同日10:05 北海道石狩管区千歳市
航空自衛隊千歳基地内 DoLLSベース 司令官執務室
「ようこそ、DOLLSへ」
ハーディは目の前に2人の男を迎えていた。
片方は引き締まった体をした、見た感じ格闘家か何かのような印象を与える体つきをした精悍な男。
もう片方は体つきこそそれなりにしっかりしているが中肉中背の、長い髪を後ろで大雑把に結んだ飄々とした印象の男であった。
「北部方面隊第7師団苗穂第3整備小隊より配属されました、本郷義昭二尉であります」
「同じく北部方面隊第7師団苗穂第3整備小隊より配属されました、加持亮二三尉であります」
そう二人が名乗った後、本郷と名乗った男が口を開いた。
「DoLLSの装備等の研修のため、貴大隊への配属を命ぜられ、本日を持ちまして陸上自衛隊第二特務空挺大隊及び航空自衛隊特務航空団整備支援班へ着任いたしました」
「よろしい、詳しくはコドウッド技術大佐から聞いてほしい」
「了解!」
ハーディがそう言うと、二人は敬礼の後、執務室から整備班オフィスへ通じるドアへ消えていった。
「フェイルン、クァンメイ。どう思う?」
二人の姿が消えた後、後ろに控えていたヤオとファンにハーディは問うた。
「……ただの整備班とは思えないわね。どう見ても……」
「自衛隊と政府の送り込んだ監視人、って所かしらね」
「そう……我々の存在は連合内でもきわめてイレギュラーな存在だからね。我々が地球で暮らしていくと言いこと自体が問題であるように移民惑星から“直接”の転移者というのは日本連合では初めての存在らしいし」
この時点ではゾイド連邦との国交も樹立されたばかりであり、「太陽系外の移民惑星からの転移者」は日本連合だと純粋な異星人や異星人のハーフより珍しかった(5月末に新宿へ揺り戻しで出現した「統合政府世界」の3人は、出現前は地球にいたので例外となる)。
ちなみに、宇宙人とのハーフは現在確認されているだけで自称「銀河系連合監察局・惑星日本」人とのハーフである七瀬成恵(14歳)を始めかなりの数にのぼるらしい。
そういった点でDoLLSが微妙な立場におかれているのは確かであった。
「大体、この日本連合って国自体がマンガみたいな事が平気で起きている国だしね」
ヤオが再び話を切り出す。
千歳に落ち着いて以来、合法非合法問わずさまざまな手段で入手した時空融合以来の日本連合の記録はDoLLSメンバーをしばらく偏頭痛に悩ませた程の物であった。
巨大ロボット、怪獣、使徒……そして東京都は帝都区を中心に多発しているオカルトとしか言い様が無い不可解な現象……。
DoLLSの常識で行けば理解の範疇を3パーセクは超えた事態が平然と起こっているのだ。
「そう、そういう点で私たちの敵も単純には済まない世界なのは確かよね」
DoLLSが戦うであろう存在に関しての情報も、あまりにも多岐に渡る物であった。
赤い日本以外にも、絶えず日高地方~釧路地方の海岸を脅かしているゾーンダイク軍の「ウミグモ」、地獄一味の機械獣たち。
その他小規模な武装テロリスト等、枚挙にいとまなかった。
歩兵、戦車とPLD、ヘリだけ相手にしていればよかったオムニとは訳が違うのだ。
「基礎戦術の練り直しを含めて、早急に実機訓練を再開したいところなんだが……」
ハーディはそうつぶやくと、いまや貴重品となりつつあるカーミック大陸産の緑茶を口に運んだ。
オムニ産の食品のストックはいずれ底をつく。
今のうち地球の食べ物に慣れておかないと……と内心ハーディは呟いていた。
「消耗品の補給体制もまだ確立してない状況ですからね……。PLDを潰す訳にはいけませんし」
いつの間にか執務室に現れていた4thDoLLS……改め第二中隊のフェイエン・ノールが応接用ソファーに腰掛けて言う。
気がつくと執務室は臨時のドールズ首脳会議となっていた。
「8月には赤い日本に対しての示威行動の意味も含めての大規模演習が矢臼別であると斉藤陸将より通達があった。ゾイド連邦からの軍も参加する物との事だ。おそらく規模は『オムニ・ライジング』以上のものだろう」
ハーディの言葉に、一同面持ちを固くした。
独立戦争前、そしてジアス戦役終了後に行われた全軍規模の実弾演習「オムニ・ライジング」。
それを上回る大規模演習となれば、PLDの実力アピールの場として最高のシチュエーションなのは確かだ。
「ですが大佐、今のDoLLSの装備を壊してしまうのは……」
ナミとエレンがハーディを押しとどめるように口を合わせる。
二人とも演習への不安はあったが、その内容は異なっていた。
ナミのそれは新型PLDの基礎設計も出来ていない状態で装備を壊してしまう危険性のある大規模実弾演習への参加そのものに対する不安から出た言葉であったが、エレンは別の意味で不安を覚えていたのである。
その不安とは、「確率論」である。
出来るだけ出現当時の姿を保っていた方が、確率論的に言えば揺り戻しなどでオムニへ帰還できる確率が高まる。彼女はそう考えていた。
「だが、ある程度我々の力を見せておかないと日本連合のサポートは受けにくくなるのは確かだ。今のDoLLSは半分『傭兵』みたいな物と言っても過言ではないからな」
この場合、戦果を見せなくてもERET等と並び特務行動局直属部隊の要として位置付けられているDoLLSには十分なサポートが受けられるが、暗にハーディは実機訓練が出来ない事による錬度低下を危惧していたのだ。
そのため、予備部品のストックを消耗する事を覚悟で、この演習に参加する予定を強引に北部方面隊総監部へねじ込んだのである。
「確かにそれを考えると、戦力維持の観点から言っても必要なのは確かよね」
クァンメイがハーディの暗に言いたい事を察して答える。
「ですが大佐、新型PLDの完成は早くても今年末から来年頭ですよ」
「完成しても量産化しての配備となればDoLLS全体に行き渡るだけでも来年の春あたりまではかかると……。現行機の補充部品を考えるとあまり本格的な実戦運用は避けたい所です」
ナミとコドウッドが心配気な声をあげる。
現時点では基礎設計すら出来ていない状態なのだ。
PLDの評価試験はまた続いていたが、すでに分析が終わったデータが公開された時点で幾つかの部隊から配備を希望する声が届いていた。
陸自としては、この年5月のお台場事件で決定的な火力不足が露呈した空挺レイバーの後釜として第一空挺師団を中心に配備する予定でいるようだがWAPが苫小牧の技研北海道工場にて生産ラインに乗ったばかりの状態では、試作機の製作もおぼつかない状態であった。
「正直な事を言わせていただければ、データ取りを終わらせた後は時が来るまで封印して置きたい所ですよ」
コドウッドの言葉に、ハーディは首を横に振った。
「技研からの連絡があってな、PLD製造に関して篠原重工が興味を示しているらしい。BEPAMに関しても大阪の松村技研がライセンス生産に興味を示しているとの事だ」
「となりますと?」
ハーディは安心したような顔を見せ、一区切りを置くように言葉を続けた。
「技研工場だけでは月産10機が良い所と思っていたが、篠原の八王子工場をあわせれば月産20機以上は配備できそうだ。松村技研もマイクロアクチュエータを使った人工筋肉の開発ではオーソリティとの事らしいし」
後に大流行するエンジェリック・レイヤーに用いる格闘用人型セボット(センチメータサイズ・ロボットの略)「エンジェル」の駆動機系を独占供給していたのもこの松村技研なのはあまり知られていない話である。
「となりますと、3月にはDoLLS常用機分は配備できると言う事になりますな」
「順調に行けばね」
安心したコドウッドに対して、ナミは溜息混じりに言った。
「それまでは教導部隊としての役割も果たさなければ行けないのも事実よね。WAPの戦術シラバスの草稿を見たけど、とてもじゃないけどお話に成らないわ」
ヤオが呆れた口調で戦術シラバスを観たときの事を思い出しながら言った。
WAPに関しては、もともと京浜工業地帯の一角に無人で出現した霧島重工の工場に存在していた完成機や生産ラインを利用していた為、WAPのOSに含まれていた静止模擬演習機能のチュートリアル以外にはシミュレータや基礎的な戦術シラバス等はゼロから構築せざるを得なかったのだ。
小隊単位での戦術は対機械獣戦、対戦車戦などで問題ないレベルで出来上がっていたが、白兵戦などのプロセスはいまだに完成された物とは言い難かった。
「運用できる武器の種類が大きく違うとは言え、シラバス編集への協力は必要だと思う。しばらく我々は暇することは無いだろうな……」
「はい、それを考えると……一部メンバーのWAPへの機種転換訓練は必要だと思います」
新型PLDがWAPと併用される事が前提であり、要求仕様としても自衛隊側から「2式特攻車との可能な限りの部品共通化」を希望されている以上DoLLS側も2式特攻車へ習熟しておく必要があった。
「来月までに何機かの2式特攻車を回してもらう必要があります、名目は2試特攻車のためのデータ取りとでもしておけば良いかと」
フェイエンの言葉に、頷く一同。
第1中隊(元祖DoLLS)および第2中隊(4thDoLLS)共通の新型PLDはいまだにDoLLSと自衛隊の間で要求仕様のすり合わせ段階であり、設計にも着手できていない。
その点で2式特攻車を実際にDoLLS側で運用してのデータ収集は必要なのは確かだった。
「我々ものんびりしている暇は無いと言う事だ、各自計画の策定を急いでくれ!」
「了解!」
ハーディが長くなった臨時会議にピリオドを打つべくハッパをかける。
それに答えるように、執務室に声が響いた。
それから2週間後、8月の太陽が照り付ける千歳基地にDoLLS訓練用の2式特攻車3機が到着するのと時を同じくして新型PLD、仮称「2試特攻車」の要求仕様が策定された。
戦術用途:
中距離砲撃戦
対戦車戦闘
対航空機・回転翼機戦闘
対機動兵器戦闘
局地戦
高高度空挺降下戦闘(HAHO)
低高度強襲降下戦闘(HALO)
隠密揚陸戦闘
機体構造:
2式特別攻撃車両との共同作戦および前線での整備の容易化のため、2式特攻車と同様から1m前後の増減に留める(全高6.53m~8.25m以内)。
機体構造はレイランドダグラス社製X4-S型のそれを基本形として、プライマリスケルトンを主骨部Li-Ai合金、間接部ネオカーボン及びLi-Ai合金及び外骨格装甲を装甲厚50mmのネオカーボンモノコック構造を基本とし、セラミック及びハイチタン・モリブデンの複合装甲とする。
総重量:
空挺降下作戦時に現在航空機メーカーで複製計画が進められているオムニ軍側輸送機(DoLLSが装備していたC637輸送機のデッドコピー品)での輸送が可能なよう一機あたり乾燥重量5.25t、最大戦闘可能重量20.2t前後とする。
動力系:
PFC(陽電子反応型燃料電池)及び補助として霧島重工式水素分離燃料式タービンエンジン(ハイドロ・タービンエンジン)搭載。
最大出力250Kva/h 無補給限界作戦行動可能時間48時間(PFC/ハイドロエンジン併用時)
高速機動用としてコアレスモーター駆動によるローラーダッシュシステム搭載(防衛省技術研究所(以下技研)が開発中の戦車・装甲車用ハイブリッドシステムを基本とする)。
補助動力源を装備しての連続限界作戦行動可能時間は72時間 最大出力はPFC4基+ハイドロエンジンで2000Kva/hを目標とする。
将来のGSライドあるいはパラジウムリアクター量産化を念頭に置き、動力系には余裕のある設計を求む。
駆動系:
圧電可塑性樹脂製人工筋肉(BEPAM)及び間接部補助駆動として松村技研製マイクロアクチュエーター使用。
各関節部および機体骨格部構成は2式特攻車と共通性を高めるためMULS-P規格(通商産業省登録規格12090号)互換の構造とする。
間接部はMULS-P規格に合わせてユニット化され、前線でも容易に間接部からの切り離し、ユニット交換が可能な構成とする。
機体制御系:
ソフトウェア:
技研製WAP機体制御OSを基本として改良した新OS「MM(ManMachine)-TRON」(補1)による制御を基本とする
ハードウェア:
音声応答型統合情報通報システム(HAL)による情報連携および機体制御系への思考制御システム搭載を将来的に目指し
来栖川電工製非ノイマン式バイオAIチップPNNC-2005Jを基本としたパイロット支援・統合情報処理システムを搭載する。
基本的電子回路系は低損失率型光ファイバーを用いた光電子回路を基本とする。
兵装系:
現在「赤い日本」占領地域で幾度か存在が確認されている正体不明の重装機動歩兵への対抗策として、12.5mm以上の徹甲弾が発射可能な高速重機関砲を固定武装として搭載する。
その他、各種武装のハードポイントはディジェム社製XB-10型装甲歩兵を基本として、両肩部可動式砲架X2、両腕部手持ち式銃器X2および腕部固定式砲架大腿部オプション収納庫X6の計12箇所の兵装固定部を設置。
(補1)……
四国圏が官民一体で進めている汎用型PC用OS『フォーチュン』に対抗して国産OS『TRON』の機能向上を目指した中の派生品種。
元々技研が開発したWAP用OSが組み込み用OSであるI-TRONを基本にしており、これにディジェム社のXx-10シリーズのOS要素を参考に改良したものが今回、MM-TRONと言う別名称を与えられたのである。
将来的にはレイバーを初めとした人型機械すべての共通OSとなる事を目指している。
「今の技術でPLDが遜色することなくコピーできた事が驚きだけど、実際にこれだけの仕様を満たせるのかしらねぇ」
仕様書を見たヤオがぼやくように言う。
様々なオーバーテクノロジーを付加して考えれば、日本連合の技術でもPLDの複製は可能と考えてはいたが要求仕様を見るとX-4S、X-5S、Xx-10シリーズをすべて統合した上にそれを上回る高性能機であった。
「GGGがLi-Ai合金のパテントを無料供給してくれたのが助かったわね、全部ネオカーボン製ムーバブルフレームと言う手も有ったけど、出来れば構造は変えたくなかったし」
ナミが書類の束を揃えながら答える。超合金NZが大量生産品に使えない今、基礎設計を買えずにPLDの構造材として使用できる素材はこのLi-Ai合金しかなかったのだ。
もしプライマリスケルトンをすべてネオカーボン箱組み構造によるムーバブルフレームとした場合、X4の基本設計を流用する事が出来ず再設計に掛かる時間が無駄に増える結果と成っていただろう。
「製造コスト全部ネオカーボン箱組み構造の方が安くはなるけど、技研でもまだまだ研究には時間が掛かるって言ってたし……今回の新型はまず無理ね」
ナミ個人としては、PLDの構造面からの発展性を突き詰めていくと最終的には「無機物で構成された巨大人造人間」になると考えていた。
100年後の世界からやってきたX-5シリーズを見たときに、彼女はその発展がソフトウェアと火器の性能向上に止まっている事に軽い失望を覚えていたのも事実である。
そういった点で、この複製PLD開発計画は彼女が追い求めるPLDの進化するべき姿を実践する一つの機会でもあったのだ。
まだまだ理想には遠いが、この機体の設計は彼女の理想への第一歩でもあった。
そのためにも、この機体は完成させないといけない。
DoLLS整備中隊詰所に併設される形で急造されたプレハブの中で、ナミは外に目をやりながら新しい機体の構想を組み立てていた。
最終更新:2011年01月05日 22:56