作者:こばやしみちとも氏&山河晴天

新世紀2年6月16日 午前0時15分 北海道美深町

「お会いできて光栄です、ヤオ中佐。私はあなたたちの時代から100年ほど経った時代の177特務大隊所属。ナガセ・マリ中尉です!」

光学迷彩を装備した首なしのPLDから姿を表したパイロットを、ヤオはぎごちなく敬礼しながら見るしか無かった。

「100年後のドールズって……」
「はい、にわかには信じてもらえませんかも知れませんが……」
「あんたが乗っているローダー見りゃ信じる気にもなるわよ」

ヘルメットを脱いだナガセの顔を見ながら、ヤオは溜息をついた。
いきなり地球に飛ばされたと思ったら100年後のドールズ隊員と出会う、とはねぇ……。

Super Science Fiction Wars Outside Story

Steel Eye'd ladies~鋼鉄の眼差しの乙女達


第2話 ファースト・コンタクト


「フォックスリードよりヒドラウィング。フォックスリードよりヒドラウィング。今ポイントから北へ10km地点で100年後のドールズ隊員というパイロットと接触した。光学迷彩を装備したステルスローダーに乗っている」
「こちらヒドラウィング、ハーディだ。こちらでも通信を確認した。すまないがその100年後のドールズとやらに連絡を取りたい。交渉のため出向いてもらえないか」
「了解。これの貸しは高くつくわよハーディ」
「判った、今度びょうきもちで奢るわよ」
「びょうきもち?判った。言っとくけどビール程度じゃないからね」

珍しく「女言葉」でハーディの苦笑する声がヘッドフォン越しに聞こえた。
軽い冗談が言える辺り、自分でも精神的余裕が出来てきているのかも知れない。

「そいじゃあ、ナガセ中尉。我々を100年後のドールズのところまでご案内していただけますかね?」
「喜んで。伝説の英雄を見られるとあれば、皆喜びますよ」

ナガセのローダー……実戦テスト中の試作機であるXD-10装甲隠密歩兵と言うらしい……は機体を起こすと先ほどの亜空間通信センターに向けて歩みを進めた。

「さすがに隠密歩兵とはよく言ったものね……足音がほとんど聞こえてない」

マルチセンサに映る情報を眺めながら、ヤオは一人その性能に感心していた。ナミが見たらもぉ涙流して喜びそうだね~。と心の中で付け加えたが。

「確かにそうですね……RRのパッシブソナーでも辛いんじゃないでしょうか?」

セルマも前を歩く機体の静粛性に驚きを隠せないようだ。
X4RRのすねの部分に搭載されているソナーは、歩兵の足音でも聞き分けると言うほどの高性能を誇っているが、XD-10の足音を聞いてもそれがPLDだと判断するのは非常に難しいことは容易に想像できた。

「あんまり変わって無いように見えるけど、やっぱり100年先、ってことなんでしょうかね」
「やっぱあんたもそう思う?」
「速度は遅いみたいですけど」

実際、目の前のXD-10は全速で走っているようだが、ヤオとセルマはスロットルを70%のところで絞っていてもすぐに追いついてしまうのだ。

「うーん……これじゃあ隠蔽性が高くても忍者とは言えないわねー」

ナガセには失礼と思うが、ヤオは内心つぶやく。
4,5分ほど歩いただろうか、森が開け、先ほど見えた亜空間通信施設の前にやってきた。
そこには、先ほどのPLD部隊が二手に別れて整列し、歴史上の英雄に対する敬意を表さんと敬礼していた。

『ようこそ、2600年代のドールズへ。ヤオ中佐』

その真ん中に立つ、褐色の肌をした黒人と中国系の特徴が混じった女性の顔が通信画面に映っていた。

『私がDoLLS隊長、フェイエン・ノールです』
「先輩より落ち着いていそうですね」
「どーゆー意味よ、セル」

さりげなく接触回線でセルマがからかってくる、とりあえず突っ込んでおくと、コクピットハッチを開け、機外に顔を出した。

「我々が……」
『存じておりますよ、ヤオ・フェイルン中佐。セルマ・シェーレ大尉。PLD戦術の教則本であなたたちの名前が載っていない本はありませんから』
「はぁ……」

自分たちがおそらくは死んでいるか、おおよそ今からは想像も付かない老婆になっているであろう時代の人間の言葉にヤオたちはただ頷くしかなかった。

「こちらもローダーに乗ったままじゃあ失礼ね。今降りるわ」
「アテンション!」

フェイエンの号令が夜空に木霊する。

「ハンド・サルート!」

ヤオとセルマ、おそらくは実際に会えるはずの無い人物二人を前にした30人を越える面々は一斉に最敬礼をする。

「お見事」

ヤオは手を叩いてフェイエンを賞賛した。

「ここまで鍛えるのは大変でしたよ。ジアス戦役が終わってから100年近く、大規模な戦争が無かったので……」

フェイエンは黙って苦笑する。
事実、軍人家系であった自分も実際にサイフェルトとの戦争が起きるまで、どこか抜けていたと思うところが多々あった。
それゆえに自分もなり手が居なくて半ば押し付けられる形で就任したDoLLSを率いて、ようやく軍人として足りないものを手に入れたような気がしているのだった。

「平和ボケ、と言われても仕方が無い問題児ばかりだったんですが……」
「DoLLS隊長はいつも苦労する、って所か」

ヤオの相槌に、フェイエンは苦笑する。

「総員、休め!」

直後、ざっ、と音を立てて全員が直立姿勢から体勢を崩した。



同時刻 北海道美深町上空 高度7500メートル

「ビンゴ!奴等を見つけた!」
『反応を見るとどうやら二手に分かれている様だな。出現後に分かれたか、或いは個別に出現したのか……』

ヤオとセルマが100年後のDoLLSと接触していたのとほぼ同じ頃、その遥か上空では東京から偵察に飛んできたイサムとガルドがDoLLSを捕捉し追尾を始めていた。
揺り戻し現場直前で一旦高度を10000メートルまで落とし、そこから更に降下してエンドレスエイトへ入った直後、2機の機体下部へ搭載した複合偵察ユニット「エレメント」が反応を示したのである。

「数は両方合わせて40ぐらいか……。ガルド、お前の機体でもう少し何か分かるか?」

イサムは隣を飛ぶガルドの搭乗するYF-21に通信を入れる。

YF-21はイサムのYF-19以上にハイテク装備が充実しており、機体に装備されたセンサーによる索敵能力も高い。
「エレメント」では収集しきれない情報を、親友が乗る機体の性能で拾えないかと考えたのである。

『こいつのセンサーか……なるほど、やるだけやってみよう』

パッシブな情報収集という点ではRC-135を超える情報収集・処理能力を持つ「エレメント」に及ばないが、アクティブな索敵能力でいけばAVFの機載センサーは段違いの性能を誇る。
それに「エレメント」は本来なら複座式のSR-Xで専属フライトオフィサが操作しなければいけない物なのだが、単座機のYF-19とYF-21にオフィサーシートを増設する余裕があるわけもなかった。
結果、今回はGGGのビッグオーダールームより遠隔操作する形での運用となり、イサム達の機体は事実上「運び屋」の役割であったのだ。

エレメントのパッシブな情報収集と合わせて、アクティブな情報収集もできないかとはガルドも考えていたのだ。
連中が何時の時代から現れたのか、はたしてどの程度の技術レベルなのかはわからないがやってみなければわからない。

「Hecteyes(ヘクトアイズ、偵察チームの識別符牒)からG3(ゲードライ、GGGの識別符牒)。アクティブサーチによる情報収集を試したい。エレメントの動作モードをアクティブ併用モードへ切り替えてくれ」
『了解しました。エレメントの動作モードをアクティブへ切り替えます』

ガルドの要請に応える命の声が聞こえると、彼の視界内部でエレメントの動作状況を示す表示が、YF-21の機載センサーとの干渉を防ぐアクティブ併用モードへ切り替わる。

「Hecteyes、モードの切り替えを確認した。これより探査を開始する」

そうガルドは応えると、YF-21の索敵をアクティブへと変更する。

直後、機体の各センサー類が地上への探査を開始した。
それらの情報は、BDIシステムの眼となる光学センサーが捉えた映像と共にガルドの脳内で視覚化されていく。

その中に、人型の物体が幾つも存在するのが確認できる。
しかし赤外線による熱反応の数値は、それが人間ではない事を示していた。

むしろ人間と同様の熱反応を発していたのは、人型の物体周辺に存在する更に小さな人型の物体からである。
ガルドが、それらを人型機動兵器とそのパイロットだと認識するのにそれほど時間は要さなかった。

「どうだ、何かわかったか?」
『ああ、地上の反応は人型機動兵器だ。恐らくレイバーやWAPに近いサイズだ』
「なるほど……パイロットらしい連中の反応はどうだ?何話しているかとか分かるか?」
『この高度では無理だな。そこまで調べるならば更に降下する必要がある』
「確かに無茶だな……。音でバレる」

幾らアクティブステルス機のAVFといえど、今は音速以下の速度で飛んでいる。
その状態ではエンジン音を聞かれる可能性が高いし、目標の部隊が高度な索敵技術を持っていた場合は簡単に探知されてしまう可能性があった。

コソボ紛争の際、米軍のF-117ステルス機がロシアの対空ミサイルS-125「ペチョーラ」で撃墜されてしまったのも「音」の存在があったからと言われている。
どうしたらいいものか……としばらく考えたイサムの脳裏に、ふとある事が思い浮かぶ。

「HecteyesよりG3。エレメントは機体からの電源供給切った状態でならどれぐらい動ける?」
『え、ええ?一体何を……失礼しました。すぐ確認を取ります……』

イサムからの意外な一言に思わず戸惑った命は、すぐに獅子王博士へと確認をとりはじめる。
3分後、返答の通信が入る。

『こちらG3、獅子王じゃ。技研からの情報だと大体60分は内蔵電源で動けるようじゃぞ。何を考えとるのかねイサム君?』

獅子王博士の怪訝な顔が通信画面に映る。

「ま、俺にいい考えがあるんですよ。ガルド、エンジン切るぞ」
『なるほど、そういうことか。了解した』

イサムが何を言いたいのか察したのだろう。
ガルドも頷いてみせる。

そして、次の瞬間YF-19とYF-21はほぼ同時にエンジンを切ると、そのまま降下してゆく。


一方、ビッグオーダールームではいきなりの事に誰もが慌てふためき、状況を見守ろうとする。

「現在の2機はどうなっている?」
「YF-19,YF-21共に滑空状態のまま、降下を続けています!現在高度6800!!」
「思ったより随分ゆっくりとした降下じゃな……しかし、何をやるつもりなんじゃ?」

レシプロ機ならまだしも、ジェット戦闘機の形状ではエンジンを停止すると、失速してそのまま墜落するのが普通である。
滑空しながら降下しているだけでも奇跡に近い。

GGGでその様子を見ていた誰もが、地上に激突すると思っただろう。
だが、2機が5000まで高度を下げたとき、それは起こった。

「降下が止まりました!現在は……え、えええ!?これ、どういうこと……?」
「何があったんじゃ?降下が止まったらエンジンを再起動しただけじゃろ」
「2機ともエンジンは停止状態のままデス。でもゆっくりと高度を上昇させてマース!」
「映像を出せるか?」
「はい、両機の外部カメラとリンクしてスクリーンに出します」

直後、命の操作でスクリーン上に2機の様子が映し出される。
その映像を見た誰もが、驚きの表情を浮かべることとなった。

どういうことなのか、二機は降下するどころか緩やかな角度で上昇している。
まるで上昇気流に乗ったグライダーのようだ。

「なんと、こんな芸当ができるとは……」
「戦闘機が風だけで飛んでる……じゃと?」
「凄い……本物の鳥みたい……」
『驚きましたか?これが「竜鳥飛び」って奴ですよ。昔、人力飛行機作ってた頃に考えた飛び方でね。ちょっと小細工するとAVFならできる技なんです』

呆気にとられるGGGビッグオーダールームの面々へ、さぞかし可笑しそうにイサムは笑って見せる。

『これでなんとか下の連中の会話まで拾えるかもしれないんでね。しばらく無線封鎖します!』

イサムの通信が終わると同時に映像が消え、レーダースクリーンが表示される。

「あの様子なら、心配ないだろう……オペレーター、引き続き両機の状態をチェックしてくれ!そして情報の収集と分析も続行!」
「りょ、了解しました!」

まだ誰もが、自分たちの見たものが信じられないという表情をしていたが、それも大河の一言で全員が普段の調子に戻る。
メインオーダールームはまた、あわただしくなり始めていた。


通信後、気流に乗ってほぼ無音に近い状態で低速飛行を続けるイサムとガルドの機体は、そのままエンドレスエイトの状態で緩やかに降下していた。
無線封鎖しているため、意志の疎通も出来ないはずだが、それでも両機は阿吽の呼吸でほぼ同じタイミングで風を掴み並列飛行を続けている。

(どういうことだ……?)

そして、降下するうち地上の様子がおかしい事にイサムは気付く。
高度計の針は既に3000を切ろうとしているのに、建造物近くにいる一団とそこから離れたところにいる一団のいずれもが自分たちに気付いている様子が無い。

もう何度も出現した一団の頭上を通り過ぎているにも関わらず、対空火器を向けるどころかレーダーで感知した素振りすら見せてない。
この高度ならば、相手のレーダーなり光学センサー辺りで引っかかってもおかしくない筈なのだ。

無線封鎖を解くか?と思ったとき、隣を飛ぶYF-21から通信が入ってくる。

『イサム、おかしいとは思わないか?』
「やっぱお前もそう思うか?」

どうやら、ガルドも同じ事を思ったらしい。

『もういい加減気付かれてもおかしくない頃だと思っていたが……いや、原因はこいつ等か』
「こいつ等……なるほどね。こっちも確認したぜ」

何かを発見したのだろう、ガルドの表情が変わる。
イサムの方もエレメントが、地上の一団と異なる反応を示したのを見て納得する。

新たな反応のIFF信号はレッド。
明らかに「敵」であることを表している。

『拙いな……。こいつはヤバい連中が来ている。規模と熱反応から話に聞いていた「赤い日本」の戦車部隊だ』

まずそうだ、といった表情のガルドを見て、イサムも表情を強張らせる。

「連中はそっちに夢中でこちらはとりあえず無視してるって所か?」
『多分な。或いは、本気でこちらに気付いてない可能性もあるが……』

とりあえず、一端偵察を打ち切り機体を上昇させようとしたその時、エレメントが複合偵察ユニットの名に恥じない情報を掴んだ。
直後、イサムはGGGへと通信を入れる。

「HecteyesよりG3。エレメントが地上の一団による通信のやりとりを捕捉した。そっちに回すぞ!」
『G3より獅子王じゃ。よくやってくれたが、2,3分待ってくれ。こっちでもそうなるだろうと思って今SCEBAIからAYUMIを借りる話をしておったんじゃ』

獅子王博士が、慌てて返答してくる。
恐らく、通信データのデコード(解読)を行なうのだろう。
暫らく待つ間、通信ウィンドゥの向こう側から喧騒が聞こえてくる。

そして、きっかり3分後。

『こちらG3、解読及び内容を確認しました!同時にこちらでも通信データの保存を開始!』

通信ウィンドウに映る命の表情は緊張と驚きに満ちている。
どうやら、通信を捉えられた上に短時間で解読できたのが予想外だったのだろう。

「HecteyesよりG3、データの収集をこのまま続行する。通信の出所も確認した」
『G3、了解です』

GGGと連絡を取りつつ、デコードされた通信内容にイサムとガルドは集中する。

“フォックスリード、ヤオ。どうしたの?”
“こちらヒドラウィング、ハーディ、厄介なことになった。こちらに2個戦車中隊がやってきている。申し訳ないが大急ぎでこちらに戻ってきてくれないか?”
“見つかったの?判った。10分以内でそっちに戻る”

「驚いたな……女性のパイロットかよ……」
『連中も既に気付いていたか。どうやら、こちらも同様らしいな……HecteyesよりG3、地上からの音声を確認した』
『了解、そちらもエレメントでも収集したことをを確認済みです』
「ガルド、そっちの方も成果ありか」
『ああ、お前に聴かせてやれないのが残念だがこちらも女性の声だ』

時を同じくして、ガルドもYF-21のセンサーで地上の音声を拾っていた。

“大変です!所属不明の戦車部隊が接近中!”
“IFFコード・識別レッド。ですが……見たことも無い形式ばかりです!”

センサーを通じて聞こえる女性の声はスピーカーで増幅されているのだろう。
他の音声は聞こえないが、その声だけははっきりと聞き取れていた。

ちなみにガルドの言葉に対するイサムの返答は「一言多いってんだよ!」だったと記しておく。
最終更新:2011年01月05日 22:20