作者:こばやしみちとも氏&山河晴天

新世紀2年7月6日 13:25
東京都新宿区市ヶ谷 防衛省技術研究所第8研究室

「あんですとぉーっ?」

蓮田の奇声が研究室に響いた。
航空機開発局から来た一通の提案書がこの奇声の原因である。

『電子戦略偵察機「XSR/F-1」開発第一素案』

周回軌道上の偵察衛星では限界がある戦略偵察の為、機体そのものの研究は昨年末から始められていた。
そして、航空自衛隊による戦略偵察機の開発が決定したのは今年4月、最近になってまとまった要求仕様が発表されたのである。

「大気圏内航続距離無限大、最高速度高度1万メートルでマッハ4以上、高度1000メートル以下でマッハ1.5、アフターバーナーなしで巡航速度マッハ2.5以上、失速速度300km以下……化け物ですかこれは?」
「今、わが国にある技術を総動員すれば作れなくもないですよ、TDFとMATもようやく全面協力を申し出てくれましたしね」

そう蓮田に答えたのは、堀越二郎。
融合前の世界であの「零式艦上戦闘機」を作り出した日本航空機史上に名を残す技術者である。
融合当初は超音速戦闘機の基礎的な構造から再勉強と言う目にあった彼であったが、いまや最新のステルス機に関する理論まで習得した、日本最高の航空機技術者である。

「大体、戦術理論でいけば無茶も同然の人型兵器を実用化している技研さんがこの程度で驚かれるものですか?」
「ぐっ……」
「それに、このスペックをほぼ完璧に満たす化け物がここにはあると聞いていたんですが?」
「……よくご存知で」
「とりあえず、案内してもらえませんか?皆さんも待ちきれない様子でして……」

ニコニコと人の良い笑みを浮かべながら政府発行の機密閲覧許可書を提示する堀越とその後ろにいる複数の技術者を前に、蓮田は内心白旗を揚げていた。
当初は堀越一人での来訪だったはずだが、技術者同士の交流関係からだろう、開発計画に参加する複数メーカーの主任技術者が一同に会しての大見学会になっていたのである。


14:25 東京都新宿区市ヶ谷 防衛省技術研究所地下200m
秘匿兵器管理室「パンドラの箱」

「これが……」
「綺麗な機体だねぇ……」
「装甲の継ぎ目が線を引いたみたいだ。これだけの処理を可能にするとは……」
「これが未来の技術か……」

艶やかに光る外装に触れながら堀越は呆けたように呟き、他の技術者もその姿を前にただただ感嘆の声をあげる。
堀越をはじめとする技術者一同と蓮田の目の前には、見たことのない大型戦闘機が2機あった。

一機は見た感じYF-23ブラックウィドゥⅡを彷彿とさせるシルエットを持つ、黒に近い濃紺で塗装された機体。
もう一機はグラマンX-29やSu-37ベルクートを思わせる前進翼が印象的な、白に近いベージュを基調にした機体であった。

「時空融合直後、大気圏突入中などの状態で融合に巻き込まれた存在が幾つかあるのはご存知でしょう?」
「はい」

時空融合現象があった直後、エマーンとの交渉に向かった遣欧派遣艦隊が遭遇した可変戦闘機「レギオス」は日本連合内部でも有名な存在である。
おおよそ量産兵器としては非合理的と思われていた可変機構を採用した戦闘機という事で、現在も残された資料をもとに研究が続けられている機体である。

「そのレギオスとこの機体に何の関連性が……まさか?」

怪訝な顔をする堀越に、蓮田は続けた。

「この機体も可変機構を有する戦闘機なんです、しかも能力から行けばレギオスが子供の玩具に見えるぐらい高度な技術を有した……」

水銀灯に青白く照らされた機体を見上げ、蓮田はどこか怪談話でもするような口調で堀越に説明していた。

「ですが蓮田さん、我々が欲しいのはマッハ5以上の速度で飛べる熱核エンジン搭載の戦闘機ですよ、可変戦闘機は……」

話がずれ始めたように感じたのか、あわてた口調になった堀越を蓮田は笑って押しとどめた。

「この機体、高度30000Mでマッハ20以上出せるそうです」
「マッハ20!それでは余裕で地球の重力圏から離脱できるのでは!?」

予想をはるかに超えるその機体の代物っぷりに、思わず堀越は手に持っていたデジタルカメラ内臓の携帯電話を落としていた。
同時に他の技術者も「まじかよ?」と一斉に振り返る。

「地球脱出速度どころか、外装オプションで恒星間航行も可能なんだそうです」
「恒星間航行ですか……」

もはや自分の理解の範疇を超えた話に、堀越はただただ唖然とするだけであった。

(そのような代物が此処にあったとは……我々の理解の範疇を超えているぞ……)

そんな言葉が、彼の頭の中をぐるぐると回っていた。

相克界に阻まれているとはいえ、超光速航行技術はエマーンすら手に入れていない高度技術の一つだ。
もし日本連合がこの技術を持っていれば、将来相克界が晴れ上がりを迎えたときに有効な切り札の一つになりうる物であった。
しかも、戦闘機に搭載可能なサイズで、である。

「この機体のパイロットが言うには、「フォールド航法」と言う一種のワープなんだそうですが」
「はぁ……」

この機体が持つフォールド航法技術は、日本連合が唯一実際に実行可能なシステムを持つ恒星間航行技術でもあるのだ。
(DoLLSと共に現れた超空間通信施設はあったが、「航行」技術は実物が現れなかったのだ。ボソンジャンプは火星遺跡の演算ユニットの存在無しでは実行できない上に、A級ボソンジャンパー以外はレセプターとなるチューリップも必要である)

「この機体よりはそちらの白い方が機体構造からいけば設計が手堅いこともあるので、参考になるかもしれません」

呆ける堀越を見ながら、蓮田はこの機体が持つ真の能力については話そうとしなかった。
YF-21――コールサイン「Ω(オメガ)1」――と呼ばれる青い機体は、現在の日本連合では手に負えない高度技術の塊だったのだ。

特徴としては、半生体素材を用いた自在変形型装甲素材で構成された可変断面翼、パイロット自体がバランサーになるとも言える思考制御システム、機体各部に搭載された高性能光学センサー……。

技研はその中でもBDI(Brain Direct Interface 脳内直接イメージングシステム)、BCS(Brainwave Control System 脳波操縦システム)と呼ばれるシステムからなる脳波制御技術に着目していた。

パイロットに修行僧のごとき集中力を必要とするものの、現在日本連合が持つ思考制御技術に比べると霊能力等の特殊能力やサイボーグ化を前提としないこの操縦システムは非常に有効と考えられていたのだ。

(YF-21はこの日本連合においてすら技術水準から逸脱した“怪物”だろう……。が、それはYF-19についても言えることだ)

もう一機の機体周辺に集まっている技術者を前に、蓮田は改めてそう思う。

時を同じくして転移してきたもう一機、YF-19――コールサイン「α(アルファ)1」――もYF-21よりまだ現実的な設計であると言えど、やはり高度な技術力により生み出された機体だった。

前のYF-21と同様YF-19も、怪物じみた出力を生み出す熱核バーストタービンエンジンに、その余剰エネルギーを用いて機体強度を高めるエネルギー変換装甲、斬新なアクティブ・ステルスシステム等を有している。

この2機は、今の時点では技術面、開発コスト面で問題が多く、複製可能でも大量配備は不可能という判断が下されていた。
だが、YF-21の機体設計そのものは完成した戦略/戦術電子戦闘偵察機SR/F-1「彩雲弐式」へ受け継がれ、これらの機載コンピュータが搭載していたデータを参考に後のコンバインドフォース主力戦闘機、VF-1「バルキリー」が生まれる事になる。

YF-19の周りに集まり色々と話し込んでいる堀越達を後目に、蓮田は2機を交互に見つめながら呟く。

「今の我々には過ぎた翼なのかも知れない、だが何時の日にか必ず……何時かきっと……」

彼の言葉通り、この2機は各種データの収集と量産化を目指す上でその翼を長く休めるに到る……。

だがこれより十数年後、この2機が再び歴史の表舞台へ――それぞれVF-19「エクスカリバー」、VF-22「シュトゥルムフォーゲルⅡ(ツヴァイ)」という新たな名を得て――躍り出る事になる事をまだ誰も知らない……。


Super Science Fiction Wars Outside Story

Steel Eye'd ladies~鋼鉄の眼差しの乙女達


第4話 テクノロジィ・ギャップ


新世紀2年7月12日 05:30
北海道石狩管区千歳市 航空自衛隊千歳基地

夏とはいえ、北海道の早朝は20度を上回る事は少ない。
朝の清冽な空気とからりと晴れ上がった空が、千歳基地の上空を覆っていた。
だが、この基地の緩衝地帯に突如現れた軍事基地の住人達にとっては、その光景も困惑の対象でしかなかった。

「間違いなく、地球なんだよね……」

朝焼けがすっかり抜けた夏の青空を見上げ、ミリセント・エヴァンスはDoLLS基地から千歳滑走路につながる急造されたタキシーウェイに立ちすくんでいた。

蒼穹の東側には、白く色を変えた月が浮かんでいる。

その数は一つ。

その事は間違いなく自分がオムニではなく、地球にいる事の証拠であった。
だが、彼女らオムニリングにとって地球は「敵」と同意である。

独立戦争を生で体験している初代DoLLS達にとっては、余計にその思いは強い。
その「敵地」に突然放り込まれた今、日本連合との交渉に忙しい首脳部を除いて多くのDoLLS隊員達が困惑したまま毎日を送っていた。
すでにDoLLSは陸上自衛隊の一部隊として編入され、新設された特務本部(世間一般ではJ-SOCOMと呼ばれる)所属となる事が決定している。

これはDoLLSがC-5Aギャラクシーを上回るC559アトラス・C637ギガントと言った大型戦略輸送機、AC17、AC157と言った最高速度がマッハ2を超えながらPLDを一個小隊単位で輸送できる戦術強襲輸送機を有し、千歳を基点としても日本連合国内であれば北は千島列島の北端まで 30分以内。
沖縄南部までも1時間以内の展開が可能と言う今までの日本連合には無い高度の緊急展開能力を有していたからであった。

日本連合でも、この時点で特機の緊急展開を目的とした大型戦略輸送機の先行試作機が完成していたが、あくまで試験運用であり量産化にはまだまだ長い時間がかかると思われていた。
スペック的にはエヴァンゲリオンをフルオプションで輸送できる、揚力のみで飛行できる航空機の限界とも言える巨体(ただしターポン除く)の持ち主なのだが、いかんせん建造に掛かるコストがイージス艦並みと言う高額なコストは量産に耐えうる物ではなかったのだ。

後に窒化炭素結晶体「ふわふわ」の応用でコストダウンを図れたがそれでも簡単に作れる代物ではなかった。

同時にDoLLSに求められたのが、人型機動兵器の教導部隊役であった。
陸自の切り札であるWAPは、未だ実験中隊での様々な戦術・戦闘技術の試行錯誤が続いている状態であり、実戦部隊の編成に入るまでは今しばらくの時間がかかる物であった。
だが、PLDと言うWAPと機体フォーマットや戦術ニッチェが似通った存在が現れたおかげで、陸自としてはWAPの戦術シラバス作成を早められる可能性が出てきたのだ。
それ以上に液体炸薬とゲルリッヒ方式の採用によりショートバレルでありながら90式をはるかに上回る命中率と威力を持つ120mm砲が運用出来、戦闘ヘリに匹敵する機動性能と陸戦兵器としては比肩する物ない電子戦・対空戦能力を持つPLDの存在は陸自にとってはこの上なく魅力的な存在であった。
この時点においてDoLLSの存在は陸自にとっては非常に重要な存在となっていた。

「必要とされている」のはわかっていた。

だが、ここが地球であると言う事が彼女たちを困惑させていた。

「よぉ!エヴァンス准尉!!」

ぼんやりと朝の空を見上げていたミリィを呼び止める声がした。

「コドウッド班長!」

振り返ると背の高い壮年の男がミリィに声をかけていた。

DoLLS整備班長ジェイムズ・コドウッド技術大佐。
独立戦争前に地球から移民でやってきた黒人の巨漢である。

「どうしたミリィ?珍しく早いと思ったら滑走路でぼけっとして」
「いや、ここがやっぱり地球なんだろうか。って思いましてね」

そう呟くように言って再びミリィは基地の外側に目を向ける。
オムニにいたときと殆ど変わらないDoLLS基地建物の向こう側には全く違う山並みが広がっていた。

「あの山……あっちが恵庭岳で……向こうが樽前山……でしたっけ」
「おいミリィ……俺が地球出身だからって何でも知ってるわけじゃないぞ。大体俺はアメリカ……それも東海岸出身で日本はわからん」
「すみません……」

コドウッドの言葉に思わずミリィは罰の悪そうな顔を見せる。
やはり惑星国家であった(ジアス戦役の時代であれば……だが)オムニにいたミリィとしては幾つもの国家と民族が区域に分かれて住んでいると言う姿は理解しにくいのだ。

ミリィが言葉を続けようとした時、突然耳を劈く爆音が飛び込んできた。
データ取りのため試験飛行を行っていたDoLLS-WINGのF231e戦闘攻撃機だ。

「セシルが帰ってきたか……こっちでは購入できる資材が限られて整備が大変なんだよな」
「そうですね……」

時空融合に巻き込まれてから一月近くが経過したが、PLDや戦闘機と言ったDoLLSの装備の運用は自衛隊に提出する試験を除いて行わないように通達されていた。

2540年代と2640年代。
それぞれのDoLLSベースに有るパーツのストックだけでは普通に運用していればすぐに交換が効かなくなる。

現在技研と共同開発する方向で話を進めている複製PLDの基礎設計が上がるまでは練度の低下を防ぐ意味合いも含めて、毎日のシミュレータ訓練が関の山と言った所であった(これも電力供給と言う点を考えると、かなり大変な物ではあったが)。

補給が滞った時の事を考え、2540年代の初代DoLLSでは常用の2倍以上の交換パーツをチャージしてあっても、である。

パーツの中で最も問題なのがPLDの動力源である陽電子燃料電池であった。
これは素粒子レベルでの非常に緩やかな対消滅反応でPLDが必要とする膨大な電力を供給する物であり、理論を聞かされたSCEBAIの西山幸夫をして「これだけコンパクトなサイズで、複製可能なレベルの対消滅機関があるなんて」と驚愕した代物である。

日本連合に置いてそれまでに発見された対消滅機関と比較して効率は決して良くは無いもののそのサイズのコンパクトさと対消滅反応時に発生するガンマ線の量が極めて少なく、かつ強電磁場フィールドで100%抑えられると言うある意味理想的な動力機関であったのだ。

わずか1メートル四方のコンパクトなサイズで400KV6A/hの電力を20時間以上供給できるというハイドロエンジンと比べると限界行動時間に劣るが静粛性と最大出力で勝るパワープラントであった。
対消滅反応を起こす水素同位体リキッドの複製は分子式・精製方法は現在の技術で十分再現可能なレベルであったため 苫東にあるケミカル系企業が苫小牧にて製造しているが、肝心のPFCは複製可能であるかどうかが全く見えていない。

海援隊傘下のケミカル企業がPFCの特許を譲ってほしいと交渉を仕掛けてきているが、DoLLSと企業の直接交渉は自衛隊によって厳しく制限されていた……。
PFCを搭載した大型レイバーや後に「歩行式地上戦艦」「ハウルの動く城」とあだ名された重砲撃型デストロイド・モンスターが登場するのは、まだ先の事である。
だが、これらの要素を差し引いてもPLDを自衛隊に採用させられるかどうかは、今後の分析と判断次第であった。

「それにしても、ミリィのあれは本当に凄かったな……相変わらず器用な奴だよお前は」

そういってコドウッドは思い出したように笑いを堪える。

自衛隊によるPLDのテストが始まる前、陸自関係者の度肝を抜いたのがPLDによるパフォーマンスであった。

DoLLS基地の格納庫に集まった自衛隊関係者を前に、一体のX4Sがフル装備で現れた。
ハーディとナミ以下、DoLLSによる説明が終わった後にPLDの器用さを示すためのデモの意味合いだったのだがその内容が意表を付く物であったのだ。
まず、そのX4Sのほかに4thドールズが使う強襲形PLD、X5+Cが2機両脇に立った。なぜか2機とも機体の2.5倍ほどの大きさのアルミパイプを持っている。
一様に不思議そうな顔を見せた技研を初めとした技術者の前で、最初に度肝を抜く行為が始まった。
パイプを持った2機のX5+Cが向かい合わせに立てひざの姿勢を取って降着し、互いのパイプを掴むと床にしっかりと置く。
パイプの間にX4Sが立つと、なぜか間の抜けた曲が流れ始める。

「♪あーるーぷーすーいちまんじゃーくー」

X5+Cが子気味よく動かすバーの間をテンポの良いずんずん!と言う音とともにX4Sが交互に動く棒の間を跳ね回るように踊り始めた。
俗に言う「バンブーダンス」である。

この光景を見た自衛隊上層部は笑う者、唖然とする者、必死でその動きを追おうとする者様々であった。
だが、この光景で終わったわけではない。

さらに3体のX4Sが現れ、横一列に並ぶ。
と、数瞬の間を置いて、突然としてハイテンションな音楽が掛かった。

「キングゲイナー!?」

一部の世界で放映され、マニア間で人気だったサンライズ製作のアニメ「オーバーマン・キングゲイナー」のオープニング曲「キングゲイナー・オーバー!」に合わせて4機のX4Sが豪快にモンキーダンスを踊り始めたのだ。
瞬間、その場は爆笑の渦に包まれる。
爆笑する周囲をよそに、分析を担当していた技研とSCABAI、ゲストとして呼ばれた篠原重工・来栖川エレクトロニクスのスタッフ達は驚きを隠せないでいた。

「あのゴツイ外見であれだけしなやかに動けるとはな……」
「量産機でエリアルと遜色ない運動性……やるのぉ」
「な……なんだアレは……ふざけているのか?」

この後も反復横とび、集団パラパラ、はては「赤上げて!赤下げないで白あげて」など珍妙なパフォーマンスが続き、研究者達を煙に巻いた。
この時のパフォーマンスを行ったパイロットが、ミリィであった。
彼女の作業用PLD操縦で磨いたテクニックは、通常PLDにプリセットされている動作パターンとタイミングの組み合わせによって通常考えられない動きを容易に引き出すことが出来る。
だが、この操作にはかなりの熟練が必要であり、天性のオーバーセンスを持っていたミリィが中心となって行われて初めてこういった高度なパフォーマンスが行われたとも言えるのだ。
後のPLD複製計画におけるテストパイロットチームの中で、彼女の存在が大きく扱われたのは言うまでも無い。


「あのパフォーマンスでお偉方も呑まれたようだしな、PLDの凄さをわかってくれたんじゃないか?」

そのパフォーマンスの後の試験も、度肝を抜くものであった。
PLDの機体構造は骨格となるメインフレーム上に圧電可塑性半生体合成樹脂で出来た人工筋肉(BEPAMあるいはO-AM)とチタニウム・セラミック・カーボンナノチューブの外骨格装甲を取り付けた構造を持ち、BEPAMが防弾チョッキの役割を果たし徹甲弾には強い。
装甲を貫くには専用に調整された榴散弾を必要とするのだ。

距離300から90式戦車の戦車砲の直撃を受けても致命的なダメージを受けず、弾き返した光景はパフォーマンスで唖然とさせられた関係者達をさらに呆然とさせた。
DoLLS等がやってきた西暦2500年代~2600年代の惑星オムニで使われている戦車砲が90式戦車の1.5倍の初速度を持ち、その直撃に耐えられると言う事を理解していても、いざ実際に見せられると衝撃的であった。
その後のテストでもWAPと比較しても優秀な兵器であると判断されたPLDであったが、自衛隊に採用させるか否かと言う点においては難しいと言わせる要素が山積していた。

パフォーマンスそのものは確かに成功したといえる。
だが、一方でミリィには一つ引っかかることがあった。

「ただ、気になるんですよね……」
「どうした、何かあったのか?」
「ええ、実は……」

コドウッドに声をかけられたミリィは、腑に落ちない表情のままパフォーマンスが終わったあとのことを話す。

パフォーマンスの後で用意された格納庫に戻ったとき、ミリィは偶然ハーディ、ヤオ、フェイエンといった上位指揮官の会話を物陰から聞いたのである。

「二人ともどう思う?」
「例の見学に来ていた関係者の表情……でしょ?」
「自分も、気になりました……」

上官たちの会話に、ミリィも思わず聞き耳を立てる。
恐らく、パフォーマンスに驚いていた自衛隊の関係者について話しているのだろうと彼女も思った。

だが、次の瞬間出てきた言葉に流石の彼女も一瞬耳を疑うことになる。

「驚いている方が殆どでしたけど……そう、大臣クラスや幕僚長、方面隊総監といった上層部の人間がさして驚いている様子はありませんでした」
「さして驚いている様子はなかった?」
「ええ、確かに驚かれてはいましたが、驚愕といった程ではなかったですね」

最初にそう言ったのはフェイエンだった。
全体の指揮をハーディに託しているとはいえ、彼女も4thDoLLSの指揮官である。
PLDのデモンストレーションを披露した際に、自衛隊の関係者による反応を注意深く観察していた彼女は気付いたことを口にした。

「ノール中佐が言う通り、所謂中堅どころの幹部クラスは皆驚いていたけど、それより上の人間は少しね……」

続いて口を開いたヤオの言葉にハーディも考え込む。

「或いは……彼等にすれば想定の範囲内なのかもね。こっちの世界に来てからかなりの二足歩行兵器があるのを知ったけど……」
「空を飛んだり変形する機体があるのは、非常識極まりないけど……。でも、それとお偉いさん達の落ち着きぶりは話が別ですからね」
「我々が調べ切れなかった範囲で『隠し玉』を持っているという可能性もあるのではないかと思いますが……」

フェイエンの言葉を最後に三人が黙ってしまう。

政府高官や自衛隊の上級指揮官クラスがPLDのパフォーマンスを前に彼女達の予想ほど驚きの表情を見せず、どちらかといえば落ち着いていた理由を彼女たちが知る由もない。
もし、自分たちが地球に出現する約半月前に首都圏で起こった一連の出来事とその時出現したモノの正体を知っていれば、今回のことと結びつけることが出来ただろう。
しかし、流石の彼女達も日本連合で極めて上位の機密に属する情報まではハッキングできなかったのである。

確かに、5月末の東京上空に正体不明の戦闘機3機が現れ、関東周辺の航空自衛隊機が総出の大捕り物がを展開したという情報があり、その中で「戦闘機のうち2機は人型に変形した」という情報も確認できた。
かなり加工が加えられているが、羽田空港のメンテナンス用埠頭に着陸している「足の生えた戦闘機」らしき写真も見つかっている。

だが、「人型に変形する戦闘機」というのはDoLLSにとっても正直荒唐無稽と言わざるを得ない情報であった。
確かに人型機動兵器登場当初、戦車あるいは機動砲(装輪戦車)から変形する機能を持った無人ロボット機も試作されたことがあったが、航空機への変形は「航空機という脆弱な存在」が地上を走行する必要ない事から試作されなかったのである。

何より、薄く軽い装甲を持ちながら戦車より強靭な耐久性を持つPLDを駆る彼女らにしても、陸戦兵器として十分な装甲を持った戦闘機など想像もつかない世界であった。

一方、当のミリィは流石に盗み聞きがばれるのは拙いと思い、直後その場を離れたのだった……。

そして、時間は今に戻って一通り話しを聞いたコドウッドは暫し考えたかと思うと口を開く。

「なるほどな、気になると言えば気になるが、俺は何が出てきても驚かんつもりだ」
「班長は落ち着いてられますね……」
「こんな何でも有りな世界だ。慌てふためいても仕方が無いだろう。それよりもミリィ、お前ももう少し柔軟になることだな」
「柔軟にですか……。努力してみます」
「ま、一朝一夕にすぐ変われるわけじゃないにしても地球がイコール敵地という発想は捨てるべきだな。ここは俺達の知っている地球じゃない」
「確かに、そうですよね」

二人の話は何時の間にか、地球が敵地であるという発想をさっさと捨てるべきという話に移っていた。

ちなみに、ハーディやミリィといったDoLLSの関係者がパフォーマンス後に感じた違和感の正体を知るのはもう少し後の事である。
最終更新:2011年01月05日 22:55