再び東京都新宿区市ヶ谷 防衛省技術研究所第一研究室
「まぁ、あくまでこの機体は異星技術の応用って事ですからね。タカスさん達は引け目持つ事は無いと思いますよ」
どんよりと落ち込んだ雰囲気が漂う中、思わず東屋はフォローになるかどうか分からないが取り繕うように言う。
宇宙人などと言った未知のオカルト的要因が絡まずに人類、つまりはホモ・サピエンスだけの力で作り上げた兵器としては決してPLDは遅れた兵器でもなければ、優秀な部類に入る兵器である。
「そうは思うんですが……さすがにここまで高性能な兵器が並ばれると……」
マーガレットがげんなりとした表情でぼやく。
21世紀末から23世紀半ばまでの約150年間、彼女らの世界は火星開発計画などが進められていたが、人々の生活習慣に急激な変化が起こるような技術革新は少なく、ある意味中世的停滞とも言える状態であったのだ。
他の世界では普及していたアンドロイドなども名義上の通貨統合後、発展途上国からの労働人口の急激な流入などで安価に「人間」を雇う事が出来るようになったため廃れ、サイボーグ技術の発展もその影響で遅れていた。
24世紀になってようやく、オムニにおいて全身機械化サイボーグ技術が成立したほどなのである。
その火星開発計画もすべての完了までに1000年間を要する気の長くなるようなプロジェクトであり、オムニ発見までの間人類非可住地域へ建設されたドームポリスへの人口過剰地帯住民の強制移住なども問題になっていたのだ。
余談だがこれは、「人の手が入っていない所の自然まで人の手で汚すのか」と言う意見と「危険すぎる宇宙移民に比べれば遥かに低コストかつ安全に環境の回復を図れる」と言う意見の対立であったとも言う。
結果、ドームポリス移住を推進していた欧米諸国の意見とこれ以上地球に人を住まわせる事に反対したアジア諸国の意見は、オムニ発見により宇宙移民へ大きく傾く事となった。
自分たちの世界がむしろ「停滞した世界」だったと言う事がある意味ドールズメンバーにとって衝撃的であった。
考えように寄ってはその「停滞」が複製PLDを程度の低いモンキーモデルではなく、一部ではオムニ製PLDを上回る高性能機として作れる兵器で有った事にもなったのだが……。
ヤオ辺りに言わせると「んな感傷に浸ってる暇が有ったら、そいつらの情報を自分の物にすればいいでしょーが!」と言う事になるのだが、そう言った気分になるにはそれらの技術が殆ど「自分たちから見たら過去のもの」であると言う事がジャマをしていた。
「試作初号機の建造開始まで時間が無いんだから、急がなきゃいけないのはわかってるんだけどね……」
基礎的なコンセプトは固まってはいた。
整備・補給の観点からX-4Sと同様、装備変更で多目的に運用できる汎用型を中核にし、同時にXx-10の様々な特殊任務に対応した特化型機を少数生産する、と言う方向で基本となる汎用機の設計を早期に終わらせ、汎用モデル初号機を年内に完成させると言うスケジュールで設計作業を進めていた。
だが、ここで設計陣がぶつかった壁が「3次元機動能力」であった。
元々PLDは梢までの高さが30mを越えるオムニの密林山岳地帯で運用される事を前提に設計され、3次元機動能力はさして重視されるものではなかった、がX-4Sの開発当初、3次元機動能力を求める声は無かったわけではない。
だが、X-4S専用降下ユニット(仮称エルフィンフリューゲル)の開発の遅れで有耶無耶にされ、結局3次元機動能力を持ったPLDは誕生しなかったのである。
解決法としてはBEPAMの反射速度向上と関節構造をM9のそれを参考にした形式への変更。HIGH-MACSのそれを基にしたアフターバーナー付き推力変更型ターボジェット「ホワイトホール」の搭載。さらに高い機動性を与えるため、一定時間BEPAMの反射速度と伸縮率を限界まで引き上げる加速装置の搭載などが上げられた。
新型コンセプトシミュレータを用いれば、大概の試験はコンピュータ上で済ませられる。だがそれだけに画龍点睛ともいえる実機試験は重要なのだ。
新世紀2年8月25日 10:35
東京都新宿区市ヶ谷 防衛庁技術研究所 第一研究所会議室
「現時点での計画推進状況は、当初予定の60%って所ですね」
最近発売された薄型タブレットPC、通称「レボード」を片手にした東屋が説明を始めた。
8月初旬から設計を初めて二十日少々。
10月中には試作機の製作に入らねばならない情況でこれはある意味辛い状態であった。
このミーティングも、朝から脱力感の漂うものに成ってしまっていた。
「PLDとしての本体そのもの設計は終わっているんですが……まだ間に合わない部品が多くて」
ナミがいささか参った、と言うような表情で答える。
PLDのボディその物は作れても、新機軸である3次元機動を行う上で必要な部品が全くと言って良いほど揃ってないのだ。
試作初号機・2号機はとりあえず水素燃料式ホワイトホールを諦め、HIGH-MACS用ホワイトホールをそのまま搭載して試験運用を行う予定で居るが、もともとの製造メーカーであった石川島播磨重工にこれを生産していた世界の要素が無かったため複製が間に合わず、習志野に有ったHIGH-MACS実験小隊が持っていた予備パーツを回してもらう手立てが昨日付いたばかりだった。
YF-21のキメリコラ式バランサーも複製を前提にした解析作業の只中に実機が彩雲計画で搬出されてしまったため、データ不足でとてもではないが搭載できる代物は作れない。
「あまり欲張らない方が良いかも知れませんよ。3次元機動テストは二号機以降で行う事にしてしまったほうが良いのでは?」
東屋がいささか呆れたような口調でナミ達を諌める。
「プランの変更を考えたほうが現実的ですかね……」
既に埼玉県狭山市にある技研製作所にはWAP製作用に開発された大型オートクレーブ(真空・高圧成型釜)が備え付けられいつでも試作機の製造を行える体制が整っていた。
WAPの主構造材・装甲材料がニュージャパニウム合金(『超合金Z』・『超合金ニューZ』は光子力研究所及び要塞科学研究所の登録商標のため両研究所以外では商品名に使えない)からネオカーボンに変わった時点で、製造方法は大きく変わる事になった。
超合金NZを使用していた試作機は、航空機や鉄道車両に用いられていた大型押出成型で構造を作っていたのだが、ネオカーボンになった時点で、レーシングカー等に用いられている金型にカーボン薄幕を張り合わせてエポキシ樹脂で固着させ、そのまま高熱真空で焼き上げる方式を取る事と成った。
このため市ヶ谷の本部が持っている製造設備では増加試作機を生産できず、狭山市に出現していたもう一つの技研本部を製作所として整備するために運び込まれた物がこのオートクレーブであった。
生産効率は落ちるが、素材の関係上仕方が無いことである。
「姿勢制御系をX4系列そのまま、ホワイトホールをダミーとして割り切って設計すれば12月には初号機の生産は可能だと思います」
ケントが資料片手に意見を述べた。赤い日本に対する牽制の意味も有って、年内に複製PLDを生産する必要があるのだ。
「でも、所定の性能で行けば正直言って張りぼても良い所では?」
別の技研研究員の方から声が上がった。日本連合内部で解析可能かつ複製可能な技術であったとしても製作そのものに不安を持つ技術者は居ないわけではなかった。
3次元機動能力の開発。これが新型PLDを開発する点でどうしても必要な要素である事は確かだ。
逆にこれの問題さえ解決出来れば、PLDの設計自体はかなり早く終わらせられるとも言えるのだが。
「現に機動性と言う観点で行けばX4S型どころかクリーン状態では汎用型でもXC-10型以上の機動性を持つと算出されています。
未知の技術が多く取り入れられたこの機体は今のままで一度試作するべきだと思うのですが?」
ケントがその質問に答える。
新型PLDの機動性は計算上ではPLDとしては最高峰であり、M9を初めとした第3世代ASと比較しても遅れを取らないスペックを持っている、と言う自信が有った。
「ですが、完成までに残された期間は短いですよ。出来れば初号機の段階で構想部分は完成させて置きたい」
完成までの時間の無さ、これがPLD開発計画に置ける最大のガンであった。取り込むべき要素が多いのに、ソレを実証して取り込んでいくための期間は短い。
いかに破綻の無い兵器として完成させるかを考えると、試作とテストにかけている時間は短かった。
ところが、それを決定付ける一言は意外な所から舞い込んできたのだった。
会議室の空気を突然鳴ったコール音が遮り、あたりは気が抜けたような空気が流れた。
「はい、こちら第一会議室の東屋です……はい。はい?え? あ、ハイ。事故?」
東屋が受話器を置くと、沈痛な表情で言った。
「……初号機用のホワイトホールを積んだトラックが、首都高速で事故ったそうです」
習志野からHIGH-MACS用ホワイトホールを積んで市ヶ谷に向かっていたトラックが首都高速で事故に巻き込まれて転倒、積荷のホワイトホールも一機は無事だったもののもう片方が梱包ごと壊れ、動くかどうか判らないと言う事だった。
「な……」
残暑厳しいはずの会議室が、一瞬にして氷点下に落ちたかに思えた。
この時、蓮田技官の携帯にセットしてあったバッハの「小フーガニ短調」が突然鳴り響き、さらにその気分をどん底に叩き落した。俗に言う「鼻から牛乳」状態であろうか。
「つまりは……」
しばらくした後、ナミが唖然とした表情でようやく口を開いた。
「ホワイトホールは、とりあえずダミーで完成を急ぎましょう。機体設計作業を優先させます」
東屋がそう決定案を提示した。
「仕方が無いですね……」
こうして試作機の設計は、大詰めを迎えた。
後一月足らずで設計を完成させなければならない。
焦り、闘志、期待、不安。
そういったもろもろの感情が交差する中、PLD開発計画はひとつの山を迎えようとしていた。
同日夕方 千葉県船橋市 陸上自衛隊習志野駐屯地
さて、PLD計画の中枢が予想外の事故で予定の変更を迫られる中で、事故に遭遇した当人たちはどうしていたのかというと、決して事後処理に忙殺されているというわけではなかった。
「で、送り届けもせずにそのまま引き返してきたってか?」
当日の朝にHIGH-MACS用ホワイトホールを送り出したはずが、トラックが側面に大きな傷を作ってノロノロ運転で帰ってきたのを見た駐屯地側の担当者は報告を受けると前出の様に言った。
「仕方が無いでしょう。いくら軍用のエンジンとはいえでかい衝撃が加わった代物引き渡すなどできませんよ」
「そうそう、私は事故を起こした前のトラックの運ちゃんを射殺したいの抑えて帰って来るのに精一杯でしたよ」
事故に巻き込まれた当人たちも口々に言う。
二人とも事故による怪我の為、頭や腕に包帯を巻いたり頬に応急絆を貼り付けている。
彼らによると事故の詳細は以下のようなものだった。
首都高速を走行中に前方で運送用トラックがエンジントラブルを起こしたのか、ハザードランプを点灯させて急に減速。
後続の一台がこれを避ける形で車線変更を行なったところに、後ろから来た一台が急な車線変更に驚いたのかブレーキとアクセルを間違えて全速力で追突。
二台はそのまま積荷を撒き散らして首都高速をふさぐ形になり、さらに彼等二名の乗っていたトラックが積荷に乗り上げ横転したのである。
要するに不運なもらい事故に遭ったというわけで、彼らは警察の事情聴取もそこそこに道路へと叩きつけられたホワイトホールを回収し、応急修理したトラックを運転して駐屯地に引き返してきたのだ。
「……まぁいい、技研には俺の方から事情を説明しておく。お前たちは官舎に戻って休め」
「えー、それじゃあこっちからのホワイトホール輸送はどうするんです?」
「貴重な予備がああなっちまった以上、さらに部品取り用の物を回すわけにもいかん。断るしかないだろう。それに……」
「それに?」
「そういったことを解決する為に、技研の連中は優れた頭脳を持っているんだろう。違うか?」
上官――担当者――の言葉に安堵した二人は敬礼するとその場を後にする。
あとで、彼等二人が聞いたところによると担当者が技研に事情を説明した際、受話器の向こう側で女性の悲鳴と人がぶっ倒れる音が聞こえたとか……。
「あー、また荷物載せてあそこに行くかと思ってたから清々した」
「まったくだ」
一方、官舎に戻る途中の二人は、技研へ行かずに済んだことに対して嬉しそうに話していた。
それはあたかも技研への不信感いや批判を込めているかのように。
「あいつ等がでしゃばって統制違反なんぞやらずセキュリティに気を遣ってりゃああならなかったんだろうに」
「まぁ、頭でっかちでエリート意識しかない奴等だ。研究室の中にいたら外の世界もわからんよ」
彼等が口にするのは4月に起こった技研の襲撃事件と、その後に判明した統制違反についてである。
技研そのものが機密の塊という場所だったことから、詳しい事情は伝わってないものの彼等も自衛官であることから、ある程度のことは把握していた。
襲撃事件で少なくない数の自衛官が死傷し、その一方で彼等は自らの裁量を逸脱した行動をとっていた。
この両者に直接のつながりはなくとも、実戦部隊として現場に立つ彼等の技研に対する印象は最悪と言えた。
先ほどの発言にも有ったように、自分たちが何を研究しているのか考えればおのずと自身が普段から狙われる対象になると分かるはずである。
常から技研そのものの警戒レベルを高めておけばあれだけの犠牲は出さずに済んだというのが彼等の見解だった。
幸い、彼等の所属する習志野駐屯地の第一空挺師団や他の部隊は技研襲撃の囮となったテロの鎮圧に向かったので直接的な死傷者は少なかったが、他部隊に数多くの死傷者が出たという事実は大きなショックを彼等に与えたのだ。
もっとも、彼等とて真に憎むべきは襲撃者であり、技研を恨むのはお門違いというのは分かっている。
だが、当の技研は数人の関係者が収監・免職・減棒で済まされ、他の者は相変わらず国費で研究を続けているという事実に納得できないものがあったのだ。
「どっちにしても、ホワイトホールの予備は本当に無いからな。欲しかったら自分で作れって言うしかないな」
「WAPなんて代物を開発できるんだから、あいつらなら複製ぐらいやりそうだしな」
そんなことを話していると、二人は官舎とは違う場所にたどり着いた。
話しているうちに道を間違えて別のところに来たらしい。
「ありゃ、整備場に来ちまったか……どうする。見ていくか?」
「だな」
どうせあとは自分たちにとって用事もなく休養するだけと思った二人は整備場に入っていく。
機体整備ハンガーには、レイバーを始めとする二足歩行兵器類が並び、その傍らには装甲車が順番を待つように並んでいる。
やはり、もっとも数が多いのは99式空挺レイバー「ヘルダイバー」だ。
他機種と比較しても生産性の面で優れていることや、製造・開発元である篠原重工八王子工場のラインが開発ノウハウを持つ従業員ともども出現していたため、現在でも安定供給がなされている。
いずれは、後継機に替わられるだろうが、当分はこれが空挺部隊の主力であり続けるだろう。
その近くには数機の2式歩行戦闘車「HIGH-MACS」が並んでいる。
融合時には実験小隊二個とその予備パーツが出現していたが、現在では研究資料として補完状態にある。
ホワイトホールの開発元だったという石川島播磨重工がHIGH-MACSの開発された同一世界の出身ではなかった為にこれらが、フルコピーされて量産される可能性は低い。
しかし、攻撃ヘリの代替機として研究されていることや、今回技研がホワイトホールを欲しがっていたことからその性能は決して低いものではない。
後年わかったことだが、技研がWAPやPLDの開発以前はレイバーやASの持つ格闘戦能力をHIGH-MACSに付与する事を想定し、融合させた新型機を研究していたそうである。
「あっちの隅っこに並んでいるのはなんだ?」
「以前、どこぞで見つかったという装甲車と聞いたが……」
二人の見る方に在ったのは、防水シートをかけられた数台の車両。
いずれも6個の車輪を装備し、上部から砲身らしきものが突き出しているが、異様なのはその車輪配備だった。
6個の車輪はまるで昆虫の様に車体から突き出した「足」の先端に取り付けられている。
その内真ん中の2個は車輪が車体の外側へ向いており、前進することを想定してないかのような配置がなされていた。
「あの車両に興味でもあるのか?」
いきなり背後から聞こえた一言に二人は振り向く。
そこに立っていたのは、いかにも古参兵という空気を漂わせる人物――整備班長――だった。
「ええ、まぁ……変わった形でしたので」
「まるで虫みたいだなと思いました」
二人は車両を見た第一印象をそのまま話す。
それを聞いた整備班長は、どこか面白そうに頷いてみせた。
「そいつは俺達があれを見たときの感想と同じだな。あれは、他の世界で自衛隊に配備されていた車両らしくてな。正式名称は“零伍式6輪高機動戦闘車(TYPE-05 HI-MOBILITY 6X6 COMBAT VHEHICLE)”。通称ガンローラーと呼ばれている」
「ガンローラーねぇ……」
「つまり装輪戦車ってことですか……」
「平たく言えばそういうことだ」
整備班長の説明を聞きながら二人が見ていた「ガンローラー」と呼ばれる車両。
これが、その機動力の高さと運動性から彼等が先ほど話題となっていた技研での研究対象となっていると知ればどんな顔をしただろうか。
技研が現在進めている主な開発兵器は、DoLLSとの共同で行なっている新型PLDの他に新型車両の開発計画が二つあった。
一つは「Jストライカー」と仮称される装輪装甲車に関する計画である。
これについては、4月の技研襲撃で計画に関する情報は一部が失われた後に再スタートしていた。
だが、融合後の新技術を用いて開発するというコンセプトがあった為、主機であるハイブリッドエンジンや駆動系のインホイールモーターについて技術的課題が多く、難航していたのである。
しかし、DoLLSの出現により新たな技術を得られたことで、その計画は再び動き出していた。
早ければ、今年の年末あるいは翌年にも試作一号車が完成するのではないかと噂されている。
もう一つが「多脚戦車」の開発計画だった。
こちらは、ある意味主力戦車の開発中断により生じた副産物的なものだった。
元々、技研の目標は90式を始めとする既存の車両に代わる新技術を投入したMBTの開発であり多脚戦車はその一つ程度にしか見られてなかったのである。
事態が大きく動いたのは、昨年の冬のことだ。
三菱重工を始めとする民間軍需メーカーにより開発されていたMBTが11月末に試作車両が完成、先行量産型が自衛隊へ引き渡された後試験運用を経て今年の3月に「02式戦車」として採用すると発表されたのである。
これは、技研にとって衝撃的な出来事だった。
技研は新型MBT開発にあたって、準備不足だったことから開発の発注こそ民間に許したが、一方で仕様を発表し防衛省(当時は防衛庁)での内示においても試作車両の開発は翌2年春以降であることを発表していた。
周知が進んでいた一方で、三菱を始めとする民間メーカーの開発しているMBTが「熟成された既存技術の集大成」的な代物と聞いて、自分たちの車両が短期間で取って代わるとすら思っていたのである。
だが、02式戦車は「一両でも多くのMBTを前線へ」という実戦部隊側の要求に応えるべく作られただけあり、生産性に優れコストも低く抑えられながらも優秀な性能のMBTだった。
続々とロールアウトし、配備が進む02式戦車を尻目に技研の開発チームがあせったのは当然だった。
その矢先に技研の襲撃事件と統制違反が発覚し、以後技研は改修・性能向上研究とそれに伴う民間企業との共同研究を除きMBTの開発から実質外れることとなる。
しかし、MBTを開発する上での研究データは先の襲撃事件でもごく一部が失われたのみで、多くは無事だったことからこれらのデータを用いて他の車両を新規開発することは認められていた。
このため、技研は一連の問題が収束した直後より研究を開始。
新規開発するべき車両を「MBTやWAPの戦闘時においてその補助を行なう戦闘車両」と定めた。
新開発される戦闘車両は、新型MBT開発研究当時のコンセプトと同様「ハイテク重視による省力化・省人化」を第一として、MBTやWAPの補助という点から新たなコンセプトを盛り込まれた。
それは「移動手段に『足』を用いる」というものだった。
一部では何もそこまでやらなくてもという声もあったが、これに対して発案者(確か飯野という苗字である)は以下のように反論している。
「足を用いることでMBTでは進入が難しい湿地帯や高地でもある程度の走破性が得られる。大丈夫だ、問題ない」
他にも、どこまで行っても補助車両の扱いならメインとなるMBTやWAPほど大量生産するわけでもないから、整備の点でも問題になることは少ないとも付け加えて発案者の人物は反論を終えた。
結局「多脚戦車」の案は会議の場で開発が決定したが、問題は参考となる車両探しだった。
流石に参考となるものはそうそう簡単には見つからなかったのである。
唯一、4脚式走行システムを持っていたHAL-X10を参考にして計画案が練られたが、高速移動時はホバー移動をメインとしているこの機体も決して相性がいい物とは言えなかった。
と言うのも、ホバー移動では速度が速すぎて逆に戦車との連携に問題が有ったのだ。
ちょうどこの時期、東欧戦争にてソ連軍が投入していたホバークラフト戦車「パルイーフ」も高い戦闘能力を誇った一方、狭い戦場では些細な操縦ミスで崖に突っ込み袋叩きと言う事態に陥ってる事が伝えられていた事を考えると、ホバー移動主体の戦術は問題があることが予測できた。
しかし、X-10以外のクラブマン・ハイレッグやぴっけるくんの様な一般作業用レイバー類は強度・防御力の面で不安が残り、パンドラの箱にあったモノは未だ解析中でその中に該当するものは見つかってなかったのである。
そんな中、習志野駐屯地に変わった戦闘車両があると知った開発チームはその車両を調査することとした。
それが当の「ガンローラー」だったのである。
テストの結果は予想通りであり、6輪が完全に独立した構造ゆえにきわめて高い機動性・運動性を発揮したことで技研の関係者に「これこそ多脚戦車の参考になる」と言わしめたのである。
既にこの時期、習志野駐屯地から一台が技研に運び込まれて構造解析の真っ最中であるとのことで、近く解析データを元にした多脚戦車の設計が始まると噂されている。
そして、この時開発された多脚戦車が後に公安9課等で運用されることとなる半自律型戦闘車両「思考戦車シリーズ」につながっていくのだが、それは少し未来の話である。
最終更新:2011年02月20日 20:54