新世紀2年8月30日 9:30
北海道紋別市 紋別港埠頭

「これで全てだな」
「ええ、最初の輸送が無事済んだことで先方も安心していました」

輸送船から降ろされる最後の戦闘車両を見ながら、二人の男が話している。
彼等は未だにある程度の勢力を維持している「赤い日本」の残存部隊に所属する将兵であった。

そして、彼等の近くに停泊している大型輸送船。
外見は単なる貿易船であるが、そのマストに掲げられた国旗を見れば日本連合の関係者は思わず度肝を抜かれただろう。

掲げられているのは星条旗。
そう、それは「赤い日本」を裏から支援する為にアメリカが送り込んだ封鎖突破船による輸送船団だった。

「封鎖突破船と言うが、結局は高速輸送船じゃないか。大層な言い方だな」
「いっそのこと我々も柳船(やなぎせん……第二次大戦中に日本が用いた封鎖突破船の秘匿名称)とでも呼んでやりますか?」

士官の一言に部下の下士官は船団の方を見て言う。
一方の士官は、それに対して面白くも無いという表情を浮かべながらもうなづいてみせると、視線を輸送船から少し離れた場所へと向けた。

(しかし、連中もただで物資をよこしてくるとはいえ船を失うのは怖いか)

その視線の先に停泊しているのは、アメリカ海軍の駆逐艦。
輸送船団の護衛として一隻だけ送り込まれた艦艇である。

だが、その駆逐艦の姿は異様だった。

船体、艦橋のどちらにも殆ど凹凸が無く、直線と平面からなる外見。
何より、甲板が海面スレスレのところに来ているのを見ると、浸水しているではないかと錯覚させられる。

異形の駆逐艦は、その名を「ルー・ゲーリック」という。

かつての偉大なる野球選手の名を冠したこの艦。
彼等は知るよしも無かったが、4月に起きた技研襲撃事件の際に日本近海で極秘裏に活動していたのがこの艦である。
その隠密行動性能を買われ、今回は「赤い日本」への支援物資を運ぶ船団の護衛任務に就いていたのだ。

「……足りないとは、思わんか?」
「は?」

いきなり士官の発した言葉に下士官は意味がわからないと首をかしげる。

「連中が、今回持ち込んだ物資がな」
「今回は一度目です。やはりこちらに対する警戒心もあるでしょうし」
「だが、当初より少ない物資しか寄越さないというのは明らかな契約違反だろう……ならば、埋め合わせが必要だ」

そこまで言った士官は、そのまま駆逐艦の方へと歩いていく。
下士官は思わず呼び止めようとしたが、相手が相手だったため結局は止めなかった。
彼はむしろ、士官が立ち去ってくれて強烈なプレッシャーから解放されたことに安堵すらしていたのだから。

その為、士官が無線機で何か指示を出すところを見落としていた。
ある意味当然かもしれないが。

「ルー・ゲーリック」艦内

現在のアメリカにおいて、合衆国海軍の肩身は非常に狭いものとなっている。
時空融合によって南米に出現した敵性体との戦いにおいて主役を務めるのは、もっぱら陸軍と空軍であり海軍の任務は空母から艦載機を送り出して陸上の戦いを援護するか対地ミサイルによる攻撃を行なうぐらいしか無いからだ。

当然、予算も削られる一方であり海軍の将官は日々自分たちの立場が弱くなっていくのと認識していた。
そこに来て、このところ連続して発生している原潜の行方不明事故とハワイに出現し、日本連合が送りつけてきたWWⅡ時代から来たという太平洋艦隊の水兵が起こした不祥事……。

海軍上層部の悩みの種は尽きず、現在では信用の回復もかねてこのようにイレギュラーな任務も行なっているのである。

また、WWⅡ前後の時代から来た太平洋艦隊はこの頃、人員・機材がまとめてカナダへ売り飛ばされていた。
要するに、事実上の戦力外通告を突きつけられると同時に厄介払いされたのだ。

自分たちの意見を無視された上、一方的に放逐されることとなった太平洋艦隊の将兵がどれほど怒り狂ったかはもはや説明の必要も無いだろう。

そのような中で、この「ルー・ゲーリック」が現在も合衆国海軍に籍を置くことができたのは、艦と人員が2018年からの出現だった為2050年代のアメリカにも馴染み易かった事。
更にステルス装甲やレールガンなどの優れた装備を有し、融合前の出身世界でも日本との戦争で活躍していたからであった。

さて、船団護衛という本来の用途とは異なる任務にあったルー・ゲーリックの艦内は少しばかりあわただしくなっていた。

「何?見学者だと?」
「いきなりのことでして私も驚きました。とりあえず上陸させず待たせていますが、いかがします……?」

ルー・ゲーリックの艦長、ジミー・カーク大佐はその報告を聞いたとき思わずハトが豆鉄砲を食らったような表情を浮かべた。
ステルス駆逐艦にとってある意味不本意な任務がようやく終わり、あと少しで抜錨し出航するというタイミングでこの話が来たのだから無理も無い。

(何のつもりだ。ただの好奇心からではあるまい……いや、むしろ罠と考えて警戒するべきではないか……?)

相手の意図が読めず、思案するカーク。

「乗艦希望者は何名だ?」
「士官が一名のみです」

しかし、人数は士官が一名のみというのを聞いた彼はその報告に頬を緩める。

「一人なら問題あるまい。だが、事前のボディチェックは入念にやれ」
「了解しました」

一方、許可が出たことを聞いた当の士官は早速乗艦しようとしたところを二人の水兵に止められる。

「武器類はお預かりします」
「本艦の規則でございますので」
「ふむ、ならいたし方あるまい。これでいいかな?」

水兵の言葉に、士官は流暢な英語でそう言ったかと思うと腰の拳銃とコンバットナイフを二人に渡す。
すると、彼等の一人が士官の体を触り、胸ポケットの感触に表情を変える。

「胸ポケットの中も確認させていただきます」
「ああ、かまわんよ」

だが、水兵達は出てきたものに肩透かしを食らう。
そこにあったのは軍隊手帳とボールペン、そして煙草とライターだったからだ。

「私物だよ。返してもらえるかね?」
「え、は、はい……」

出てきたものが武器の類ではなかったことで、気の抜けた水兵たちはそれらを士官に返却すると、彼をそのまま艦内に通した。
甲板に上がった士官が、そのときチラリと艦の後方を見たのを水兵たちは遂に気づかなかった。

「実は、艦長と話がしたいのだが」
「少々お待ちください、問い合わせます……」

士官が途中で案内の水兵にそう言うと、若い水兵は艦内電話で何処にか連絡をとり始める。
しばらくして許可が出たらしく、士官はそのまま艦長室に通された。

「ようこそ、当艦へ。お名前は何と仰いましたかな……?」
「山田太郎と申します。この度はお会いできて光栄です。ジミー・カーク艦長」
「ほう、こちらの名前をご存知とは」

意外な顔をする艦長に士官は「事前に上から話は聞いている」という返答をしてみせる。
艦長に促されてソファーに座った士官は、相手の様子を伺う。

(艦長の背後に一人、あれは護衛だな。そして通路の扉越しにもう一人の護衛……ザルだな。いや、こっちが丸腰だから無警戒なのか)
「ところでオフィサー・ヤマダ、今回は見学との事でしたが急にこちらへこられるとはどのようなご用件がおありですかな?」
「ええ、実は今後の物資提供に関しての話をと思いましてね……」

だが、視線を泳がせたのも一瞬。
艦長の言葉に彼は、さも重要な用件があったかのように話を切り出す。

「ほう、今後の事とは?」
「その前に、水を一杯いただけませんか」
「用意させましょう。君、こちらの方に水を」

すぐに、護衛の水兵が水の入ったコップと水差しを用意する。
出されたコップに口をつけ、水を口に含んだ士官はすぐ眉をひそめて口を開く。

「おい、何だこれは?こんな糞不味い物を出してタダで済むと思っているか!?」
「!?」

先ほどまでとは打って変わって乱暴な口調に艦長も水兵も思わず硬直する。
その直後だった。

いきなり水兵の顔面に水差しが叩きつけられ、席を立った士官がテーブルを超えて水兵に飛びかかる。

その手に握られているのはボールペン。

仰向けに水兵を押し倒した士官は、ボールペンを水兵のコメカミに突き立てる。
一瞬のことに、水兵は何が起こったのかわからないという表情のまま、絶命した。

「い、一体何が……!?」
「こういうことですよ艦長」

あまりの出来事に助けを呼ぶのも忘れて呆然としている艦長に、士官は水兵のホルスターから拳銃を抜き取りコッキングすると銃口を艦長に向けた。
そして、そのまま一発。

軽い銃声とともに、額を撃ち抜かれた艦長も多量の血を撒き散らしてその場に崩れ落ちる。

その時、艦長室のドアが開く。
銃声を聞いて、何事かと拳銃を手にした護衛の水兵が飛び込んできたのだ。

それも予想していた士官は、その水兵が事態を把握するより先に胸と頭を撃ち抜く。

死亡を確認する必要は無かった。
誰の目に見ても死んだのは明らかだったからだ。

すぐさま艦長のIDカード、水兵の拳銃と弾を回収した士官は無線で一言命令を発する。

「開始しろ」

この間にも、他の乗員がこちらに向かってくる様子もない。
彼は艦長室を出ると、そのままブリッジを目指す。

途中、自分と同じ軍服を着た兵士達――彼の部下――と合流し、ブリッジの扉に辿り着いた士官は艦長のIDカードをスリットに差し込み扉を開く。

「艦長……な、何だお前等は!?」
「残念だが、艦長は死んだよ」

いきなりの侵入者に驚く副長の足に向けて一発発砲する士官。
左足を撃ち抜かれた副長が倒れこむのを見て、ブリッジは半ばパニック状態になる。

「無駄な抵抗はやめろ!この艦は我々が接収する。だが、こちらの要求を聞くならば全員解放してやる」

士官の両脇を固めるように二人の部下がブリッジの要員に銃口を向け、士官自らは副長に銃を突きつける。
背後にはもう一人護衛が立ち、ブリッジの外に銃を向けている。

一応扉はロックされていたが、強引に開かれた際の保険でもある。

「一体、何を……?」
「何、簡単だよ。少しばかり足りないものを補填してもらうのさ。まずは、船団に出航を命じていただきたい」

意外な一言。
ブリッジ要員はうろたえるが、副長が頷くのを見て全員が準備を始める。

「ああ、悪いが無線は故障中ということで頼む」

士官が部下の一人に目で合図すると、部下は通信手を押しのけ無線機に数回発砲する。
銃声の後には、腰を抜かした通信手と残骸と化した本国との暗号通信を可能にする高性能無線機が残された。

「本国に救難信号を送ったり、南日本(日本連合のこと)の連中に投降されても困るのでね。安心しろ、こっちの用件をすべて飲めば解放してやる」
「わ、わかった……発光信号を送れ」

副長の命令により、発光信号で「ワレ出航ス。続ケ」との命令が各輸送船に送られる。
これまでに無かった連絡方法を怪しむものもいたが、相手は戦闘艦艇ということもあり、それ以上詮索するものもいなかった。

それから、1時間もしないうちに船団は紋別を離れた。
日本連合によるSOSUS網の穴を抜け、海上保安庁と海自の警戒網を抜ける。

その間にも士官は部下に命令を出す。
しかも、日本語とロシア語を織り交ぜ内容を副長以下水兵に判らぬようにする念の入れようだ。

一方、部下の一人はブリッジ要員から装備類の使用方法を聞きだしていく。

反抗しようとしたり、逆に取り押さえようとするものはいなかった。
それをやろうとして既に数名が返り討ちに会っていたからだ。

なにより、艦長が死亡し副長が人質になっている状況では抵抗のしようがなかった。

やがて船団が千島・樺太の沿岸からも離れた海域まで達すると、士官は口を開く。

「さて、ここで要求を出させてもらう。諸君等には直ちに艦を降りていただく」
「やはり乗っ取りか……しかし、我々が下艦すれば君たちに艦を操縦することはできんぞ……」
「ご心配は無用だ。我々には我々のやり方があるのでね」

士官が副長と話している間に、一隻の輸送船が接舷しようと接近してくる。
発光信号で部下が呼び寄せたのだろう。

予定通りだと心の中でつぶやいた士官は、ブリッジ要員の方を見ると甲板に上がるよう命じた。

接舷と同時に、甲板に上がった乗員が次々と輸送船へ移乗する。
輸送船の船員は、その異常な状況に戸惑ったが艦の主砲であるレールガンの砲口が自分たちに向けられているのを見て、水兵の受け入れを急いだ。

最後に副長が部下と軍医に付き添われて移乗し、輸送船が離れるのを見とどけた士官はブリッジに戻った。

「さて、約束どおり『解放』はしてやった。ここからは我々のやり方を披露するか……火器の操作方法は聞き出しているな?」
「はっ!」
「では早速だが、連中の輸送船……全て撃沈しろ」
「っ!よ、よろしいのですか……?」

士官の一言に、彼の部下は思わず聞き返す。
相手が米帝の船舶とはいえ、いきなり無防備な相手を撃沈しろとはあまりにも酷い話だ。

「早くしろ。ボヤボヤしていたら連中が射程距離から離脱する。それに、南日本の連中に察知されると拙い」
「わ、わかりました……」

まだ、迷いの色があるものの士官の前で部下がブリッジ要員から聞き出した通り主砲を操作し、照準を合わせる。
次の瞬間、レールガンの砲口から砲弾が放たれた。

最初の一発目は最も離れた先行する輸送船に命中する。
機関部を直撃したのだろう、輸送船は遠目に見ても判るほどの炎と煙を上げながら急速に傾斜していく。
生存者がいないのは明らかだった。

残る2隻はというと、やはり先行する船が爆沈した意味が理解できないのか進路を変えようともしない。

そこに二射目が放たれた。
今度も船尾から直撃したかと思った直後、爆発によって上部構造物が炎に包まれる。
最後の一隻がようやく進路を変えて逃走に移らんとする。

「ふん、ようやく状況が理解できたか。もっとも手遅れだがな」

側面を晒している輸送船に向けて放たれたのは、ミサイルだった。
舷側を狙って海面スレスレを飛ぶ二発の対艦ミサイル。

輸送船は回避運動に入ろうとするが、所詮は民間船舶である。
一発は船体の側面中央に命中し、もう一発はブリッジ部と思われる上部構造物へと直撃する。
前の二隻よりも大きな火柱と黒煙が立ち上らせた輸送船は、10分も経たぬうちに傾斜し転覆するとそのまま沈没した。

「連中の始末は終わったな……さて、最後の後始末だ。この艦の爆破準備急げ、自沈させた上で我々は脱出する」

この言葉には士官の部下全員が驚く。
せっかく手に入れた強力な艦をみすみす手放すというのか。

「考えてみろ、自動操縦を解除したところでたかだか10名足らずの我々が紋別までこの艦を操って帰還できると思うか?」
「しかし、あまりにももったいない……」
「判っている。だからそれなりのモノは頂いていくさ」

そこまで言った士官は、時間が無いことを告げて作業に入るよう命じた。
今の輸送船撃沈で確実に南日本の連中も気づいたはずだ。

部下が持ち込んだ起爆装置と爆薬を弾薬庫や機関室に仕掛け、脱出用のボートを海面に降ろす。
最後に乗り込んだ士官の手には彼が艦内より持ち出したものを詰めた鞄があった。

彼等が艦を離れた5分後、「ルー・ゲーリック」は時限式起爆装置と爆薬によりまず弾薬庫、続いて機関部から巨大な火柱を立ち上らせ、船体を三つに引き裂かれて沈没した。
艦を乗っ取った彼等も沈没する姿を前に敬礼し、その最後を見送った。

「一体、何を持ち出されたのです?」
「簡単だ。連中の暗号解読書とレールガンのマニュアルさ。他にも色々持ち出したが、これは利用できそうだと思えたのでな」

士官が持ち出したものは、いずれも重要機密あるいはそれに近いレベルのものだった。
艦艇一隻の中にあったものなどたかが知れているが、暗号解読書は今後米国の動きを知る上で役立つだろう。
レールガンのマニュアルも内容を理解できるものに渡せば何かの役に立つかもしれない。

「さて、空が晴れ上がる前に海岸を目指すぞ」

彼等を乗せたボートは、元来た航路を引き返し始める。
今のうちなら南日本の航空機も自分たちに気付くことはないだろう。

「しかし、大丈夫でしょうか?南日本は領海内に警戒網を設置しているという話があります。場合によっては我々も奴等の網に……」
「貴様は気が付かなかったのか?なぜ、米国の連中がここまで辿り着けたのかということに」
「え、それはまさか……」
「そのまさかだ。こちらとて何もせずに迎え入れたりするものか」

士官の言うように「赤い日本」側も日本連合の設置したSOSUS網を忘れていたわけではない。
にも関わらずアメリカの輸送船団は警戒網を突破し、紋別に到達した。

それは、「赤い日本」によるSOSUS網の無力化によるものだった。
樺太の本土を失った「赤い日本」にとって外界との唯一の窓口である紋別を無力化されることは、彼等にすれば避けたいことだったのは容易に想像できる。

しかし、日本連合側が海中に設置したSOSUS網の警戒センサー類に手を出すのは難しく、センサーそのものについても極めて強固な構造であり何らかの工作を仕掛けるのはリスクが大きいと判断された。
そこで彼等はあるものに目を付けた。

それはセンサーと共に海底へ設置された送信ケーブルである。
センサーそのものに手をつけられずとも、海中ケーブルやそれらを接続するコネクターといった仕掛けが無い物に対する工作は、センサー類へのそれと比べて容易い。
しかも、一度設置すれば場所が場所であるから発覚しても取り除くには時間もかかるというわけだ。

SOSUS網の設置後、彼等は設置されたセンサーの一つを発見し、その周囲を紋別港に所属する漁船で航行し探知されるかを検証した。
結果はセンサーに引っかからず、問題はないことが判明すると彼等は準備しておいた工作を実行したのである。

地元の漁師や潜水夫に金を握らせ、偽装された通信ケーブルを発見するとケーブルに通信妨害装置をとりつけたのである。
具体的には通常時は異常なし時の信号データを記憶装置にコピーし、妨害工作の際にはこのコピーしたデータを用いてセンサーからの送信データを異常なしに置き換えるタイプの物だ。

これにより、センサーの周辺海域をなんらかの物体が通過し、異常を認識してもそのデータが届かない事になる。
電源についてはケーブルから取り込める構造とし、故障しない限りはセンサーの供給電源を横取りする形で稼働し続けることが可能。
しかし、常時稼働させたのでは発覚する可能性もそれだけ高まる為、遠隔操作により必要に応じて作動させる様に工夫が施されていた。

今回の輸送船団によるSOSUS網突破の背景にはこの様な出来事があったのだ。

この事実に日本連合サイドが気づくのは、紋別奪還作戦が行われた後であった。
さらにこれらの欺瞞工作に対しての対策が立てられ始めたのは「首都新浜・福岡世界」の高度電脳化技術が障害者向け等に普及しはじめて高度な知覚を持つ電脳化オペレータが前線部隊に入り、一部の世界で実用化されていた量子暗号技術の複製が可能になってからである。

「さて、もう暫く進めば合流地点だ。このボートもすぐ沈める準備をしておけ」
「合流とはどういうことです?」<br/>
「話している暇は無い、見えてきたぞ」

士官の目を向けている方向から一隻の船舶が接近してくる。
それは、あらかじめ理由を告げず金だけ握らせて出航させておいた漁船だった。

この一ヶ月後、合衆国は駆逐艦ルー・ゲーリックと輸送船三隻のロストを「救難信号を発する間もなく海難事故に巻き込まれた」と判断し、船籍からそれそれの名前を削除した。

一方、日本連合はSOSUS網の発した信号から該当海域を海上と空から調査したが、駆けつけたときにはすでに油が浮いているだけであった。
そして、当日現場海域を航行している船舶の情報が無かったことから「何らかの海難事故があったのは事実だが、それが何処のどのような船舶であったかは不明」と結論付けたのである。

To Be Continued.
最終更新:2011年02月19日 23:43