隊だったらこの時点で半数近くあるいはほぼ全ての機体が戦闘不能に陥っただろう。

だがそこは百戦錬磨のDoLLSである。
最初こそ若干の混乱を生じたもののすぐに落ち着きを取り戻し、標的を確認しようとする。
ヤオのX-7が真っ先に標的の飛び去った方向を確認し、モニタへその正体を映し出す。

(戦闘機!?あれが今回の相手なの?いや、ただの戦闘機であるはずがない。それにあの機体が放つ爆音どこかで……)

上空にいる戦闘機が放つ爆音とエンジンのノイズに引っかかるもののあったヤオが記憶を辿っている頃、その上空では派手な挨拶を見舞ったイサムのYF-19がエンドレスエイトでDoLLSの出方を待っていた。

「やっぱ最初の挨拶はもう少しデリケートなのがよかったか?いや、向こうもやる気満々だったからこんなもんかね?」
『まったく、お前は何をやっているんだ。いきなり超低空での音速飛行をやれば相手も混乱するのは当然だろう……ま、どうやら相手も立ち直るのに時間は掛からなかったみたいだな』

一方のガルドはイサムと言葉を交わしながらも搭乗するYF-21のセンサーで地上の様子を確認していた。
まだ土煙が完全に晴れていない状態ながら、秩序を保ち体制を立て直しているのがわかる。
恐らく指揮官は相当の人物だという事が各機の動きから伺えた。

「それじゃ、そろそろ土煙も消える頃だから再び行きますかね……っと!」
『やりあうのは勝手だが、機体は壊すなよ。それから俺は見物させてもらうぞ』

急降下していくイサムのYF-19とは対照的に、通信を入れたガルドは直後YF-21を上昇させていった。

同じ頃、ヤオは部隊の指揮を執り全員をまとめ直しながら、相手となる戦闘機の正体を思い出していた。
記憶の奥底に有った独特の甲高い爆音。

(まさか……あの時の……)

この世界に出現して間もないころ、頭上を飛び去って行った謎の偵察機。
あの音と似ていた気がしたのだ。

「マギー!今の音ライブラリと照合!!急いで」
『もうやってます!今の音……まさかあの時の……』

マーガレットもその音の正体に気づいていた。
先ほどの戦闘機が件の「脚の生えた戦闘機」で、更にあの時自分達を偵察していた機体と同一なら性能は相当なものだろう。
ならば、真正面から馬鹿正直にぶつかった所で勝負にならないのは目に見えている。

と言うよりは、今回は地対空ミサイルの用意が足りないのも有った。

「『ゲイ・ボルグ』ぐらい持って来ればよかったかしらね……」

X-7の追加装備として開発された03式超音速多弾頭ミサイル「ゲイ・ボルグ」。
あれがあったなら最初の段階で先制攻撃をかけられたはずである。

しかし、今回は模擬戦用の弾頭が間に合わないという理由から装備類のリストから外されており、リニアキャノン等の銃器が対空攻撃の主力となっていた。
だが、そのゲイ・ボルグがあったとしても今回参加したX-7の相当数に装備させなければいけなかっただろう。

そこまで考えてヤオは頭を振る。
無いものをねだるより今必要なのは、目の前の敵に現状の装備で最善の対処をすることだからだ。

先ほどの機体が再び降下してくるのがわかる。
恐らく超低空での飛行で翻弄するつもりだろうと判断したヤオはすぐに全機へ指示を出す。

「各機!敵は次のタイミングで突っ込んでくる!全機散開しグレネードとリニアキャノンの集中砲火で出鼻をくじけ!!」
『了解!』

次の瞬間、全てのX-7が散開し手持ちの火器を標的機の飛行予測ルートに向ける。

そして、爆音と共に地上を白いモヤが走るのが見える。
モヤの正体は土煙と、それを吹き飛ばす衝撃波だ。
そんなものを地上に生み出すのは……。

「来た!!」
「何ぃ!?」
「あんな飛び方って……!」

誰もが標的である機体を見た瞬間度肝を抜かれた。

相手は見る限り普通の戦闘機である。
彼女たちが驚かされたのは機体の外見ではなく、その飛び方だった。

相手はなんと地表スレスレの高度で、それも機体を逆さにしてキャノピーが地上にぶつかるのではないのかと思えるぐらいの高さで突っ込んできたのだ。
その姿には、ヤオやセルマ、フェイスにエイミーといった独立戦争時代を戦い抜き後世の教本に名を記した第一期DoLLSのメンバーですら呆気に取られたほどである。

「うろたえるな!!相手が技量の面で我々に劣らないというだけに過ぎない!こっちも全力で行く!一斉射撃開始!!」

ヤオの指示が飛び、次の瞬間我に返った全員がYF-19に向けて一気に攻撃を開始する。
グレネードランチャーの模擬弾が炸裂するが、相手はそれらをスレスレで回避し命中判定を示す染料は演習場にぶちまけられていく。

『グレネード、回避され続けてます!』
「構わない!撃ち続けてこのまま牽制を!」

撃ち出される搦め手のグレネード弾が回避され続ける中、ヤオはそのまま指示を出し続ける。

(あれだけの至近距離で炸裂しているのに飛び続けられるって反則なんてものじゃない!)
『敵機、リニアキャノンの射程に入る!』
「!! 今だ、撃てっ!」

YF-19を捕捉したフェイスのX-7が、次の瞬間リニアキャノンを放つ。
誘導弾の様な追尾能力こそ無いものの、超音速で放たれた弾丸はそのまま吸い込まれるようにYF-19の胴体に命中し、機体をペイントで染める。
直後、バランスを崩したのか大きくフラついたYF-19はあさっての方向に飛んでいくのが見えた。

「あちゃあ……致命傷だったかな?」
『勝った事は勝ったみたいですけど……』
『やり過ぎたかな?』
『死んでないといいですが』
『縁起でもないこと言わないでよ……』

土煙が上がり続けている方向を見てDoLLSのメンバーは口々に呟くが、少なくとも自分たちは勝ったと思っていた。
そして誰もが忘れていた。

勝利したなら判定が出た上で戦闘終了が告げられることを。
裏返せば、相手と接触したときのインパクトと驚くほどあっけない勝利でそれ以外頭に無かったという事なのだろう。

「やるねぇ……悪いけどさ、まだ終わってないんだぜ!」
「な、この声は!?」

次の瞬間、DoLLSメンバーではない声が彼女達の会話に割りこんで来たと思いきや、フェイス機のコクピットに接近警報が鳴り響く。
咄嗟に大きくバックステップしたフェイスだが、土煙の中から飛び出した影を見てわが目を疑った。

「人型ぁっ!?」
「やってくれるじゃないのよ、特にそこの奴!!」

右手の周りの空間を大きくゆがませた、X-5シリーズより大きい人型が突進してくる。
冷静なフェイスをして、その光景は軽くパニックを起こさせるものがあった。

「ちょっと、さっきのリニアキャノンによるダメージはどうなってんだ!!」
『わずか……いえ、最終的な数値は終了後に出しますが戦闘に影響を与えるほどではありませんでした』
「な!?」

審判を担当するオペーレーターにあっさり返されたフェイスは思わず目が点になる。
一方その光景を目にした他のメンバーも口々に驚きの声をあげていた。

「全高15メートル以上……X-7からすれば倍以上の相手だったなんて!」
『ど、どうしましょ……』
『油断したわね。こうなったら数で押すしかない!』
『相手も人型ってのなら機動力はこっちと変わらないはず!』

いきなり土煙の向こう側から現れたバトロイド形態のYF-19に度肝を抜かれたのはフェイスだけではない。
ヤオ、セルマ、フェイエン、エイミーといった参加している全員がそうだった。

しかし、まだ数の上で優勢を保っていることが彼女たちの士気を維持していた。
すぐさまYF-19を包囲するようにフォーメーションを組んで攻撃を開始する。

その返礼は、最初の一撃を回避したYF-19のガンポッドによる一連射だった。
高初速で放たれたペイント弾は、一番近かったフェイスの機体に命中しその上半身がペイントで染まる。

『DoLLS07(フェイス機割り当てのナンバー)、上半身全損及びパイロット死亡判定。戦闘不能』
「なんて火力よ……!」
『数発当たっただけで、X-7の上半身を吹き飛ばすなんて……』
「今の……長銃身の35mmガトリング?だとしたらリニアキャノンとほぼ威力は同等って事か……」

ヤオは内心呟く。
戦車砲並みの威力を持つガトリング砲と言うのも非常識だが、それと同等の威力を持つリニアキャノンの直撃に耐える装甲を持つ戦闘機と言うのも非常識だ。

だが、文句は言ってられない。

「全機散開、ビーダンスパターンで一撃離脱に徹しろ!!」
『『了解!!』』

すぐさま、陣形が包囲から散開型へと変わる。

「そう来るならこっちはスピードで攻めさせてもらうぜ!こういうときは各個撃破というのがセオリーだろ?」

その動きを見たイサムも、YF-19を加速させ一気に突っ込む。
脅威度の数値がモニターに表示され、それを見てまずどの機体から戦闘不能にするかを判断する。

この場合、指揮官機を潰すべきだがやはりそこにたどり着くには数を減らすことが重要だ。
指揮官機は最初にDoLLSが待っていた開けた平地から、市街地を模した場所に移った。

最後の戦場はあそこになるだろうと思いながら、イサムは次の攻撃を繰り出した。

「遅い、そこだ!」
『え、ちょ、待って……こっちは心の準備が……』
「こっちは全力だ!待った無しで行くぜ!」

その餌食になったのは、親友であるフェイスの撃破判定に呆然としていたミリィとすぐ隣にいたエイミーの機体だった。
とっさの判断でミリィ機を突き飛ばしたエイミー機だったが、YF-19によるガンポッドの射撃をモロに受けることとなる。

『DoLLS11、脚部ユニット全損及び腰部・下半身フレーム部損壊判定。移動不能』
「このぉ!」

ミリィの機体がYF-19に向けてアサルトライフルを放つが、弾丸は相手の高機動性を前に全て回避される。
それ以上に彼女を驚かせたのは、照準機能が繰り返す「error」の文字。

「速すぎて捉え切れない!照準システムがパニックしているなんて!」

ミリィはモニターのデジタルフレームがコマ落ちしているのを見てAIがパニックしているものと思ったが正確には違った。
X-7のセンサーとAIはYF-19の動きを正確に捉えていたが、標的を撃つに当たって自身がどの様に動き、出力をコントロールしバランスを取るか動力系統へ伝達するまでにロスを生じさせてたのである。

流石のミリィもこれには焦った。
いや、フェイスがあっさりやられたのも道理だ。

だが、彼女も第一期DoLLSの一員である。
すぐさま射撃システム系統のAIを落とし、マニュアルモードに切り替えての射撃に入る。

同時にライフルのモードをフルオートから三点バーストに変更し、無駄弾を減らす策をとった。
リニアキャノンでもまともなダメージを与えられなかったが、ダメージが蓄積すればという意図がそこにあった。

高速機動でYF-19が迫ってくる。
その時、一瞬YF-19の動きが止まった。

『まだ、死亡判定は出てない!これで!!』
「うおっ、いきなり背後からってのは酷いんじゃないのかい?」

YF-19が止まった原因、それは両足が全損の判定を受けたエイミー機からの射撃だった。
移動こそ出来なかったが、まだ上半身と腕部、各種装備は無事だった為彼女はペナルティが出るかもしれないという覚悟でミリィへの援護射撃を行なったのである。

これに対して、イサムの方はガンポッドの連射で礼を返した。

今度こそ「上半身完全喪失。パイロット死亡並びに戦闘不能」の判定が全員に知らされることとなる。
ペナルティは課されなかった。

一方、ミリィの方はその隙をついてX-7を突っ込ませ、射撃をお見舞いする。
後ろに気を取られたYF-19には至近弾が命中したがオペーレーターからの報告で「与えたダメージは軽微」というのを知るとガッカリした表情を浮かべた。

「やっぱり、ダメかぁ……」
「そういうこった。せっかくだから『ああ、今回もダメだったよ』と言っておくぜ」

次の瞬間、イサムからの通信が入ると同時にメインモニターがペイントで染まった。

『DoLLS08、頭部及び両腕部喪失。コクピットのダメージはコンソール部損壊及びパイロット重症判定』

以上がミリィ機に関するオペレーターの報告だった。

「……うちの若手エース三人が離脱とはね……」
『ミリィ達ですら足止めにもならなかったとは……』

市街地エリアに移動したヤオ達は何とか陣形を組み直し、アンブッシュ戦術を取ろうとしていた。
ミリィ、フェイス、エイミーの若手組エース三人を持ってして足止めが良い所であったと言うのは、DoLLS側としては想定外の出来事ではあった。

「セル、あの子らは何とか足止めにはなったわ。彼女らが少しでもダメージ食らわしてないと、こっちは戦力分散になってた所よ」
『そうですね……』

突発的事態に弱いセルマを正論で諭し、ヤオ達は対策を考える。

『で、どうするのよあのチートな可変戦闘機。いっそのことグレネードで落とし穴でも掘って落とす?』
「却下(1秒)」

ジュリアが冗談めかして言った意見を、思わずヤオはずんばらりんと切って捨てる。

『多分、アレは人型と戦闘機型の中間形態も持ってるわよ。落とし穴程度ならホバリングで避けるわ、多分』

ファン・クァンメイの言葉に、ヤオは頷く。

「MBT以上の装甲に第4世代ASの機動性。PLDと同等の火力……。しかし何か弱点はあるはず……。落ち着けヤオ、何か有る」

内心ヤオは呟きながら、YF-19の弱点を必至に探す。
その時、今回の模擬戦でヤオに次ぐサブリーダーを担当するフェイエンが口を開いた。

『隊長、お考え中のところ申し訳ありませんが、我々は重要なことを忘れてはいませんか?』
「どういうこと?」
『最初に我々が確認した数は2機いました。ですが、我々はたった一機によって翻弄されています。だとすれば、もう一機はどこにいるのです?』
「あ……!」
『もし残り一機がこの市街地エリアで新たに加わって二機同時に攻撃を仕掛けてくる可能性も想定するべきです』

この時、ヤオの心境は「完全に失念していた」というものだった。
まったく攻撃してくる気配が無いから彼女も目の前のYF-19についてしか考えてなかったのである。
もし、まったくダメージを受けてないもう1機がここで加われば自分たちは本当に「全滅」の判定が下るのも覚悟しなければならない。

だとしても、今はこうしている間に着々と近づいてくるあの機体に対処するのが先である。
その時、ヤオの頭にあるアイデアが浮かんだ。

「あれだけの機体なら、相当数の精密電子機器を詰んでいるはず。スタンポッドで動きを止めてしまえばなんとかなるかもしれない!」
『ですが、一方で耐電シールドを備えている可能性も想定しておいたほうが』
『だけど手段としては、先輩が言う様にそれしかないみたいですね。問題は、あの機動性を前にどうやってそこまで肉薄するかです』
「やはり、どこか開けたところで包囲陣を強いてそこで集中砲火を浴びせた上で足止めするのが上策か……」
『もう一機の機体についてはどうします?』
「この状況でまだ上空にいるなら、まだ攻撃を仕掛けるつもりじゃないということだから無視していいと思う。今はあの機体をなんとかするのが先よ」
『そうですね……とりあえず、最終的に迎え撃つポイントとしてはここが最適と思われます』

フェイエンが提示したのは市街地エリアの中心に近い開けた場所である。
ここならば、建物の影に隠れての攻撃も仕掛けやすく同時にそこそこの広さなので罠を張るにも適していると思われ、ヤオもここで迎え撃つことに同意した。

迎撃ポイントの指示が生き残っている全機に伝えられた直後、相手が市街地エリアに接近しているとの連絡がエリア外周に展開するメンバーの機から入ってくる。

「来たわね。総員敵機を当初の迎撃ポイントに誘導する。攻撃及び撤退については各自の判断に任せる。以上!」

ヤオからの通信後、生き残っている全機から「了解」の返事が届く。
同時に、ヤオ、セルマ、フェイエンは迎撃ポイントである市街地エリアの広場に移動した。

同じ頃、市街地エリアの外周付近では警告を発したジュリア、マーガレット、エレンの三人がトラップを設置していた。
第一期DoLLSメンバーの二人に4thDoLLSのエレンが加わっているのも奇妙な編成だが、これは市街地エリア外周を索敵するマーガレットとエレンの機体をジュリアがカバーするという形になった為である。

また、今後は日本連合を始めとする融合世界出身のDoLLS隊員も加入するであろう。
その前に第一期DoLLSと4thDoLLSの間に残る100年間のギャップを取り払う意味もあり、こういった編成が意図的に組まれるようになっていたのだ。

「設置終わった?」
『大丈夫、模擬とはいえこのトラップに引っかかれば相当のダメージを与えられる筈よ』

マーガレットが設置したのはビルに挟まれた通りの一つに張られたワイヤートラップである。
高さ的にはX-7の身長より高い位置にあり、YF-19の人型形態からすれば丁度胸の高さぐらいだ。

『ですが、本当にあの可変戦闘機が人型のまま来るのでしょうか?』
「飛行形態で来るならもうとっくに来ているし、そうだとしたら他の場所からも戦闘が始まった事を知らせる通信が入るわよ」
『フェイス達3人がやられたポイントから一番近いのはここだから、賭けるしかないわね』

エレンの言葉にジュリアとマーガレットは言葉を返す。
その直後、こちらに接近するエンジン音が響いてくる。
どうやらお目当ての相手が来たみたいだ。

「それじゃ、予定通りに……」
『参りましょうか』
『そうですね』

トラップを仕掛けた地点から市街地エリア側に数十メートル入った地点へ彼女たちは布陣する。
予定ではトラップにより撒き散らされたビルの破片を敵機であるYF-19に浴びせ、相手が怯んだところをアサルトライフルとグレネードの一斉射撃でしとめる手順だ。

ホバリングしているのか、ずいぶんと軽快な音を立てている。
だが、それもここに到達すれば……。

「あれ?」
『何で?』
『爆発しませんね……?』

おかしい、エンジン音が響いてきているのに爆発音は響いてこない。
もしかして不発だった?とマーガレットは思ったがすぐその考えを否定する。

模擬戦で使用する装備品は何度もチェックしていたはずである。
万に一つのミスも無かったはずだ。

聞こえていたエンジン音が途切れたのはそのときだった。

(まさか、気付かれたか?)

マーガレットにすれば、X-7の探知機でも精度を高レベルにしなければ感知できない特殊ワイヤーを仕掛けていたのだから気付かれないという自信があった。
だが、相手がとんでもなくチートな性能ならセンサー類も「そういうモノ」だと考えるべきでは無かったかと同時に思う。

「動きが無いわね……?」
『どうする、こっちから行ってみる?』
『それしかないでしょうね。このまま待っていても事態は好転しませんし』

未だにエンジン音が響いてこないのを怪しみ通りの側に移動したジュリア達三人だったが、直後彼女達は信じられないモノを見ることになった。

「戦闘機に手と足が生えてる?な、何なのよあれ!?」

そこにいたのは、想像していた人型形態の機体とは似ても似つかぬ存在。
まさにジュリアが言うとおり、始めて見る人間なら目が点になる代物だった。

『かっこわる~』
『流石にこれは……』

ジュリアに続いてマーガレットとエレンも思わず脱力してしまう。
だが、それも長く続かない。

目の前のYF-19がエンジンを始動させると急発進してきたのだ。
その光景に三人は度肝を抜かれる。

『DoLLS02より06・09・12!奴さんは戦闘機から変形するのよ!中間形態ぐらいあって当然よ!!』

唖然とする三人にファンからの通信が入る。

『至急退避しなさい!』

と、言いながらファンはスナイパーライフルを構え、ジュリア達にグレネードをばらまきながら逃げるように言う。
ホバリング移動なら、下からの衝撃に弱いはずだと言う確信があったのだ。

しかし、三機が動くより先にYF-19はその戦闘機と人型の中間にであるガウォーク形態のまま一気に建物の壁を駆け上げるように上昇し、途中で人型に変形すると三機の前へと出る。

「きっ、来たあっ!!」
『あ、あわわわわわっ!』
『間近で見るとこんなに大きいなんて!』

いきなり自分たちの前にX-7より遥かに大型の機体が現れたことで三人は軽いパニックに陥る。
その状況を破ったのは、マーガレットによるアサルトライフルの一連射だった。

『DoLLS02より09!バカッいきなり撃つな!狙いが狂う!!』

ファンによる叱責で射撃が止まる。
スナイパーライフルによる射撃は、YF-19が人型形態で背を向けたことで絶好のタイミングをとった筈だったのだが、マーガレットの射撃による流れ弾がファンの方向に飛んできたことで射点が大きくずれたのである。

「今回の模擬戦は味方からの攻撃を受けてもダメージ判定が出るのを忘れたの……え!?」

ジュリアも射撃を制止させようとして、自分の機体にダメージ判定が出たのに驚く。
スクリーンには「DoLLS06、右胴体部にレーザー命中。フレーム損傷度小破、運動性能2.5%低下」との判定が表示されていた。

それがYF-19の固定武装であるレーザー機銃であると気がつくのに数秒の時間を有した。

「余所見をしている余裕があるのかい?こっちは宣言したとおり全力なんだぜ!」

その事に驚く間もなく、YF-19のパイロットから通信が入るや即座にレーザー機銃が放たれた。

「くうっ、なんて火力よ!何発も当たったらダメージの蓄積が半端じゃないわ!」
『まったく、トラップよけたと思ったらどんだけチートだってのよ!!』
『気をつけてください、まだ撃ってきます!!』

エレンからの通信に反応したジュリアとマーガレットの機体がそれぞれ左右に飛びレーザーを避ける。
一方、ファンは再びスナイパーライフルを構え射撃姿勢に入るものの、YF-19も警戒しているのか先ほどからジュリア達に攻撃を加えながら自身も動き回っている為、狙いがつけられないでいた。

(一体どうすれば……そうだ、あれならば!)

次の瞬間、彼女の中で閃くものがあった。
気休めにしかならないだろうと思いながらも、現状でやれる最善の策。
ライフルの狙いを外し、彼女は別の装備を発射することとした。

「一体このまま逃げ回ってもどうにも……ってまたダメージ判定!?」
『こっちもアイツの銃で撃たれまくっているわよ!一発当たっただけで左腕損傷よ……エレン、そっちは?』
『頭部メインカメラを吹き飛ばされたとの判定です。サブに切り替えましたから移動はできます!』

同じ頃、YF-19と対峙していたジュリア、マーガレット、エレンの搭乗機はそれぞれ大なり小なりの損傷を受けながらも致命的なダメージを受けずにいた。
だが現状は押されっぱなしでうっかりビルの間から身を晒せばレーザー機銃とガンポッドの餌食になりかねない。
どうにかして、一度離脱し立て直しを図りたいがそれも難しかった。

何かいい方法は無いかと思っていたところ、煙をたなびかせて複数の物体が飛来する。
その速度は誘導ミサイルとは思えないほどゆっくりしたものだった。

「ミサイルか?じゃあ、先にそっちを撃ち落しますか!」

イサムもそれに気がつくや、ガンポッドとパルスレーザーをそちらに向ける。
ガンポッドの銃弾はあっさり命中しそれらのミサイルと思しき物体を破壊した。

次の瞬間、大量のチャフと煙幕が周囲一体に拡がる。

「ありゃ、こいつは煙幕だったってことか。参ったね……」

先ほど破壊したもの、それはファンの機体に装備されていたスモークディスチャージャーより射出された煙幕弾だった。
ジュリア達が離脱する為の時間稼ぎの手段として彼女が用いたのがこれだったのである。

『早く、こっちへ!』

ファンからの通信が三人の機体に入る。
三人がモニターを見ると、煙幕の中でも脱出できるようにレーザー誘導が同時に行なわれていた。

即座にファンの誘導する方向へ大急ぎで離脱する3人。
しかし、YF-19が彼女たちを追撃してくることはなかった。

「やっぱ分の悪い勝負だったのかしらね?今回のって」

戦域を一旦離脱した四人は市街地エリアでも高層ビルの立ち並ぶ区画へと移動し、今後を話し合うこととした。
そんな中で最初に口を開いたのはジュリアだった。

『とはいえ、勝負を申し込んだのはこっちだしねぇ……で、どうするの?』
『トラップ戦法はもう使えないし、本隊と合流するには距離が少しあるわね……』
『一度は振り切ったと言えど、相手の性能を考えれば追いつかれるのは確実です。いつまでこうやって隠れていられるか……』

他の三人もこれといった案は思いつかない様だった。
ヤオ達が迎撃する為に待ち伏せしている区画までの距離は移動できない程ではないが、マップを見ると自分たちの姿を相手に晒すことになる。
しかも、四人の乗るX-7の内ファンの機体を除く3機は損傷の判定が出ている為、合流できても戦力となれるのか疑問があった。

ここまでの情報を総合すると、やはりここで迎え撃つしか無いというのが彼女たちの出した結論だった。
だが、ここで戦ったとしても半壊状態ではどこまでやれるかわからない。
それでも本隊があの機体と戦う際に有利となる何かを残せればという思いが彼女たちにあった。

「そうだ!思い出したけどエレン、そっちの機体に搭載している情報収集システムってまだ生きてる?」
『ええ、サブカメラしか生きてないので収集できる映像情報は限られていますけど、それ以外は無事です』
『一体何考えてるの……?』

ジュリアの言葉に自機の状態をチェックしながら返事をするエレンと首をかしげるマーガレット。
一方、ファンはジュリアが何を思いついたのか判ったという表情を浮かべる。

「悪いけどさ、先に本隊と合流してくれない?そして既に収集したデータを皆に渡して欲しいのよ」
『なるほど、考えることは同じってことね』
『つまるところ、私たちはエレンが逃げ切るまでの時間稼ぎってことか……やってやろうじゃないの!』
『ちょ……ファン中佐にレイバーグ少佐?本気で言ってるんですか?』

その会話を聞いていたエレンが慌てて話に入ってくる。
要はファンとジュリアの二人が足止めをして、自分がその隙に本隊と合流して対策を立てろと言う事なのだ。
だが、すでに武器をいくつか失ってるジュリアと、武装が高機動戦向きではないファンでは正直それは「特攻」に近い。

『まぁ、あんたの言いたい事は解るけどね。このままだとみんな共倒れよ?』

ジュリアがモニターの向こう側で笑みを浮かべて答える。

「今後、うちも想定外の化け物相手にしなきゃいけないことがいくらでもあるのよ?人間相手の戦争とはわけが違うんだから今回の一件は良いチャンスかもしれないわ。まぁ、戦死者ゼロとは行かないのが屈辱だけど……」

ファンも今回はむしろ想定外の化け物相手の戦闘を考えるいい機会だと思っていた。

対特機(スーパーロボット)相手の戦闘もいずれはあり得る。
いつまでも自分達と同じサイズの機体を相手にすると考えることを捨てるべきだ。

「そういうワケなんで、先に本隊へ合流し貴重なデータを届けて欲しいのよ。これは命令よ」
『……了解しました。自分はこれより任務を果たします』
『私も残った方がいいかな?』
「いいえ、マーガレットは彼女の護衛をお願い。あなたの機体も左腕が破壊されている以上戦力としては期待できないから……」
『了解、それなら私も離脱するわ』

エレン機とマーガレット機がその場から離脱した数分後、先ほどの戦場だった方向よりあのエンジン音が響いてくる。
あのバケモノじみた性能を誇る機体が来たのだ。

「来たわね……それじゃ、打ち合わせどおりに」
『任せて、そっちも上手くやってよね。頼むわよ』

短い通信を交わした二人はそれぞれの持ち場につく。
いや、正確にはファンが所定のポイントに移動し、ジュリアはその場に留まっていた。

「反応は二つ……一つが正面でもう一つは移動中か。大方挟み撃ちにするつもりなんだろうけど、その前に正面から叩くことにするか!」

センサーの反応を確認しながらイサムはYF-19をガウォークからバトロイド形態に変形させ、そのままジュリア機のいる場所に向かった。
一方のジュリアは、その姿を確認するやX-7の固定武装である煙幕弾を放つ。

「また煙幕か、そう何度も同じ手が通用するわけないのにねぇ……。今度は、こっちから突っ込ませてもらうか」

そのまま前進するYF-19。
予想通り、煙幕を抜けた向こう側にジュリア機の姿は無かった。

逃げられたか?と思うより早く射撃音が響いたのはその時である。
頭上から響いてくる爆発音、見るとグレネード弾が何発も飛来してくるではないか。
しかし、それらを前にしてもイサムがその場を離れることは無かった。

「何処狙って撃っているんだ……?」

彼がそう思ったのも無理は無い。
飛んできたグレネード弾はそのいずれもYF-19が背にしているビルの屋上に叩き込まれたのだ。

しかも、派手な爆発音が上から響いてくる。
ペイント弾を使用すればあんな音はしない。
大方持ち込み可能な弾数が設定されている障害物破壊用の実弾を用いたのだろう。
だが、建物を崩すには爆薬の量が少なすぎる。

だとすれば、一体何の目的であんな事をしたんだ?
イサムがそう思いながらグレネード弾の飛んできた方向を見ると、ジュリアのX-7がアサルトライフルとグレネードランチャーを手に突っ込んでくる姿が見えた。

「おいおい、今のは陽動のつもりかよ!?そっちの意気込みはいいけどよ。ちょっとばかり無謀すぎないか?」

飛んでくる弾を最小限の動きで回避しながらもイサムはジュリアの意図が読めないでいた。
恐らくは時間稼ぎのつもりなのだろうが、それにしては今までの機体とは明らかに動きが違いすぎる。

『評価してくるのはいいけど……こっちにはちゃんと策があるってのよ!!』

弾切れしたグレネードランチャーとアサルトライフルを投げ捨て、そのままYF-19に向かって突っ込んでいくジュリアのX-7。
しかし、特攻というにはまだ間合いが遠い。

『機動性で後れを取るなら……こういう手を使うのよっ!!』

次の瞬間、小さな爆発音と共にX-7の装甲が弾け飛び、フレームをむき出しにしたジュリア機がさらに加速する。

直後、駆動系統の数値が異常なものとなり「危険状態」を意味するレッドアラートがモニターに表示され、模擬戦の違法行為を警告する音声とは異なるブザー音が鳴り響く。
しかし、それでもジュリア機の突進は止まらず更に加速する。

「やるねぇ!そういう手があったのは驚いたぜ!」

イサムもジュリアの小細工も何も無い正面からの突進に感心するが、あわてる様子も無くガンポッドを放つ。
そのペイント弾を寸分で交わしながら距離を詰めるジュリア機。

「あと少し……っ!もらった!!」

最後の一発を避け切った直後、ジュリアは機体を出力限界点で跳躍させそのままYF-19の頭上まで飛ぶ。
脚部のアクチュエーター、人口筋肉、シャフトがこの時点で強度限界を超えて損傷したが、今の彼女にとっては無視していいことだった。

「これが、こっちの奥の手よ!」

ジュリアのX-7はそのままYF-19の頭上を飛び越えその背中にしがみついたのである。
相手の変形を封じ込めると当時に、動きの自由を奪うのがジュリアの狙いだった。

「くそっ!まさかこっちの背中をとるかよっ!」
『ファン、今!』

そう長く現状維持できないと分かっていたジュリアはそのまま、ファンに指示を飛ばす。
一方のファンは、すぐにスナイパーライフルをYF-19とジュリア機のいる方向へ向ける。

しかし、そのモニターに映るのはYF-19ではない。
それでもファンは当初の計画通り狙撃を実行した。

ライフル弾がその目標に命中した直後、その下にいたYF-19とジュリア機にいきなり液体が降り注ぐ。
液体の正体はただの水だったが、雨でもないのにピンポイントで水が降ってきたのには流石のイサムも驚かされた。

「なんだ?いきなり何が起こったんだ!?」
『どうやら、狙い通りだったみたいね……』

ジュリアは結果に満足すると、自分の機体をYF-19へさらに強くしがみつかせる。
再度、銃声と頭上での命中音が響くと今度は先ほどと違う異常な音が響いてきた。

そして、一際大きな破壊音が響くとビルの屋上で何かが転がる音が聞こえてくる。
屋上からその正体が僅かに見えたとき、流石のイサムも驚いた。

「ちょ、貯水タンクだとぉ!?」
『ざぁんねん、流石にあれが直撃すればそっちの損害判定もタダじゃすまないでしょ?』

これこそが、ジュリアとファンの狙いだった。
彼女達が障害物破壊用のグレネードやライフル弾を用いたのは、建物を破壊するよりビルの上にある貯水タンクをその架台から分離する為だったのだ。

中身を空にしたのは落下時の巻き添えを食うであろうジュリアへのダメージを減らす為であった。
最終装甲がまだ残っているといえど流石に水が満載された状態で落下させればX-7の損傷も馬鹿にならないとファンが判断したのである。

「参ったねぇ……使うつもりは無かったけど、“アレ”を出すかな」
『え?』

貯水タンクが二機の頭上目掛けて落下してきたのはその直後だった。
落下時の衝突音と衝撃が響き、同時に土煙が立ち昇る。

「成功したわね……」

恐らくこれで相手もタダでは済まないだろうと確信したファンは、自機を2機のいた地点へ向けて移動させた。
まだ相手に与えた損害判定は出ていないが、それも土煙が消えれば知らされるはずである。
だが、この場合彼女のとった行動は軽率だった。

この時マーガレットとエレンの機体がこの戦場に留まっていれば、YF-19がまだ強力な切り札を隠し持っていると分かったに違いない。
しかしその二名はこの場におらず、作戦が成功したことで気が緩んだのも無理は無かった。

大分土煙は収まってきたものの、まだ2機のいた地点は見えない。
確認の為、ファンはジュリアとの通信を開いた。

「ジュリア、無事なら返事をして……」
『…………』

返事がない。
だが、無線が通じているということは先ほどの攻撃で一緒にダメージを受けて気絶したのだろうか。

そこまで考えたとき、土煙の向こうから飛んできた機銃弾がファンの機体に命中した。
ペイントにより自機の右腕が染まった時、ファンは一瞬何が起こったのかわからなかったが損害を知らせる判定の通信が彼女を現実に引き戻した。

『DoLLS02、右腕肩部への被弾により右腕喪失』
「なっ!!」

銃弾の飛んできた方向からX-7より重厚な足音が響いてくる。
それが意味するのはただ一つ。
作戦が失敗に終わったということだった。

「冗談でしょう……」

背筋に冷たいモノが走るのを感じたファンは思わず呟く。
そして遂に、土煙の向こう側から徐々に足音の主が姿をあらわした。

ファン機の前には、無傷のYF-19がバトロイド形態で立っていた。
右腕にはガンポッドを構え、左腕でジュリア機を脇に抱えている。

その姿に呆然とするファンのもとへジュリアから通信が入ってくる。
同時に可変戦闘機のパイロットからも通信が入ってくるのが分かった。

『ファン……やっぱ甘かったみたい、こいつ無茶苦茶強いよ……』
「ジュリア……無事だった……」
「実戦ならまだしも模擬戦で仲間を犠牲にするなんて酷い奴だな。頭に来たぞ!」

イサムの口調はそれまでの軽口を叩いていたものから大きく変わっていた。
揺り戻し出現前、難敵であるゴーストをガルドに任せるしかなかった彼にすれば、非常時を除いて仲間を犠牲にするというのは受け入れられるものではなかった。

ジュリアの機体を地面に下ろすと、ガンポッドの銃口をファンの機体に向ける。
これに対するファンの解答は、スナイパーライフルを捨てて両手を挙げるというものだった。

要するに「降参」したのである。
ジュリアについては機体そのものが重大な損傷レベルだった為、無線で降参の意を示すまでもなかった。
最終更新:2012年09月08日 23:40