なぜなにクロガネ~ユウキの受難編~◆JxdRxpQZ3o





ユウキは着艦後、グランヴェールのメンテナンスをしていた。
とはいえ自分の知り得る技術体系からは外れた機体に対して出来ることは少なくしかたなく艦橋へと移動した。
勝手知ったる人の艦。迷うことなく辿り着き、自動ドア開ける。
この艦で暮らしていたこともあるユウキには見慣れた筈の光景に違和感を感じている。
理由は簡単。戦艦クロガネの艦橋には現在自身とイネスの二人しか居ないからだろう。

戦艦の艦橋というものは幾人もの人々が忙しなく動いている。
艦長、副長、通信士、操舵士etc……。
少なくともユウキがこれまで乗船してきた艦においてDC、連邦を問わずそれは変わらなかった。
インスペクター事件後、カーラと共に身を潜めていたこの艦――クロガネ――も例外ではない。

だが、現在は違う。艦橋にいるのはたった二人だけ。自身は何をするという訳でもないのだ。
G-7島の地中内を進んでいるとはいえ、いつでも臨戦態勢に入らなければならないこの状況下においては不自然極まりない。

「この少ない人員で一体どうやってクロガネを……」
「あら、それはいい質問ね。」

ユウキにとっては独り言のつもりであった。
だがこの光景に思わずポロリと呟いた疑問をイネスは聞き逃さなかった。


3、2、1、どかーん!なぜなにクロガネ


クロガネに設置されたモニターに表示されたそれに呆気に取られる。

「この動画は一体なんなんです!?」
「あら、今回説明してもらいたいのは、そのこと?」
「いや、そういうことを言っているんじゃなく――」
「よろしい。ならば説明しましょう。」

いつの間にか角帽を被っていたイネスに意表を突かれ、そのままあちらのペースに持っていかれる。


――このまま、イネスとユウキの漫才のような会話が繰り広げられるのだが長くなるので割愛――


説明おb……説明お姉さんと化したイネスによればこういうことらしい。
彼女の住む世界に存在する戦艦ナデシコ。彼女もその艦に搭乗していたという。
その戦艦には「オモイカネ」と呼ばれるAIが搭載されており、数人でも艦の航行自体は可能だ。
そして、そのオモイカネと同等かそれ以上のAIを持っている。
通常の航行のみならず、戦闘においても的確な判断を下すことが出来るのがその証だ。
しかしそれには艦長(この場合はイネス)の最終的な決断も必要になる。
様々な事態が次々に起こる戦闘中に、その情報処理と判断を的確に行える人物ではないと難しい。とこういうことらしい。

「たったこれだけ説明するだけなのに結構時間がかかったわね」
「オモイカネの細かいスペックやこの艦に搭載されているAIの相違点まで説明を始めたらそうなるのも当然でしょう」
「正しい理解を求めるのならそこまで説明しなければ駄目よ」
「大体、俺は最初からそんな説明求めていません」

といちいち突っ込むユウキにも問題はあるのだが、それにユウキは気づかない。


「それにしても、あなたがああいうことを言うとは思っていなかったわ」
「……ああいうことってなんです?」
「彼を説得してたでしょ」
「――聞いていたんですか」


◆ ◇ ◆


時は少し遡り、放送直後。
その寸前までユウキはクロガネの周囲でグランヴェールを自分のものにするべく特訓。
カズマと一騎はその警護。もといカズマは一騎に自分の住んでいた世界のことを話し、少しずつ互いのことを理解し始めていた。
その最中に始まった放送は一騎と真矢にとって酷なものとなってしまった。
元居た世界での友、仲間だった者達二名の死が告げられたからだ。

一騎の乗るアルトアイゼン・リーゼは動作が止まる。
カズマもなんと声をかければいいのか戸惑っているのだろう。ダンもリーゼを見つめるだけだ。
タスクの名が呼ばれたことも気にかかるが、ユウキはそんな状態の二人を傍らで観察する。
冷酷な判断と取られるかもしれないが真壁一騎という人物がいかような者であるか、理解するには絶好の機会かもしれない。

「みんな、ごめん。俺行って来る」

沈黙の中、口を開いた一騎は別れの言葉を告げ、リーゼは動き出した。
クロガネから離れ、方向は北へ。自分たちやクロガネの乗員達とは分かれて行動をするつもりらしい。
この状況でそのような行動を取るからには、その目的は簡単に推測できる。
気づけばユウキは彼を追いかけ始めていた。自身でも驚くほどに相互理解の深まっていたはずのカズマよりも早く。

「どこへ行こうというんだ。真壁」
「……」
「大方仇討ちか、まだ生きている仲間が殺される前に見つけ出すかのどちらかだろう」
「――あなたには関係ないでしょう」
「そうだな。会ったばかりで殆どお互いのことも知らない」
「なら、なんで俺を止めようとするんだ!」
「関係は無くとも、今から俺が話すことだけ聞いてくれ」

はじめはユウキを無視して行こうとしていた一騎だった。
だがユウキの言葉が図星だったのだろうリーゼをグランヴェールお方へとに向かい合わせる。
どうやら耳を傾けることだけはしてくれるらしい。

「俺がこの殺し合いの地で出会った――仲間が居た。数時間も行動していなかったような関係だ。
 だから彼女のことを俺が仲間と言うにはおこがましいかもしれない。
 超高空からのビーム砲の爆撃で襲ってきた他の参加者を倒すために彼女は空へと向かっていった。
 この機体も本調子が出せずに高空へと飛ぶのは困難だった。そして俺自身弱気になっていた。
 そのとき俺は彼女をすぐに追えず、シャトルで追うことしか出来なかった」

ユウキ自身、これ程自分から他人に向かいこんなことを喋るとは思わなかった。
一騎が如何なる人物かどうか探る。などという当初の目的は忘れていた。
それほど、ルネのことはユウキの心の中で引っかかっていたと言うことなのだろう。
一騎も真摯にユウキの言葉を聞いている。

「……それで、その人はどうなったんです」
「死んだよ。俺がシャトルで宇宙に向かう間に彼女は地上へと堕ちていった。
 ――この仮面は戒めだ。仲間を救えなかった俺自身への……」
「だからって!またそんな思いをしないために俺を止めるって言うんですか?そんなのは――」
「そうじゃない。俺ではなく、お前が共に行動している仲間にそんな思いをさせたくないからだ。」
「!?」
「一騎、お前がこの殺し合いからの脱出を目指すなら、共に行動する仲間のことを考えろ。
 それでもかつての仲間のことを思うというなら、そのことをしっかりと今の仲間に伝えるんだ。
 行動を起こすならそれからでも遅くはない」

一騎から返事はない。だが、リーゼは確かにクロガネへと向かい進む。
ほうと溜息をつく。いくらなんでも熱くなりすぎたかと内心ユウキは思う。
これでは一騎たちを信頼するか判断するなど到底出来るわけがない。

「あのさ」
「なんだ」
「ん、まあ俺がとやかく言える話じゃないけどさ。あんたの仮面の意味誤解してた。ごめんな」
「そんなことか……」
「いや、それだけじゃなくて……えっとこれからどうする」
「光の壁の調査だ。どうにかこのグランヴェールも馴染んできたことだしな」
「やっぱりそういうことになるのか……」

カズマは口篭り、なかなか言いたいことを言い出せないようだ。
それでもユウキはカズマの思いが感じ取ることが出来た。おそらく一騎たちのことが心配なのだろう。

「基地へ向かい彼らがギリアム少佐と合流するまでだ。それまでは俺たちも一緒に行くぞ。
 調査はそのあとだ。お前は真壁や遠見についていてやれ。そういうのはお前のほうが得意だろ」
「良いのか!えっと――ありがとな、J」

さっきまでとは裏腹に歯切れよく返事をする。
そういえばカズマが自発的にユウキをJと呼ぶのはこれが初めてかもしれない。
自然と笑みがこぼれ、先を行くリーゼとダンを追うようにユウキはグランヴェールを飛ばした。



◆ ◇ ◆


というユウキの一騎への説得がイネスの言う"ああいうこと"なのだろう。
からかうような言い草に戸惑い、ユウキは言い訳を考えたが冷静に考えれば言い訳して取り繕うようなことを言ったはずではないはずだ。
無論、ルネやこの仮面に関して人に話すことなどはユウキ自身考えてなどいなかったが。
言い繕うような醜態を見せずに極めて冷静であるように務める。
だが、そんな自身の考えも口元に笑みを浮かべるイネスにはお見通しなのだろうか。

「まあ、あなたとお話できて良かったわJ。この艦に入ってから積極的に話そうなんてしてなかったでしょう?」

そんなイネスの言葉にユウキはハッとする。
先ほどのことがあってから、一騎に対する警戒心は半ば解けていた。
だがそれは他のクロガネの乗組員に対してもそうかと言えばそうではない。
特にイネス・フレサンジュという女性に関しては警戒心を解くべきではないと考えていた。
それがどうだろう。警戒心など何処へ行ったのか。事務的な会話以外で彼女と会話までしている。

先ほどの意図不明ななぜなにクロガネというのは、ユウキの心を開くためのものだったのだろうか。
もしそうであるのならばイネスという女性、只者では無い。思わず、ユウキは下を向いた。
彼女にその意図が伝わっているかは不明だがとりあえず自分はあなたを信用していないという意思表示を体で表してみる。
そんな最中、艦橋へとカズマが入ってきた。どうやらユウキを探してここへ来たらしい。
ほらとJの方に『シロッコの紅茶』とロゴの入ったペットボトルを放り投げた。

「なんなんだ。これは」
「気にすんな。俺のおごりだ。あ、イネスさんもどうぞ」
「この艦の自販機は全て無料だ。大体こんなものをだな」
「えー、だってお前紅茶好きなんだろ?」
「俺はペットボトルの紅茶など紅茶とは認めん!」

そんなやりとりを苦笑しながら見ているイネスに気づき、慌てて話題を変える。

「それで一騎たちはどうした?」
「二人とも今は自室で休んでる。いろいろあって疲れてるだろうしななんか。
 一騎と一緒に真矢の部屋へ行ったんだけどあんまり話せる状態じゃないみたいでさ。期待されてたのに悪いな」
「そうか。気にするな」

一騎の方はカズマとのやり取りやユウキ自身話した結果、どういう人となりかはわかっている。
だが真矢のほうは別だ。どういう人となりかなどは殆どわからない。
出会ったばかりのカズマはともかくとして一騎とは元の世界でも友人、仲間の間柄だ。
その彼とも話せない状態となれば、少し気にかけておいたほうが良いだろうか。

「そういえばカズマくん、さっきのなぜなにクロガネどうだったかしら?」
「ああ最高でしたよ!あの漫才って言うか、コントみたいなやりとり」
「ちょ、ちょっと待て。それはどういうことだ?」
「あれ?知らなかったのか?さっきのなぜなにクロガネ、艦内のモニターっていうモニターに生中継されてたぜ。
 俺もそれ見て、お前がここに居るのがわかったし。一騎たちにも見せてやりたかったな。あいつら休んだ後の放送だったし」
「それなら抜かりは無いわ。録画もバッチリよ」

見る見る顔から血の気が引いていくユウキ。
だが仮面を被っている今の彼にはその変化が気づかれる筈も無い。

「俺は……これで失礼させてもらう」
「どうしたのかしら、彼?」
「さあ?喜びに打ち震えてるんじゃないですか?」

音を立てて自動ドアは開き、ユウキを中へと吸い込んで行く。

「何をしているんだ、俺は――」




◆ ◇ ◆


部屋に備え付けの薄い毛布に包まり、足を両腕で抱えて縮こまる。
シャワーを浴びたばかりなのに嫌な汗が全身を伝う。

翔子や総士が死んだ。そこから生まれた思いは怒り、悲しみ、恐怖等ではなく不思議にも焦りだった。
開始から8時間で元の世界の仲間は2人死んで、残りは4人。
これからの8時間で死ぬのも2人だろうかそれとも4人全員か。
仲間の死という現実が、自分に迫る死にも現実味を与えてくる。
自分が生き残り、優勝さえすれば翔子の死も総士の死もなかったことになる。
だが自分が今死んでしまえば、そんな願いも叶うことはない。
迷いも、一騎を護ることも、あれもこれもと欲張っていては目的は達成できない。

先ほど合流したカズマという人と一騎が一緒に自室の前までやってきた。
そんなことを考えていると、とても話せる状態ではなく、断ってしまった。

「俺、部屋に居るから何かあったら来てくれよ」

そう言って一騎は自室へと戻っていった。
死んでしまった翔子や総士には悪いが一騎の言葉に彼を手にかけてまで優勝を狙おうなんて考えは綺麗さっぱりと立ち消える。
そしてもしも彼が死んでしまったときは――。


少しずつ少しずつ彼女の中の迷いは消える。



【一日目 14:50】


【ユウキ・ジェグナン 搭乗機体:グランヴェール(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)withハロ軍団+ウッソのハロ
 パイロット状態:強い決意。ソルダートJのコスプレ、紅茶セット一式を所持
 機体状態:損傷なし、コクピット内がハロで埋め尽くされている、ハイ・ファミリア使用不可
 現在位置:G-7 地中
 第一行動方針:G-7基地まで一騎達と動向
 第二行動方針:光の壁の調査、カズマの恩人探しの手伝いをしたい
 第三行動方針:仲間を集める(ヴィレッタ、ギリアム、ロム優先)、脱出方法を模索
 第四行動方針:己の名に恥じない勇気と強さを得る
 最終行動方針:『ユウキ・ジェグナン』として、打倒主催】


【カズマ・アーディガン 搭乗機体:ダン・オブ・サーズデイ(ガン×ソード)
 パイロット状況:背中に打撲、ヴァンの蛮刀を所持
 機体状態:損傷なし
 現在位置:G-7 地中
 第一行動方針:G-7基地まで一騎達と動向
 第一行動方針:地上の施設及び光の壁の調査、恩人(タスク)に借りを返したい
 第二行動方針:どうにかプルを止めたい
 最終行動方針:殺し合いには乗らずに主催者を打倒する】


【イネス・フレサンジュ 搭乗機体:クロガネ(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 格納庫にヴァイスの左腕あり
 現在位置:G-7 地中
 第一行動方針:甘いわね、私も……
 第二行動方針:一応、真矢への対抗策を用意
 第三行動方針:ルリと合流
 最終行動方針:願いを叶える「力」の奪取。手段は要検討。
 備考1:地中に潜れるのは最大一時間まで。それ以上は地上で一時間の間を開けなければ首輪が爆発
 備考2:クロガネは改造され一人でも操艦可能】


【真壁一騎 搭乗機体:搭乗機体:アルトアイゼン・リーゼ(スーパーロボット大戦OGシリーズ))
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 クロガネの格納庫に収容 反応速度上昇
 現在位置:G-7 地中
 第一行動方針:ギリアムと合流後、甲洋、カノンを捜す
 第二行動方針:仲間を守る。
 第三行動方針:G-7施設でギリアムと合流
 第四行動方針:人を殺す事に対して……?
 最終行動方針:バトルロワイアルからの脱出】


【遠見真矢 搭乗機体:ヴァイスリッター(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:身体的には良好
 機体状況:左腕欠落、ミサイル半分ほど消費、EN消費(小) 精神的な同調ができないと不快感を覚える模様。
      もしかしたら何かのきっかけでラインヴァイスリッターになるかも……? 反応速度上昇
 現在位置:G-7 地中
 第一行動方針:一騎を守る
 第二行動方針:甲洋、カノンと合流し、守る
 第三行動方針:仲間を傷つける可能性のある者(他の参加者全て)を率先して排除する
 最終行動方針:仲間を生き残らせる。一騎が死んだ場合、優勝を視野に入れる】

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最終更新:2010年06月19日 14:38