• 承前-

その日、アメリカ海軍所属ガトー級潜水艦 SS-257「ハーダー」は予定されていたスケジュール通りに浮上した……はずだった。
だが、浮上したハーダーの乗組員らは、自分たちの艦の脇に突如現れた奇妙な物体に首をかしげることとなる。

その物体は、直径8m、海面下を含めた高さ4mほどの円盤状をしており、中心から見た事が無い巨大な錨を垂らした金属製のブイ。
なぜか黄色く塗装された上面には透明なプラスチックで覆われた雲母のような板が貼り付けられているほか、この戦時中に明々と点滅する航法灯を頂点に付けた高さ5mほどのアンテナが設置されているという何の意味があるのかわからない物体だった。

だが、その物体に書かれた文字を見てさらに艦内は大騒ぎになる。

「……United of Japan Defence Navy?……」

その表記を見て、大して深く考えずにこの物体が日本の物であると判断したハーダー艦長、サミュエル・D・ディーレイ少佐は砲撃にて破壊することを命令。
幾分もなくハーダーの4インチ砲が咆え、その奇妙な物体は爆発と共に沈んでいく……。

が、彼らは知る由もなかった。

世界は変わってしまったことを。
彼らは違う世界に来てしまったことを。

そして彼らは、その事実を最悪の形で教えられることとなる。

スーパーSF大戦外伝

第11護衛隊戦記


新世紀4年 8月5日 19:30分
パラオ共和国 コロール島 コロール港

日本連合防衛海軍 第21護衛隊所属
護衛艦 DDE-1451「島風」CIC

「観測ブイG-01501、反応ロスト。おそらく攻撃されたものと思われます」

オペレータが「最上」から伝えられた情報を報告する。

ハワイからミクロネシア連邦、パラオを経由して帰還する輸送船団を護衛する任務に就いていた臨編第121護衛隊……第11護衛隊の旗艦「最上」と「島風」型駆逐艦4隻に加えてミクロネシア連邦海域護衛のために駐留していたが、メンテナンスのために呉へ帰還する第66護衛隊の暁形LCS(沿海域戦闘艦)4隻を加えた編成で最後の寄港地であるパラオに停泊していた。
だが、周辺海域の観測ブイに「お客さん」の反応有り……とのことで半舷上陸中のクルーを至急呼び戻し待機しているさなかの「ブイ反応消失」の報せに緊張はさらに高まった。

ブイから送られてきた最後の情報を見るに、出現した艦艇は米海軍ガトー級潜水艦、「ハーダー」。
本来の歴史であれば多数の日本艦を撃沈した「武勲艦」だ。

大戦当時の米海軍艦が揺り戻しで出現した場合は「可能な限り撃沈はせず拿捕すること。最悪艦は沈めても乗員は救助せよ」と統合幕僚本部からは通達されていた。自沈防止のための浮力材すら各艦には与えられている。
これは時空融合当初、在日米軍撤退時の密約――米本国にて政治的異常が発生した場合、日本連合は抵抗組織への支援を行ってほしい――に基づき可能な限り抵抗組織へ人材を用意するという意図が有った。
本来なら拿捕したうえで丁寧に「お迎え」するべきだろう。

現にこの5月、アメリカでは史上5人目となる大統領の暗殺事件が発生しており、アメリカの情勢は坂を転がり落ちるかのように悪化している。
アメリカに全体主義政権が誕生するかもしれない、と言う事は国際情勢をいささか中立性に問題があるマスメディアを通してしか知らない一般市民でも周知の事実となっていた。

いつ終わるとしれない殺戮機械集団……ムーとの戦いを進めるうえでは国民皆兵体制を取らねばならないという思考になるのは理解できなくもないが元来覇権主義のアメリカが全体主義化するというのは性質の悪い冗談でしかない。
そのことを考えると、現在日本連合が異なる世界からの出現であった故に大統領の座を追われた数名の人物を中核に水面下で結成を支援している反体制組織……の存在は重要であり、アメリカ国内から「脱出」できる人材の数が限られていることを考えるとこの揺り戻しで出現したアメリカ海軍・海兵隊将兵は貴重な人材であることは理解していた。

だが、出現した対象が「ハーダー」ということが判明した直後から第121護衛隊……特に第66護衛隊のLCS-22「雷(いかづち)」、LCS-23「電(いなづま)」のクルーは複雑な感情を抱かずに居られなかった。
ハーダーが沈めた日本艦の中には雷も入っている。
それのみならず、報告書にあった撃沈報告の一文は雷クルーすべての逆鱗に触れたと言っても良かった。

そんな相手の出現である。

雷は太平洋戦争開戦前の時点からの出現ではあったが、「本来の歴史であれば自分たちを沈めた相手」を可能な限り傷つけずに拿捕せよ、と言うのはクルーにとって承服しがたい話だった。

いや、それは何も雷のクルーだけではなく旧海軍出身者や戦時中の世界から出現した日本の船乗りなら皆同じだったと言える。
太平洋戦争中に日本の生命線をズタズタに破壊したのはガトー級潜水艦を中心とした通商破壊であり、同時に膨大な艦艇と優秀な船乗りが海の藻屑と消えた原因でもあったからだ。
そして、戦後の自衛隊が世界最強の対潜能力を持つに至ったのもこの時の犠牲がそれだけすさまじいものだったからに他ならない。

しかし、そんな彼らの思いとは裏腹に海上防衛軍の上層部は米海軍の艦艇が出現した時の処遇に関しては殊更気を遣っていた。
一応ある事件とその結末により日本連合側は反チラム組織から「揺り戻し出現した艦艇の処遇は一任する」という言質を得ているとはいえ、一方的に沈めてしまうというのは人道上許されなかったのである。
それでも感情的なもつれで「虐殺」になる事を避けるため、本来の歴史で自分たちを沈めた艦の拿捕を任務にすることは避けるようにしてきたのが今迄であった。

だが、今回問題の海域に急行できる立場にあるのは第121護衛隊のみ。
その中でも最上は東京から連絡機で来ることになっている説得要員の出迎えで待機せねばならず、追跡任務は島風を旗艦として第11・66護衛隊の駆逐艦・沿海域戦闘艦8隻で行うことになる。すでにコロールの空港からはP-1が追跡のために離陸しており、任務自体は「お使い」と言って良い程度の話だ。

だが、因縁深きハーダーの追跡拿捕任務を雷と電のクルーが行えるか。
司令部が乗艦し、マストに代将旗を掲げることとなったDDE-1451 島風艦長の阿倍野晴仁 中佐にとってそれが気になるところであった。

二隻のクルーのことを信頼していないわけではないが、感情より任務を優先させられるか否か状況が余りにも特殊過ぎて「外野」である戦後自衛隊出身者の阿倍野からすると判断ができない。
思わず阿倍野はこの艦で彼のみが話すことができる『存在』を探した。

「呼んだ?艦長」

幾分もなく、駆逐艦のCICと言う場所に似つかわしくない少女の声が阿倍野の耳に入る。

「……雷と電はどうしてる?」

阿倍野のみがコンタクトを取れる少女の声……「島風」の船魂はしばらく逡巡したそぶりを見せたが口を開いた。

「迷ってる。クルーのみんなの感情に当てられちゃってるところもあると思うけど」
「やっぱりか……」

思わず『思考』ではなく言葉として口に出てしまう。
近場に居た部下に不審がられるが、それは何とか誤魔化す。
島風の艦長を拝命してから2年半、時折「船魂」との会話で思わず声を出してしまい部下に怪しまれてはいるが、誤魔化すテクニックは鍛えている阿倍野であった。

同じころ。
コロール港の一角に島風ら第11護衛隊と並んで停泊している4隻の小型の駆逐艦……。
第66護衛隊を構成する4隻の暁型LCS……LCS-21「暁(あかつき)」22「響(ひびき)」23「雷」24「電」である。

煌々とした照明に照らされ、燃料補給車や電源車が接続されて出撃前のあわただしい雰囲気があたりを支配しているが、出撃前の緊張感とは違う「何か」がこの4隻のクルーからは漂っていた。

そんな中、雷の艦橋の上に一人の人影が現れる。
見た感じ中学生……セーラー服を着ていなければ小学生とみられても可笑しくないような容姿の、明るい茶色と言った感じの髪の毛をセミロングにして、ヘアクリップでまとめた少女だ。

彼女は出撃前のごった返すクルーたちを見つめ、ふぅっと溜息をつく。
彼女には、クルーたちの発する戸惑いと怒りが痛いほど感じられていたのだ。

「雷ちゃん」

後ろから声がする。
振り向くと隣に停泊している同型艦……「電」の艦橋上、フェイズドアレイレーダーに腰掛けた少女の姿が有った。
雷とよく似た容姿の、こちらは髪の毛をバレッタで軽くアップに結い上げたスタイルが特徴の少女だ。

「電……何よ?」

この場違いな二人の少女こそ、「雷」と「電」の船魂である。
暁形4隻の中でも、この二隻同じ任務に投入されることが多かったのか船魂の外見もよく似ている。

「そっちはどうです?」
「……みんな怖い顔してる。電は?」

雷が聞くと、電も顔を曇らせた。

「こっちもみんな怖い顔してるのです。たぶん、今のままだと『ハーダー』の乗組員さんを殺しちゃいそうで」

電が「殺しちゃいそう」と言ったのも無理はない。
雷のクルーらの中には銃架にM2機銃を装備しようとしている者が居るほどである。

何よりも、彼女らにはクルーらの「感情」がはっきりと見えていたのだ。
雷だけでなく電もその最後は姉妹艦である響の前で潜水艦「ボーンフィッシュ」により撃沈されるというものだったから、ハーダーが発した通信文の内容に怒り狂うのは当然と言えた。

「そう、そっちも同じなのね。止められるなら止めたいけど無理かもしれないわね」
「司令官さんがいてくれたらきっと止められるかもしれないのです。だけど今はここにいてくれないのです……」

二人はそういって同時に溜息をつく。

その二人からやや離れた場所で、同じようないでたちの少女が二人を見守っていた。

白ロシア人を思わせる顔立ちに銀髪のロングヘアをした、物静かな雰囲気を漂わせる少女とどことなく気の強さを感じさせる長い黒髪の少女。

「……『響』……。どうしたらいいと思う?」

黒髪の少女……「暁」の船魂が口を開いた。
彼女もまた、本来の歴史では戦没している。
暁の場合は夜間砲撃戦のさなか、巡洋艦に探照灯を照らしたが故に集中砲撃を受け破壊される……と言う形であったため雷や電に比べると「クルーの怒り」はおとなしかった。

だが、それ故に雷と電がクルーたちの感情に当てられ、戸惑う様に答えを出せずにいた。
旗艦は響でも、長女は私なんだからね。と気負ってみるが、二人の戸惑いの理由をわかっているが故にどうしようもできない。

「大丈夫、今は感情で動いていても頭では皆わかっている」

そんな暁に「響」の船魂は呟くように言う。

「そ、そうよね。感情に流されてそのまま殺しちゃうなんてありえないわよ……」

船魂は基本、島風のように霊能力者がクルーに居ない限り干渉することはできない。
もっとも有名な船魂である「越後」の様に乗り込んでいたクルーへ予知や警告にも似た幻影を見せることが出来る者もいるが、それは大規模な演習や戦いが近いという特殊な精神状態の時に限られる。

それゆえに今、雷と電のクルーたちの精神状態は船魂にとっては最もコンタクトを取りやすい状態であった。

「電……あたしにもできるかな、FCSの把握」

着々と進む出撃準備の中、雷はふとつぶやいた。
いざとなれば、FCSを乗っ取ってアスロックを自爆させようと雷は考えている。

すでに島風が2度ほどシステム把握をやって艦長である阿倍野にその都度怒られているのは雷と電も知っており、自分たちも高性能の電子機器が搭載された今の艦ならシステムを把握するのも不可能ではない気がした。

「……それは、無理らしいのです。島風ちゃんに聞いたら、あれは艦長さんが私達を認識するどころか触れる人だからそれの影響もあって出来るそうです。私たちがやったら反動で消えかねないらしいです」
「そっか……。でも、今の皆なら私の姿が見えるかもしれない、意地でも説得するわ」

突如立ち上がりガッツポーズを取る雷を見て、電は別の意味で不安を感じずにはいられなかった。

『……雷の艦長さんが、私たちと話せる人じゃなくて良かったのです』

内心電は呟く。どうにもこうにも男をダメにしてしまうタイプだな、と改めて姉の言動に不安を感じずにはいられないのだ。

「何か言った?」
「いや、何も」

口に出ていたらしい。
にらみつける雷に思わずはわはわと頭を振って電は誤魔化すが、内心やはり溜息をついてしまうのであった。



「雷の連中、最上と一緒に待機させた方が良いんじゃないですかね?」

最上から島風に移乗してきた司令官の吉川潔 大佐――数年後には准将昇進は確実とされている――に阿倍野は具申……とまで行かないまでにも事情を考え、伝えた。

「阿倍野君、君は知っているかね?雷の艦長だった工藤少佐の話を」
「存じてます。私の世界でも自らの身を顧みず漂流する敵兵を救助した工藤艦長のエピソードは大変な美談として有名でしたから」

スラバヤ沖海戦の際、寮艦「電」と協力し英軍の巡洋艦「エクセタ-」と駆逐艦「エンカウンター」のクルーを救助した時の「雷」艦長、工藤俊作 少佐の話は阿倍野の世界でもよく知られた話だった。
もっとも、当の工藤本人は融合後もこの件については殆ど自分から語ることは無いみたいだが。

当の工藤少佐……現在は中佐に昇進し、隊司令として第66護衛隊の旗艦である響に座乗している……が、運悪く今日の夕方所用が有って連絡機で一足早く厚木へ向かっていた。
現在「雷」の指揮を執っているのは生永邦雄少佐……ハーダーに撃沈された当時と同じ人物である。
生永少佐もまた、史実を見ると雷の救助作業に参加していたらしいが、当の本人はその記憶が無いと同時にハーダーが撃沈報告に加えた一文に対して酷く憤慨していたからだ。

もっとも、工藤中佐による救助を示す証拠は複数存在したから生永少佐本人もこの事を疑ってはいない。
そしてその「証人」たる代表例が現在も工藤の部下として「響」に乗り込んでいるサムエル・フォール大尉であろう。
史実では工藤による救助劇から数十年後に日本へ訪れ、工藤の墓前で感謝の意を伝えたフォールだが、こちらでは英連邦の軍再編後にロンドンから家族や婚約者を日本連合に招いた上で彼も工藤の部下となっていた。

この様な事は珍しい事ではなく、大英連邦の軍再編後も日本連合で最新の技術や戦略・戦術を学ぶ為に「留学」という形で留まったり、あるいは防衛軍に再入隊する者も少なくなかったのである。
しかし、この時それら「説得役」となりうる他国からの編入組である将兵も現在の第121護衛隊にはいなかった。

それ故に、ハーダーの現在位置を特定しながらも即座に有効な手が打てるのか?という多少の迷いが阿倍野にはあったのだ。
一方で吉川の考えは阿倍野のそれとは異なっている様だった。

「俺は、少なくとも雷の乗組員が工藤艦長の薫陶を受けていた以上、たとえ相手を前にしても理性で踏みとどまってくれると信じているよ」
「ですが、万一交戦という事態に陥るならどうするのです」
「先に雷や電の方から攻撃を加えるというなら、有り体に言うなら“殴ってでも止めさせる”。だがハーダーが民間船に危害を加えようとするなら容赦しない。それが、今の日本連合のやり方だろう」
「確かに仰る通りです」

阿倍野が一応は納得したように見えたのか、吉川はふうっと溜息をつくと傍らにあったマグカップのコーヒーを飲み、口調を変えた。

「……シュトゥルム・ウント・ドラング……か」

普段の吉川とは違う聞きなれない言葉に、一瞬阿倍野はきょとんとした顔で吉川を見る。

「日本語で言うと疾風怒濤。18世紀末のドイツにあった感情の理性に対する優越を旨とした思想だそうだ。日本だと戦後書生らがよく言っていたらしいが……」

思わず虚を突かれてしまい、阿倍野はあいまいな返事をする。
吉川の言葉を聞いてまっさきに頭に浮かんだのが「竜巻となって突進する忍者みたいなガンダム」だったとは口が裂けても言えない。

「まぁ、軍人は逆だけどな。感情を理性に優先させていたら部下が死ぬ度に敵討ちを考えなければならなくなる」

カラカラと笑う吉川に、阿倍野はさらに意表を突かれて困惑する。

「部下を死なせるのは決して気分の良いものではない。だが、一度戦場に出るからには覚悟と割り切りが必要だ」
「それはそうですが、やはり自分はまだそこまで踏ん切りが付けられません」
「“戦後”生まれの君ならそう言うと思った。しかし、今後はそうも言ってられんだろう」
「ですね」

この話し合いで雷と電を「ハーダー拿捕作戦」に投入する事は決まった。
ちなみに当のハーダーは現在もP-1哨戒機により位置を捕捉されており、近海を航行する輸送船団や護衛艦には航路を迂回する旨の警告が発せられている。

だが、ハーダーの拿捕が急がれるのには航行する船舶の安全確保以外にも理由があった。
それが、前出の「虐殺行為」が発生する事への危惧であり、ハーダーの出現を聞きつけた他の艦艇が第11護衛隊に先んじて行動に出る可能性が存在した。

「何度もあちらこちらで沈められては敵わん。特に例の『アルバコア』の一件を考えればな。阿倍野君、君も知っているだろう」
「ええ、あれには方々から非難の声が上がりましたからね」

吉川の言葉に阿倍野はうんざりとした表情を浮かべ、同時に他のクルーも阿倍野と似たような表情を浮かべる。



ハーダーが出現する一ヶ月半前の事、マリアナ沖に一隻のガトー級潜水艦が揺り戻しにより出現した。

潜水艦の名は「アルバコア」。
太平洋戦争では航空母艦「大鳳」、軽巡洋艦「天龍」、駆逐艦「漣」「大潮」等の艦艇を沈めた他にも多くの輸送船を撃沈した武勲を持つ艦だった。

アルバコアは自分達が揺り戻しに遭った事など知らずに自らの哨戒任務を兼ねた通商破壊を行なわんとした。
その行動が自らに降り注ぐ悲劇の発端とも知らずに……。

この時、アルバコアの出現した海域の近くを航行していたのはツハミ共和国をはじめとする太平洋の島国と日本連合を行き来する定期便の大型客船と交易船、それを護衛する日本連合の護衛艦群だった。
アルバコアの出現した時点で護衛艦の側は既にその存在を察知していたが、自分達から攻撃を加える意図は無く遠巻きにしてやり過ごし、拿捕と説得は後続に任せれば事足りると考えていた。

その状況が一変したのは、アルバコアの出現から僅か一時間後の事である。
客船の一隻が機関のトラブルにより速度を大幅に落とし、同時に船団の速度も落ちてしまったのだ。
これにより、アルバコアの出現した海域を大きく迂回するはずが逆にアルバコアの側が船団を発見し捕捉するという事態に至ったのである。
護衛艦がすぐさまアルバコアに対する警戒を最大にすると同時に、説得を試みようとしたのは当然と言えたかもしれない。

しかし、日本連合の側が説得と拿捕に動くより早くアルバコアは船団に向けて雷撃を行なった。
幸い魚雷はすべて外れアルバコアも逃走に移った為、護衛艦群はすぐさま一隻を追跡役に残して残りは船団を護衛し目的地に向けて出港するという判断を下した。

誰もがこの判断は間違ってないと思っていた。
その数日後に衝撃的な報告を知るまでは。

それは、この当時の護衛艦群の司令官が「あの時残したのが“あの艦”でなければまた違った結果になっただろう」と後日嘆息するほどのものだったのだから。

この時海域に残った護衛艦の名はDDE-1999-8「美月」。
後に「太平洋戦争の復讐者」「海上防衛軍の忌み子」という仇名で語られ、同時に「史上最も多くの米兵を“一方的に”殺した」事で知られる艦であり、その最初の好餌となったのがアルバコアだったのだ。

船団を離れ単独でアルバコアを追う美月のとった行動は(傍目から見ればだが)最初から拿捕を目的としたモノではなかった。
最初の一撃である07式対潜ミサイルの投下後、その弾頭である魚雷ををアルバコアの至近距離で炸裂させそのまま浮上に追い込んだ美月はアルバコアの乗員が甲板上に飛び出してきたところでCIWSを用いて射撃しクルーを多数射殺後、その海域を離脱したのである。

アルバコアのクルーで生き残ったのは全体の半数弱であり、潜水艦としての戦闘能力はこの時点で失われたと言ってもいい。
その後、アルバコアは他の護衛艦に拿捕されたが艦長をはじめとする生き残りのクルーが極めて重度のシェルショック(戦闘神経症)にあったという。

同時に所属する護衛艦群に対して美月が発した通信文の内容は防衛軍の内部でも問題となってもおかしくないものだった。
その内容は以下のようなモノである。

「ビンナガマグロを一本釣りの後、ネギトロにしてやった。後続に食わせてやるにはいい仕上がりだ」

アルバコアが欧米におけるビンナガマグロの名称であった事と拿捕時の状況から美月が何を行なったかはこの一文から明白だった。
美月の艦長がこの件で査問会にかけられたのは当然と言えば当然である。

しかし、美月の艦長は良く言えば用意周到、悪く言えば狡猾であった。
査問会の席上における彼の主張は「相手が降伏しない以上攻撃を加えるのは当然であり、同時にアルバコアは浮上してなお交戦意欲を失っていなかった」というもので、その証拠となる一本のビデオテープを提出したのである。

そこには浮上したアルバコアのクルーが数名甲板上の艦載砲に向かって走り、その防水布を剥がして砲を向ける姿が映し出されていたのだ。
CGによる捏造を疑問視する声も有ったが、ビデオデータの検証では加工が一切されていないことが確認されている。

これは美月の行動を完全に正当化するものであり、査問委員会も納得せざるを得なかった。
これで査問会は決着した。

余談だが艦載砲を向けた件については、アルバコアの艦長であったジェームス・W・ブランチャード少佐は「砲撃は命じてなかった。一部の水兵が独断で行動した結果だ」と抗弁した。
しかし、同時に対空用の機銃にも水兵が駆け寄り射撃準備をとる様子が写っていたことから美月の艦長の主張が通る事となった。

結果を先に記すと、美月の艦長はその行動を不問とされ同時に電文の内容についても厳重注意という軽い処分で済まされた。
だが、この一件で美月は多くの戦友から危険視されるようになったのも事実である……。



「『美月』がこの海域に居ないのは救いでしたね。アレと一緒に行動してたらこっちまで破壊衝動が刺激されてしまいそうで……」

副長の吉岡の言葉に、CICに居た全員が頷く。

『アルバコア』事件の査問会の後、美月は今本土にあり、この海域には居ない。
しかし近代化改装の工事期間から事故が発生し、海上防衛軍(当時は海上自衛隊)に引き渡されてからも数多くのトラブルで悪名を知られていた艦である。
大方、そう遠くないうちに護衛任務で太平洋に姿を現すのは間違いないと誰もが思った。

「俺もあの艦に関する悪い話は何度も耳にしている。だが、警戒するべきは艦そのものではない」
「と、いいますと」
「阿倍野君、君は美月の艦長を見たことがあるか」
「いえ……」

吉川の言葉に阿倍野も首を横に振る。
確か、今年の4月に起こった事故で前艦長が職を離れてから副長を差し置いて新たに乗り込んだという事は阿倍野も知っており、確か自分や吉川と異なり大尉で艦長職に就いたらしい。

「春の大観艦式が終わった直後の事だ。俺は一度だけだが美月の艦長を見た。あれは危険な男だ」
「危険、ですか」
「そうだ。穏やかそうに見えて闘争心を内に秘めている奴に共通する雰囲気がある。だが……」
「まだ何かあるのでしょうか」
「単純に言えば死に場所を求めているという感じがする。いや、それは美月の乗組員全員に共通するか」

そこまでだった。
阿倍野も吉川が黙り込んだ為、それ以上の話を聞くことはなかったがこの時の会話が彼らの心に残ったのも事実である。

だが阿倍野の場合、考えは別の所にあった。

(雷がハーダーに対して美月と同じ行動に出る可能性も無くはない……どうすれば……)

その時、阿倍野の脳裏にある考えが浮かぶ。
今の自分にしか出来ない事であり、手段によっては有効だろう。

「司令、出撃前に各艦を回って全クルーに顔合わせをしてはいかがでしょう?」
「ふむ、そうだな……」

万一自分の考えている手が不首尾に終わっても各艦のクルーに釘を刺すぐらいは可能だと思った阿倍野は吉川に話を切り出した。

「雷のクルーを連れていくかの最終的な判断はそれからでも遅くないと思います」
「いいだろう。このまま時間を無駄に過ごすよりはいい。阿倍野君、行くぞ」
「はい、では参りましょう」

それから、吉川と阿倍野はそれぞれの副官を伴って島風の僚艦と第66護衛隊の各艦を回る事となった。
第11護衛隊の各艦は長く共に作戦行動を共にしてきた事もあって特に問題はなかった。

一方、第66護衛隊については今回の相手が相手なので一艦ずつ時間をかけて回ることとしたのである。
その最後となったのが他でもない雷だった。

「諸君等にとって今回の相手は因縁浅からぬ相手であると思う。間違った事は無いと思うが、くれぐれも一時の感情に流される事の無い様に頼む」

雷に登舷し、艦長である生永少佐以下のクルーに吉川が訓示を述べている頃、阿倍野は視察と称して雷の艦内を歩き回っていた。
他の艦より幾分時間をとっているとはいえど、長くいられるわけではない。

「ここがいいか」

吉川の来訪によって多くのクルーが甲板上に集まっており艦内は人気も少ない。
艦内にある備品庫に入った阿倍野は誰もいないのを確認して雷の船魂に呼びかける。

「『雷』いるかい?いるなら姿を見せて欲しい」
「呼んだかしら?」

背後からかけられた声に阿倍野が振り向くと、そこにはセーラー服の活発そうな少女が立っていた。
少々おませな中学校一年生ぐらいの少女……それが雷の船魂だという事は阿倍野にはすぐ理解できた。

(意外な登場をする船魂だな。随分個性的な子だ)

雷の船魂を前にして阿倍野は過去の事を思い出す。
これまで島風以外の船魂に呼びかけた事は数回あるが、いずれも一度はこうやって姿を現してくれた。
殆どの場合は呼びかけた次の瞬間、目の前の空間が揺らいだかと思えば船魂が姿を見せるというものだったが。

もっとも、彼女たちの話を総合すると名指しで呼び出そうとする人間の前には一度は姿を現すらしい。
その姿がはっきり見えるかどうかは人間側の資質が大きく関わっているというのも彼女たちの言葉から知らされたことだ。

「いきなり呼び出して済まない。自分は……」
「知っているわ。島風の艦長、阿倍野少佐でしょ?何の御用?」

島風然り、駆逐艦はどういうわけか中学生ぐらいの外観となるようだ。

その時阿倍野の脳裏に浮かんだのは本土にいる妻子、特に長男の事だった。
中学生の長男坊に彼女がいたら丁度こんな子が似合うのではないかなどと雷の船魂を前に一瞬思ってしまう。

「少佐、どうしたの?」
「すまない、考え事をしていただけだよ。もうすぐ出撃だが君と話をしておきたかった」
「それだけの為に呼んだの?」

首を傾げる雷に阿倍野は話を続ける。

「いや、そうではない。君とハーダーの関係が因縁浅からぬことは知っている。そして、君のクルーが皆かなり殺気立っている事もね。でも、君はどうなのかを知りたいと思ったんだ」
「私は……皆に手を汚してほしくないわ。出来る事なら因縁の相手を沈めるなんて止めてほしいの」
「そうか……君の気持ちはそうなんだな」

とりあえず、船魂としての「雷」はハーダーを沈めることを望んでいないことに阿倍野は内心胸をなでおろした。
さらに言えば、ハーダーも本来の歴史なら雷を沈めた4か月後に日本の海防艦が撃沈している。

揺り戻しで出てきたのは、むしろ彼らにとっても幸運なのだ。

「わかった。それなら君は生永艦長に呼びかけて欲しい『ハーダーを沈めないで欲しい』と」
「でも、少佐みたいに私の艦長は姿が見えないわ。声も聞こえないのに」
「本来ならそうだ。だが、越後の斎藤艦長や神参謀からの話を聞いたところ、戦闘中は敏感になる為か君たちの姿を見える者が増えるらしい」
「その時に呼びかければ止められるということでいいのね?」

自分の言葉に雷の表情が明るくなるのを見て阿倍野は彼女がクルーを愛している事を改めて実感する。

「察しがいいな。100%君の声が届くという保証は出来ないのが残念だがハーダーとの交戦状態に突入する辺りから艦長に呼びかければなんとかなるかもしれない」
「1%でも確率があるならやってみるわ。でも、私も少佐にお願いしたいことがあるの」
「何かな?」

雷からお願いされるのは意外だったが阿倍野はそのまま彼女の話を聞くこととする。

「……私のルート権限のパスワードを渡すわ。島風ならデータリンクでハックできるはず」
「それは……」
「私にはそれだけの力がないけど、私たち船魂に自然と触れることのできる少佐の存在を介してなら多分島風は上手くやってくれると思う」

その言葉は阿倍野にとって衝撃的で尚且つ驚くべき発言だった。
本来の護衛隊旗艦である最上は他の艦艇に対して絶対的に優位であるから強制的に権限を奪う事が出来る。

しかし、今回の臨時旗艦である島風にはその権限が与えられていない。
データリンクにより最上を介してという手段もあるが、距離的な通信のタイムラグによりハーダーが魚雷で沈む可能性があった。

「もし、万一私が艦長を説得できなかったらアスロックを旗艦の権限で自爆させて欲しいの」

阿倍野が持っている軍用携帯端末(MIL-Phone)に、24ケタの数字と英字、記号が混じった意味不明な文字列が表示される。
艦長権限のパスワードより複雑な数値だ。

「このパスワードなら防壁も関係なしにハックできると思う。司令官権限だから」

と、そういうと雷は言葉を区切り、もう一度阿倍野の眼を見直す。
覚悟を決めたまっすぐな目だった。

「わかった、約束しよう。だが、可能な限り君も生永艦長に呼びかけて欲しい」
「ありがとう。それなら少佐、出撃が近づいているけど一つお願いしていい?」

笑顔で言う雷に阿倍野は首を傾げる。
少なくとも、戦闘に関係した事ではないみたいだ。

「なんだい?私がここで出来る事は限られているが……」
「簡単な事よ。手、握って欲しいの。ね?」

意外な申し出だった。
船魂に直接手を触れられる軍人は自分以外現時点では皆無である。
所謂GS(ゴーストスイーパー)でも相当のベテランを除けば素で触れられる者は多くないだろう。

「そういうことなら構わないが、それだけでいいのかい?」
「だって、少佐みたいに私たち船魂を触れる人なんて殆どいないのよ、本当なら滅多にない機会じゃない。あれ、どうしたの?」
「いや、自分から手を握って欲しいと言った船魂は君が初めてだったからね。それじゃ、握るよ」
「うんっ」

阿倍野は差し出された雷の掌をそっと握る。
見た目通りの柔らかい手だというのが阿倍野の感想だった。

「すごーい!本当に触れるんだ!」

雷は眼を輝かせ、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべる。
そんな雷を見ながら阿倍野は島風の体に触れた時の事を思い出す。

「島風に触れた時もそうだったが、君達船魂も人間の少女と変わらないのだな。温かく、そして柔らかい手をしている」
「そこまで判るんだ。少佐ってすごいわね。もし少佐が私の艦長だったら、もっと楽しい事になっていたかもしれないわ」

そういうと雷はしばらく阿倍野の手を握っていたが、ふと顔を上げるとさっと離れた。

「じゃ、少佐。お願いするわね」

そういうとなかなか悦に入った敬礼を決める。

「わかった。何とかするから君も頼むぞ」

と、外の通路から阿倍野を呼ぶ声がし、阿倍野はそれにこたえると雷に手を振って備品庫のドアを開けた。
LED照明の光が異様にまぶしく感じる。

とりあえずできるだけの事はした。
だが、最後は雷と生永艦長の判断だろう。

雷が第二の美月になるか、それとも憎しみを乗り越えられるか。
それは神ならざる阿倍野には解らなかった。







同時刻 パラオ諸島ヤップ島沖
潜水艦「ハーダー」

深度50mを航行するハーダー艦内は、奇妙な疑問と緊張に満ちていた。
夕刻浮上した際に脇に突如現れた奇妙なブイを破壊してから2時間以上、常に上空を航空機がぴったりと付きまとっているのだ。

今すぐ危険と言うわけでもないが、常に上空に飛行機が飛び回っているのは落ち着かない話だ。
そもそも、飛行機の姿を認める直前にレーダースクリーンが故障したように真っ白となり、用をなさなくなっている事からして異常だった。
潜航可能時間の余裕も、水中最高速度である9ノットでは巡航速度ほどではない。

そして何よりも、鬱陶しいのは時折聞こえてくるソナーの探針音であった。
追跡してくる艦艇があるのかとも思うが、それらしき航行音は一切なし。
派手な音を立てて航行するはずの日本の潜水艦が居れば一発でわかるはずである。

「艦長……まさか連中、飛行機からソナーをぶら下げて飛んでるんですかね?」

いささかノイローゼ気味の表情を見せて、水測長が言う。

「んな馬鹿な。そんな芸当がジャップにできるわけないだろう」

ディーレイは答えながら、姿なき探針音の主が何なのか考えていた。
未知の超静音型潜水艦?あるいは本当に飛行機がソナーをぶら下げてるのか?

『不気味すぎる……』

大体、上空の飛行機もこれだけ執拗に追いかけてるのなら爆雷の一つぐらいは放っても可笑しくないはずだ。
だが、探針音が増えるだけで爆雷が落される気配はない。

爆雷が落されてるのならこの海域は深すぎず浅すぎずであり、沈底してやり過ごせばいい。
だが、爆雷が落されるわけでもなくただ追跡されているというのは不気味極まりなかった。

「やはり、可笑しいとは思いませんか艦長?」
「何を言いたい?」

ソナー手の言葉にディーレイは訝しげな表情を浮かべる。

「あのブイを破壊してから、僚艦のソナー音をまったく探知しません」
「それだけではなく、浮上中に周辺海域を航行中の味方艦隊の通信を受信するかと思ったのですがそれもありません」
「そんなものは偶然だろう。馬鹿馬鹿しい」

疑問に思ったのはソナー手だけではなかったのだろう。
副長も通信手からの報告をディーレイに伝えたが、彼は内心の不安を悟られぬよう意識して相手にしようとしなかった。

「無線機は大方故障したのだろう。僚艦については大方退避中に違いない」

そう言って艦内からチェックできる限りの無線機の調整を指示したものの、ディーレイ本人も現在の異常な状況に疑問を抱いていた。

俺達を泳がせて何をするつもりだ、ジャップは?

内心そういうつぶやきが口を突いて出そうになるのを飲み込む。

(そもそもあのブイは一体何だったのだ。この状況であの様なものを浮かべる事に何の意味がある……。いや、そもそもあのブイにあったロゴは何だ)

今更になってだがブイに記されていた「United of Japan Defence Navy(日本連合国防衛海軍)」の文字を思い出し、ディーレイは考える。
そもそも日本海軍を示す表記は「Imperial Japanese Navy(日本帝国海軍)」の筈である。

では「日本連合国」とは何か?
上空の航空機といい、あのブイを破壊してから不可思議な事が多すぎるとディーレイは思考の海に沈んでいた。

(いや、今は頭上の連中に注意するべきか。既に夜間だというのにまだ追尾してくるとはな)

深夜になっても追撃が続くかそれとも……と誰もが思う。

しかし、彼らはまだ知らない。
既にパラオから彼等を拿捕するべく艦艇が出撃してきている事実に。







新世紀4年 8月6日 5:30分
パラオ諸島 ヤップ島沖

「哨戒機からの信号確認。“お客さん”の位置は既に捕捉済みとのことです」
「そうか。ならば後は我々に任せてもらって哨戒機には下がってもらう事にしよう」

コロール港に残る「最上」に代わって臨編第121護衛隊の旗艦として将旗を掲げる「島風」のCICで報告を聞いた吉川は指揮下の全艦艇に作戦開始の命令を発する。

現在の護衛隊は横陣を敷いて展開し「ハーダー」を追撃するという形をとっていた。
島風を中心に左右へ「山雨」「夏雨」「秋雨」が展開し、その外側へ「暁」「響」「雷」「電」が展開する形をとって追い込むという方法である。

「ハーダーの動きは変わらんか……こちらにはまだ気づいて無いと見ていいな」
「変針する様子が無く速度を一定に保っている事から哨戒機を警戒している可能性は高いと思われます」
「ならば哨戒機が退いた時の動き次第だな。いずれにしても拿捕することには変わりはない」

今後の手順では島風・山雨・夏雨・秋雨からはQSV-2「ファルコン・アイ」が飛び立ち、最上から発進した「海鳥」と共同でハーダーに先行し、哨戒機に代わって会合予測地点まで誘導する予定だ。

既に各艦のファルコン・アイは離陸し護衛隊の上空に展開し、海鳥の到着を待っている。
それから五分と経たずに飛来した海鳥の後を追うように合計8機のファルコン・アイが哨戒機との会合地点、すなわちハーダーの潜航する海域の上空に向かった。

「いよいよ始まるか、全艦に増速命令。ハーダーを一気に追い込む」
「了解しました。全艦に増速命令!」

吉川の言葉を阿倍野が復唱し、直後に島風が速度を上げる。
続いて山雨・夏雨・秋雨がそれに合わせて増速し、暁型の4隻もこれに続く。

スクリーン上を見れば、ハーダーとの距離がみるみるうちに狭まるのがわかる。
それを見ながら阿倍野は今頃ハーダーの艦内はパニックになっているかもなと思った。

「ハーダーとの距離、20マイル」

観測員の言葉に、吉川の指令が飛ぶ。

「島風以下4隻は当初の予定通り迂回を開始せよ。響以下4隻はこのまま直進」

速力で勝る島風型4隻はあえてハーダーの索敵範囲を迂回する形で先行し、あとから暁型が追いかけて包囲するという戦術であった。



同じ頃、ハーダーの艦内は文字通り蜂の巣を突いた様な状態になっていた。
上空にいた航空機が飛び去ったかと思えば入れ替わるように航空機の数が増え、更に駆逐艦のモノと思われるスクリュー音が多数聴こえてくる。

クルーの誰もが自分たちは追い込まれているという事実を認識し、反撃や逃走の選択肢が無い故に混乱と恐怖だけが増幅していく有様だ。

「狼狽えるな!」

ディーレイの一喝で一旦は収まるが、状況が改善するわけでもない。

「艦長、6時の方向に駆逐1、距離2000ヤードです」

どうしたらいいものか、と思案したところに水測長が報告してきた。

突破口が開いた。
その報告はディーレイにとっては天佑と言えた。

罠に嵌ったのであればその罠を踏み壊して出るしかない。
一隻でも沈められれば、突破口が開ける。

そう判断したディーレイは、指示を下す。

「後部発射管、魚雷装填。距離1000ヤードまでひきつけろ」

ハーダーの「後ろ」から現れた駆逐艦……「雷」の艦橋では威嚇攻撃の準備が整えられていた。
奇しくも、状況は本来の歴史で雷が沈められた状況に似ている。

だが、敵ははっきりとは目標をつかんで無いのに対してこちらはほぼ完全に動向をつかみ、掌を飛び回る孫悟空を眺める釈迦の気分と言う点ではある意味正反対とも言えた。

「旗艦より攻撃許可が下りました」

副長の言葉に、雷艦長、生永少佐は頷くとアスロック発射を命じようとする。

「ですが、相手が攻撃を行なった際の反撃のみ許可する。とのことです」

生永は思わず目をむく。

「悠長な……いや、拿捕を前提とする以上仕方がないか」
「歴史の上で我々を沈めた艦を前にして……これでは生殺しです」
「気持ちは私も同じだ」

副長の言葉に生永も頷きながらつぶやく。
その時、水測員からハーダーから魚雷発射管の注水音を確認との連絡が入る。

「どうやら、待つほどでもなかったな。副長、ハーダーの魚雷発射タイミングに合わせて回避運動を取りつつアスロック発射だ」
「了解です」

そう指示を出しつつ、生永の中にはアスロックの「自爆」指示を出したくないという感情が沸き上がっていた。
CICでトリガーユニットを握る砲雷長も幾度もトリガーに指をかけては外し、掛けては外しを繰り返しながら、ハーダーを沈められるものなら沈めたいという呟きが意図せずとも口から洩れていたが、誰もそれを止めようとする者は居なかった。

「みんな……駄目なの?」

艦内に漂う殺気と狂気に満ちた空気を見て、雷は呟く。
雷の脳裏に浮かぶのは、今は隊司令である工藤艦長の面影である。

「司令官……司令官ならこんな事させないわよね。みんなを止めるわよね……それなら諦めないんだから。阿倍野少佐、島風……予定通りお願いね」

スラバヤ沖で最後の一人まで敵兵を救助し武士道の実践と賞賛された工藤、そして無用の殺人を止める為に力を貸すと約束してくれた阿倍野の事を思い出し、雷は更に呼びかける。

最後の一瞬まで諦めない事。
それこそ、雷の船魂を形づくる原点だったのだから。



同じころ、ハーダー艦内もまた、殺気だった空気が狭い艦内に充満していた。
そんな中、後部魚雷発射管への注水と魚雷装填が終わったことを水雷長が報告してくる。

「目標、距離1050ヤード。動きなし」

水測長の言葉に、ディーレイは潜望鏡深度までゆっくりと浮上することを命ずる。
浮上すると同時にディーレイは潜望鏡を出し、後部に向けて一瞬だけ目標を確認すると一度だけ深呼吸をし

「発射」

と短く命じた。
これで状況は変わる、と念じて。

「ハーダー、魚雷発射を確認。距離990ヤード!」

水測員の言葉に、生永は鋭く叫んだ。

「機関全開、両舷全速!」

その言葉と同時に、雷はガスタービンの轟音を轟かせ一気にダッシュした。

「What'S!?」

潜望鏡の向こうの光景に、ディーレイは驚愕の声を上げる。
必中確実の距離とタイミングで放ったはずなのだが、放った瞬間に目標の駆逐艦は信じられないほどの勢いで加速し、視界から消え去ったのだ。
何も動きが無く停止していただけのように見えた駆逐艦が唐突に視界から消え去るほどの加速をする。
蒸気タービンの艦ではできるはずの無い芸当だった。
部下が見ているのも構わず、ディーレイは四文字言葉を口にしていた。

「モーター全速、前部発射管も装填急げ!」

ハーダーのモーターがうなりをあげ、速力を増して動き出す。
だが、戦後技術を用いて改修された雷の加速力と機動性はディーレイの想像をはるかに超越していること等、解るはずもなかった。

ハーダーが魚雷を放つと同時にダッシュし、魚雷を完全に躱した雷は面舵で大きく旋回しながら戦闘最大速度である40ノットから減速し反撃体制を整えていた。

「アスロック3番、発射します」

砲雷長が宣言し、トリガーを引くと同時に艦中央部……かつての魚雷発射管の位置に設置されたMk48.Mod3VLSが開放されて07式垂直発射対潜ロケットが放たれる。
その様子は本作戦の旗艦である島風からも確認出来た。

「雷がアスロック発射しました!」
「直前にハーダーが魚雷を発射。予定通り反撃に出た模様です!」
「やはり撃ってきたか、仕方がないな。最初からやる気だったわけだからな。司令、我々も予定通り作戦を」
「そうだな、ハーダーへの包囲網を狭め同時にアスロックを発射、至近距離で自爆させ浮上降伏に追い込む様に各艦へ通達」

阿倍野の言葉に吉川も頷き、作戦開始の命令を下す。
既に準備が整っていたのか雷を除く残りの7隻からもアスロックが各1発ずつ放たれ、海面に着水していく。

その様子を見ながら阿倍野は小さくつぶやく。

「島風、話していた通り頼んだぞ」
「任せて艦長、コードが解かっているからこれなら何とかなると思う」

その言葉に阿倍野はすぐ近くにいる吉川にも気づかれない様に小さく頷いた。
そして同時に心の中でも雷が全力を尽くして説得に成功するのを願う。



着水音と魚雷らしきものが接近してくるという水測長の報告に、ディーレイはわが耳を疑ったが間もなく艦体に伝わる「振動」にそれを信じざるを得なかった。

「魚雷……接近してきます!」

発令所のクルーたちは声も出なかった。
繰り返し響いてくる探針音が、まさしく死の宣告にしか感じられない。

「アスロック、着水。追尾開始しました」

CICからの報告にも、生永は表情を崩さない。

このまま放っとけば、アスロックは間違いなくハーダーに命中し、そのクルーの命を着実に奪うだろう。
安全距離は200ヤード。それ以上接近した場合であってもバブルパルスの衝撃はハーダーに航行不能なダメージを与えるはずだ。

だが、生永はいまだに迷っていた。

アルバコア事件の話を聞いた際、あまりにもあまりだと憤慨する者も居た反面、美月を称賛する者も居た。
生永自身も、本来の歴史で雷が戦没した際の下りを知った後だけに溜飲が下がらなかったと言えば嘘になる。

今放ったアスロックは復讐の矢となるべきなのか、あくまでハーダーを牽制するためのものなのか。
視線をモニターにやった生永は、目を見張った。

「魚雷との通信リンク接続。コマンドを」

コマンドプロンプトが画面に出ていた。
何を言うべきなのか。今ここで何を魚雷に指示するべきなのか。

「艦長、ハーダーを沈めちゃダメよ!」

そして生永の耳に聞こえた来た少女の声。

一方、本来ならあり得ない事態に生永はCICの内部に視線を泳がせる。

視線の先にいるのは、セーラー服姿の少女。
それはGSが霊視した雷に宿るという船魂と同じ姿。

そして、自分が戦場にいるのを一瞬忘れたかのように呟く。

「雷……まさかお前なのか?駆逐艦の……」

思わず口に出る。
それに対して雷もまた頷いてみせた。

瞬時にこんな芸当をやってのけるのは、クルーではない。
雷の意思、あるいは存在が知られている船魂そのものだ。

普段はまず一笑に付してしまいそうな考えだが、その時だけは生永は真剣に浮かんだ思考だった。

「砲雷長、聞こえるか。魚雷を自爆させろ!」
「えっ!?」

思わずマイクを握ると、CICの砲雷長に向かい叫ぶ。

「繰り替えす。魚雷を自爆させろ!早く!」
「り、了解。魚雷自爆します」

生永の剣幕に驚いたのか、異論をはさむ事すらできずに砲雷長は魚雷の自爆コマンドを入力する。
しかし、予想外の命令だったのか砲雷長の行動に遅れが生じる事となる。

(タイミングが遅れた!これでは間に合うかどうか……っ!)

一瞬の事であったと言えど、それはあまりにも致命的なロスだった。
過去の経験から魚雷は間違いなくハーダーの有効範囲で炸裂する。
そこまで思った生永は歯噛みするだけだった。

同時に雷もダメだったかと愕然とする。

(艦長を説得出来たのに間に合わなかった!?ダメなの……ううん、お願い……お願いだから自爆してぇっ!!)

例えそれがどんなに無駄な足掻きであろうと雷はあらん限りの思いを込めて叫ぶ。
ハーダーに目がけて突き進んでいた魚雷が自爆したのはその時である。

その炸裂音は雷のソナーでも探知されていた。
だが、ハーダーは今の炸裂で間違いなく助からない筈だ。

「艦長、魚雷の自爆を確認しました!」
「標的は……ハーダーはどうなった?」

生永は、恐らく撃沈か致命傷だとしてもどの道ハーダーのクルーは助からないだろうと思いながらも水測員からの報告を待つ。

「スクリュー音確認しました!ハーダーは健在です!」
「間に合ったのか……」

その報告を聞いて生永はどこか安堵した表情を浮かべる。
一瞬のミスでタイミングの遅れた砲雷長も同じだったのだろうか、額の汗を拭いながらもホッとしていた。

「よかった……間に合ってくれたんだ……」

雷の船魂もまた安心したのかその場にへたり込む。
自然と涙が零れ落ちるが、そこに悲しみの感情は存在しない。
それは自分の説得が艦長に届いた事と絶望的だった魚雷の自爆が間に合ったからだった。

「ありがとう艦長……そして阿倍野少佐、島風……。私だけでは皆を止められなかったわ……」

ここにはいない協力者の名を呟き、雷は阿倍野の手の温もりを思い出していた。


「……艦長……」

副長が非難するような目つきで生永を見ている。

「………異論が有るのなら言いたまえ、記録しておく」

正直、生永もいまだに頭の中がカオスと言って良かった。

確かにあの瞬間も、生永は迷っていた。
復讐をするべきか、あくまで警告に徹するか。

そこに「自爆準備完了」の文字が出た瞬間、衝動的に自爆を指示していた。
更に自分が耳にした声と船魂の姿。

魚雷とのデータリンクが最初から接続されていたのか、誰かが繋いだのか。
果ては本当に船魂がシステムをいじり繋いだのか。

もう間に合わないだろう、と言う気持ちもなかったわけではない。
だが、魚雷は自爆した。

なぜかその瞬間、「救われた」気がしないでもなかった。
ハーダーのクルー達は、今自分達が全く違う状況に置かれていることを知らない。

知らないまま、「倒す」事は「殺す」と同意でもある。
今この状況で何も知らないハーダーを倒すことは復讐か、殺人か。

『こちら島風、吉川だ。ハーダーは浮上降伏の体制に入った。雷は接近し、降伏の意思を確認せよ』

島風からの通信を聞いた生永は、雷の船魂がいた空間に向かって呟く。

「雷、これで良かったのだな……」

生永の眼にはもう、先ほどの彼女は見えない。
だが、彼女の眼は生永を責めてはいない。そう感じられた。



魚雷が艦首に近い所で爆発した瞬間、ディーレイ以下ハーダーのクルーは死を覚悟した。
だが、爆発が収まり自分たちと艦がまだ生きていることを理解した次の瞬間、合計7つも現れた探針音を発する魚雷に再び恐慌状態となる。

「奴ら俺達を嬲り殺しにするつもりかよ!」

発令所の誰かが悲鳴を上げる。だが、ディーレイは最後のチャンスとばかりに指示を出す。

「ベント開放、全タンクブロー。浮上しろ、今すぐにだ!」

もはや破れかぶれとばかりにベントを開放し、タンクから排水を行ったハーダーはゴムマリのように一度弾むと急激に浮上を始めた。
そのさなか、7本の魚雷が一斉に炸裂し爆圧で制御を失ったハーダーは海面を突き破り空中に一旦飛び上がった。

強烈な縦方向のGに誰もが一瞬意識を失い、視界がブラックアウトする。
だが、次の瞬間今度は艦体は水面に叩きつけられバウンドし、まさにシェーカーの中に放り込まれたように振り回される。

すさまじい衝撃が去りどのぐらいの時間がたったのだろうか。ディーレイの意識は白濁した状態からゆっくりと目覚めた。

「…ちょう。…艦長!」

眼を開くと、額から血を流した副長が呼びかけている。
頭がズキズキと痛み、全身の関節が悲鳴を上げていた。

「状況を知らせろ……」

必至で意識を立て直し、副長に状況を確認する。

「各部損傷軽微、しかし蓄電池が破損して塩素ガスが出ています。あと2時間以上潜航は不可能です」

絶望を浮かべた副長に、ディーレイは質問を続ける。

「クルーは?」
「マイクが頭を打って脳震盪を起こしてます。あとハーパーが歯を折ってますね。あとは重傷者はいません」

その言葉に、ディーレイは覚悟を決めた。

「まだ皆死んでない。やむを得ない副長(ナンバー・ワン)。マストに白旗および黒球を掲げろ、降伏の打電を」



ハーダーと距離を置きながら、それでも速射砲と短魚雷、CIWSの砲口をロックオンして外さないまま雷は航行を続けていた。
もし何かしようものなら即、すべての近接火器を使ってハーダーを沈める覚悟だった。

と、ハーダーの司令塔の投光器が点灯する。いまだ薄暗い明け方の中、照らされたマストに白旗が上がる。
もう一つの投光器が光モールスで信号を送り始めた。

「我ハーダー、攻撃ノ意思ナシ。降伏スル」

雷側はマストに搭載された高感度カメラと監視員の双眼鏡、両方でその光モールスの内容を確認する。

「ハーダーから投降の意思、確認しました。続き通信です。『我艦内ニ有毒ガス発生ノタメ乗員ノ退避ヲ行ナウ』」

その言葉に生永は『了解シタ、我ノ指示ニ従エ』と返信せよと指示を出すと、島風の吉川にハーダー投降を伝える。

やがて朝凪の水平線に遅い朝日が姿を見せる頃、ハーダーの甲板に乗組員らが姿を現す。
それを見て、生永はあえてだが警戒態勢を強めるように指示を出した。

周囲にはすでに島風をはじめとした第121護衛隊の艦船が接近してきており、コロールを出港した最上もいずれ追いつくだろう。
だが、生永はいまだにハーダーを完全に許す気はなかった。



同じ頃、ハーダーから降伏の意思表示が出たことで慌ただしくなった島風のCICに通じる通路では、雷の魚雷が自爆したという報告に安堵する阿倍野が人目を避けて島風と話していた。

「ありがとう島風。君がコンソールを操作して自爆指示のコマンドを出してくれなかったらハーダーは沈んでいた」
「艦長のお願いだもの、当然よ。でも、自爆そのものは私がやったわけじゃないよ」
「雷のクルーだな。あの子は説得に成功したらしいな……」

しかし、島風は首を横に振る。
そうではないと。

「ううん、あれを自爆させたのは雷よ。まったく、本当に無茶な事したよね」
「無茶?」
「多分雷も気付いてないと思うけど、あの子は魚雷の自爆コードを自力で発信したのよ」
「それって電子干渉じゃないのか!?」

島風の言葉に阿倍野は顔を引きつらせる。
しかし、そこで島風は首を横に振ってみせた。

「ううん、もっとアナログというか直接というか……自爆コードとかって、最終的には電波の形でアンテナから発信されるよね」
「普通はな」
「雷の場合は、その最終的な電波を力業で直接形作って発信しちゃったのよ。私たち意識はしてなくても、自分から発信される電波とかはわかるから」

意外過ぎる島風の言葉に阿倍野はただ驚くばかりだった。
コンピューターのプログラムを弄るのではなく自分で直接発信するのは想像の埒外でしかない。

「それに電波を出すくらいなら、元々そこにある電気とかを動かしてるだけだから出来なくもないし」
「島風、お前にも可能なのか?」
「出来ることは出来るけど……私みたいに自分のこと判っちゃうとかえって大変よ。意識して体の筋肉を直接動かすようなまねだもん。普通人は歩くときに体の動かし方考えないでしょ?」
「言われてみればな。無意識下の行動ということか……」
「雷だって、何にも考えてないから出来たんだと思うよ」

島風との会話の最中、テレキネシスと言う言葉が阿倍野の脳裏に浮かんだ。
思いが物理的な力に変わる。あり得ないように思えるがこの世界ならありなのかもしれない。

もしそうだとしたら、本土か一度コロールに戻った後で雷を褒めてやってもいいかもしれないな、と阿倍野は思った。
しかし、そこで島風は思い出した様に呟く。

「艦長、この事は上に報告する?」
「いや……止めておこう。船魂に触れるというだけでも注目されているのに、厄介事は御免だからな」

阿倍野は苦笑して首を振る。
元々、彼が今の道を進んだのはその敏感すぎる霊感から「普通の人間に見えないモノが見える」という怪現象を嫌ったからである。
そんな阿倍野を見て島風は微笑む。

「艦長のそういう所は好きだよ。でも、雷のことはちゃんと褒めてあげてね」
「もちろんだ」

今は雷のクルーが無用の人殺しをしなかっただけで十分だと思う阿倍野と島風。
その為、この件が報告書に記されることも無かったのである。

これについてその真相が明らかになるのはこの時の戦闘記録に関する報告書が上に送り届けられてからの事となる。
最終更新:2015年03月31日 12:13