太陽と運命◆POvMLKAPKM
虹の翼をはためかせ、運命の名を持つガンダムが飛翔する。
遠中近すべてのレンジに対応し、対MS・対艦など相手を選ばない豊富な武装。
ヴァリアブル・フェイズシフト装甲、ソリドゥス・フルゴールビームシールド、実体型の対ビームシールドなどの堅牢な守り。
ヴォワチュール・リュミエールの発展技術による凄まじい推力と、ミラージュコロイドによる幻惑効果。
とある世界、その技術の結晶、時代の到達点とも呼べる機体。
その機体――デスティニーガンダムは、轟音と共に着地、勢いを殺しきれず転倒した。
「い……ってぇ……」
「大丈夫か、ダイヤ?」
「ま、まだまだ……!」
荒野の一角で、ツワブキ・ダイヤはサウス・バニングに訓練を受けている。
機体のないダイヤにあてがわれたデスティニーガンダムを使いこなすための、実践的な指導を。
「ふむ……やはりな。予想していた通りになったか」
「どういうことだ、大尉?」
護衛として同道していたドモン・カッシュが問う。
バニングに促され機体から降りてきたダイヤも、その答えを聞かせてくれとバニングに真剣な眼差しを送っていた。
「ドモン、デスティニーのコックピットを見てみろ」
「……? むっ……」
バニングの指示通りデスティニーガンダムの内部を覗いたドモン。
その喉から小さな動揺が聞こえてきた。
「どうだ、操縦できそうか?」
「いや……おそらく俺にも無理だろうな。なるほど、そういうことか」
「えっ、どういうこと?」
理解できていないのはダイヤ一人。
だがこればかりは仕方ない。才能で埋められる類の問題ではないからだ。
「ダイヤ、お前が元々乗っていた……ガイキングだったか? そのマシンはこんな操縦システムだったか?」
「いや、違うよ。ガイキングは俺の炎の力で……説明するのは難しいな。ええと、とにかくこんな複雑な動かし方じゃなかったと思う」
「そこだ。このデスティニーと言う機体はな、訓練された兵士が乗るのを前提に設計されている。
それは直感や体力とかそういうものではない。どの位置にどの計器があるか、複雑な動きをどの程度プログラムに肩代わりさせるのか。
そういった判断力が、ロジカルな適性が今のお前には足りないんだ」
デスティニーはザフト最新鋭の機体。ザフト所属のパイロットは当然コーディネイターだ。
そしてパイロット志望のコーディネイターはみな訓練を受け、機体の操縦システムを自分に馴染ませている。
どんなモビルスーツでも、操縦するだけなら彼らはみなそれができる。それは技量の問題ではなく、規格・経験の問題。
もちろんどれだけうまく扱えるかには差があり、その中でより深く適応した者がエースと呼ばれる存在になっていく。
そしてデスティニーはそのエースの中でもさらにトップエースとなったシン・アスカ専用に設計された機体だ。
古豪たるバニングをして持て余すかもしれないほどの機体は、ダイヤにはいささか荷が重かった。
バニングが培ってきた技術を授けようとしても、ダイヤのほうにその受け皿が整っていないのだ。
デスティニーの最初のパイロットである車弁慶がダイヤと同じ立場であるにもかかわらず数度の戦闘をこなせたのは理由があった。
まず一つは弁慶の体が並外れて丈夫だったため、デスティニーのフル加速にも平然とついていけたこと。
第二にその際の相手がウェンドロ――こちらは逆に不慣れなモビルトレースシステムに四苦八苦していた――だったこと。
条件が不利な者同士が戦い弁慶が生き残れたのはただの運だ。デスティニーのスピードがライジングガンダムをはるかに上回っていたこともある。
事実、次の対戦では歴戦の雄であるジャミルが相手だったため弁慶は苦戦を強いられた。
途中で弁慶自身が状況を把握したため勝負は流れたが、仮にそのまま続いていたとしても弁慶は敗北していただろう。
「俺がそいつを操縦できないというのもそこだ。俺の世界のガンダム……モビルファイターは、基本的にモビルトレースシステムで動く。
これは操縦者の体の動きをダイレクトに反映させるシステムだ。今俺が着ているこのボン太くんとほぼ同様だな。
だから俺もその適性……兵士なら持っていて当然の適応力というのか、それがないんだ」
言い添えるドモン。
この場に呼ばれた参加者の大半は元々が機動兵器乗りということもあり、以前からの経験則を新しい機体の操縦システムに転用することができている。
例外は三種類。
ドモンやロム・ストール、テッカマンアックスのような自身の体を武器とするタイプ。
ダイヤやヴァンなど、元々の自機の操縦システムが特異なタイプ。
もう一つはイネス・フレサンジュやイルイ、テレサ・テスタロッサのように自らが直接戦う立場ではないタイプ。
モビルトレースシステムやそれに準ずるシステム、あるいは戦艦といった操縦技量をあまり問われない機体を支給されることにより、これらの参加者はバランスを保たれていた。
シャドウミラーに施された措置により動かすだけならドモンにも可能だろう。
だがゴッドガンダムやシャイニングガンダムなど、モビルトレースシステムを搭載する機体ほどに使いこなすことはできない。
「デスティニーはドモンやお前の世界の機体より俺の世界の技術に近い。いわば理詰めの機体なんだ。
そうだな、ウラキなら早々に適応できたんだろうが……」
すでにこの世にいない教え子の名を無意識に口にしてしまい、バニングは咳払いした。
あのヒヨッコはとかく機体への順応が早かった。
通常なら整備しないと発見できないような機体の細かな異常を、操縦した際の僅かな違和感から特定するほどに。
「とにかく、だ。一から教えられる時間がたっぷりあるならともかく、今のお前にその機体は向いていないということだ」
「で、でもシーブック兄ちゃんだって素人なのにこいつを動かせたんだろ? だったら俺だって」
「シーブックは工科系の学生だからな……お前とは下地が違う。
機械知識もあるし、戦闘用のモビルスーツとは言わないまでも作業用モビルスーツの操縦くらいカリキュラムにあっただろう」
もちろんそれだけでは説明しきれない部分もある。
初めて乗った機体で戦闘をこなし生き残ったというシーブックの素質は、まさしく才能という言葉でしか表現できない。
だがそれを今のダイヤに言うのは酷だなと、バニングは言葉を飲み込んだ。
「そんなぁ……やっと俺にも守る力が手にはいったと思ったのに……!」
打ちひしがれるダイヤを前に、バニングもまた同じ思いに囚われていた。
ダイヤに足りないのはこういった系統の機体を操縦した経験だ。逆に言えばそこさえクリアすれば、他はまったく問題がない。
動体視力、身体能力、直感の鋭さ、敵に臆しない闘争心。パイロットに必要なおよそほとんどの資質を高レベルで備えている。
数刻前に手を合わせた遠見真矢に勝るとも劣らない原石。その名の通り、まさしくダイヤモンドのような。
まだ子供といえる若さを差し引いても、こんな殺し合いで死なせるには惜しい。
「……そういえばドモン、キングゲイナーの操縦システムはどうだったんだ? シーブックがデスティニーに乗っている間はお前が操縦していたのだろう」
「ん? そういえばそうだな……今思えばあれもよくわからん機体だ。
デスティニーほど複雑なコックピットではなく、操縦桿を握った瞬間『動かせる』と確信できたんだ。
その後も戦闘疲労というには不可解なほど全身の力が抜けた。まるでゴッドでハイパーモードを発動させた後のような……」
キングゲイナーに限らず、オーバーマンと呼ばれるマシンはパイロットにオーバーセンスと呼ばれる特別な資質を要求する。
ゲームチャンプではあっても実際の戦闘には素人であったゲイナー・サンガが活躍できた一番の理由はそこにある。
キング・オブ・ハートとして名を馳せたドモンにもそれなりのオーバーセンスは認められた。
だからこそ、モビルトレースシステム以外には不慣れなドモンでも初めて乗ったキングゲイナーを操縦することができた。
「ということは、やはりダイヤにはデスティニーよりキングゲイナーの方が向いているかもしれんな」
「かもな。だがあの力、操縦者に多大な負担を強いる。俺としてはあまり勧められんが……」
二人はダイヤを見る。
ダイヤは臆した様子もなく、胸を張って言った。
「俺、やるよ。もう守られてるだけの自分なんて嫌なんだ! 俺も誰かを守りたい……そのために強くなりたいんだ。だからさ!」
「……そうだな。よし、予定より早いが万丈たちと合流しよう。乗り換えるなら早い方がいい」
ダイヤの瞳に強い決意があるのを感じ、大人二人は折れた。
子供を戦わせるのは忍びないが、ダイヤはもう立派な戦士だ。戦う意思があるのにそれを邪魔することもない。
市街地に戻ろうとそれぞれが自分の機体に戻ったとき、
「……待て、北から何か来るぞ!」
「北ということはヴァンたちか?」
「いや、反応は一つだ。ヴァンというやつらなら二つ反応があるはず……!」
「敵ってこと!?」
「わからん、だが警戒しろ。ダイヤ、戦闘は俺とドモンがやる。お前は迂闊に前に出るなよ!」
散開し、ドモンとバニングが前に出た。
言われたとおり後方に下がったダイヤは、自分がまだ足手まといであることに歯噛みする。
そして、ついに北から一つの影が飛来した。
「な……!」
「大きい……!」
三人の前に現れたのは、50メートルはあろうかという大型の機体だった。
腕にドリルを付け、背中に二門の砲塔を背負う真紅の機体。
太陽の影から降下してくるその機体の名は、ソルグラヴィオン。
万丈のトライダーG7やシンのスレードゲルミルととほぼ同サイズの機体を前に、三人は戦慄した。
(いかん……こいつと戦うにはこの戦力では分が悪すぎる!)
モビルスーツが二機に、ほぼ生身の人間が一人。
ドモンがいかに人間離れした強さを誇ろうと、サイズの違いはどうしようもない。
ドモンがアマンダラと戦えたのはディアブロ・オブ・マンデイが巨大とはいえ砲撃装備を持たず、その上陸戦型だったからだ。
攻撃の届かない空中から砲撃を雨あられと打ち下ろされればドモンには成す術がない。
そしてダイヤを戦力に数えられないとすれば、実質立ち向かえるのはバニング一人だ。
(今から万丈を呼ぶ――間に合わん! 俺が残って二人を逃がすしかないか!)
瞬間の判断を終えてドモンらに指示を下そうとしたそのとき、目の前の機体から通信が入った。
「こちらはソルグラヴィオン、トレーズ・クシュリナーダ。
サウス・バニング大尉にドモン・カッシュ……そしてシーブック・アノーとお見受けする。
当方に戦闘の意思はない。情報交換を希望する」
場に似合わない圧倒的なまでに優雅な声が、バニングの思惑を打ち砕いた。
■
「シーブック……今、シーブック・アノーと言ったか?」
「ええ、言いましたけど。お知り合いですか?」
渚カヲルに襲撃された後、トレーズは彼を追って南下していた。
そこにいたのは同じくカヲルに襲われた二人の参加者、ホシノルリとヴァンだった。
そして情報を交換するうち、トレーズはシーブックの名を耳にする。
「私の、ではないがね。先ほど話したトビア君の仲間らしい」
「そうなんですか? 私のほうは、シーブックさんからトビアという名前は聞きませんでしたが」
「ふむ……? それはおかしいな。トビア君が嘘をつく理由もないのだが」
「それはシーブックさんもです。というか、宇宙海賊でしたか? まずそこからして初耳です」
「何……?」
黒衣の男ヴァンが気のない様子でパズルを解いている横で、トレーズとルリは話を進める。
二人の知るシーブック像には大きな隔たりがあることがわかった。
「トビア君が言うシーブック・アノーは27、8歳の青年だったらしい」
「私たちが会ったシーブック・アノーさんはどう見てもハイスクールの学生でした」
「どういうことだ? まさか同姓同名ということでもあるまいが……」
シーブックが語る世界観などはトビアのそれとほぼ一致していた。違うのは時代だけ。
考え込むトレーズにルリが言う。
「おそらく……ですが、二人は同世界の違う時間軸から連れて来られたのではないでしょうか。
もしくは極めて近く限りなく遠い世界――並行世界からトビアさんとシーブックさんはそれぞれ選ばれたか」
ボソンジャンプという技術。
発見当初は空間跳躍と思われていたそれは、実のところ時間跳躍であった。
ルリにも馴染みが深いその技術はときに人をすれ違わせる。ルリと同じくこの場にいるイネスが数奇な人生を送ったように。
その知識があったからこそ、ルリはこのシーブックは同一人物でありながら違う時代に生きているのではないかと推測した。
「ふむ、なるほどな。そう考えればたしかに説明はつく……私がなぜ生きているのかも」
すでに死んだ身であるはずの、末期の瞬間の記憶さえあるトレーズがなぜこの場にいるのか。
別世界を行き来するだけでなく、その世界の時間すらも跳躍するシャドウミラーの技術。
五飛に機体を破壊され消滅する間際にトレーズの時間を止めたとすれば説明はつく。あまりに桁の違う技術レベルに感銘すら覚えた。
だが推察どおりであるならばシーブックはトビアのことを知らないということになる。
トビアはシーブック――キンケドゥ・ナウに絶対的な信頼を抱いていた。なのに今のシーブックはトビアと何の関係もない。
もちろんシーブックが悪いわけではないのだが、このすれ違いぶりはどうだ。
トビアのことは、シーブックには伝えないほうがいいのかもしれないな、とトレーズは思う。
放送で呼ばれたのは未来でお前が出会う人間だ、などと言われて戸惑わない者はいないだろう。
トビアに対し申し訳ないと思う気持ちがないではないが、死者を慮るあまり生者の足を引っ張っては意味がない。
トレーズにできるのは、シーブックがトビアの二の舞にならぬように礎となること……それくらいだろう。
「君たちは北……月面エリアでハッキングを仕掛ける予定だったな」
「はい。それなりの設備があれば、シャドウミラーの情報を得ることも可能ではないかと」
「それなら北へ向かうのは正しい。あの規模の基地ならかなり高レベルのコンピュータを備えているはずだ。私たちが調べた情報も持っていくといい」
トレーズはトビアと共に考察した首輪及び機体の環境適応データなどをまとめてルリの機体に送る。
それは不完全ながらも重要な情報であり、ルリは突然こんなカードを切ってきたトレーズを訝しく思った。
「これはありがたいのですが……なぜ私に?」
「私と君たちの行く道は違えど、最終的に到達すべき点は同じだ。ならば情報を出し惜しみする理由はないよ」
「……ありがとうございます。トレーズさんはこれからどうされるのですか? よければ私たちと」
「それは遠慮させてもらおう。君には私などより頼もしい騎士がすでについている」
とトレーズはヴァンを見やった。
水を向けられたヴァンは何だよ、と言わんばかりの目でトレーズをにらみ返す。
「今なら月面エリアに敵はいないはずだ。多くの戦力は必要ない。私は私で個別に動き、君たちのような強い意思を持つ者と接触するつもりだ」
「そうですか。ならとりあえずは南の市街地に行くことをお勧めします。そこには私たちの仲間……シーブックさんたちがいるはずです。
さっきの放送でその仲間の一人が呼ばれました。後から合流するつもりではいますが、先に様子を見てきてもらえれば助かります」
「了解した。私も調査をやり残しているが、君に任せたほうがよりよい結果を得られそうだ。
ではホシノルリ君、ヴァン君。後の再会を楽しみにしているよ」
ソルグラヴィオンが南へと飛び去っていく。
トレーズを見送ったルリとヴァンは、改めて北の月面方面へと足を向けた。
「おい」
「はい?」
ヴァンからルリに声をかけてきた。
「いいのか?」
「何がですか」
「さっきの……テッサってやつのことだ。本当ならお前、すぐにでも戻りたいんじゃないのか」
無愛想な男なりにどうやら少しは気遣ってくれているらしいと気づいて、ルリはヴァンに見えないように微笑んだ。
ルリもルリなりに自分と似たところが多々あった少女の死には思うところはある。残されたダイヤとイルイのことも。
だがそれは今ここで足を止める理由にはならない。
「いえ、いいんです。ここで私たちが何の成果も持たずに戻れば私たちはただ戦力を分散させただけの愚者。
でも何か、何か得るものがあれば、彼女の死も決して無駄ではない……そう思いますから」
「……そうか。ならさっさと行くぞ」
ヴァンのダンが先行して飛び立つ。
その後を追うルリは、思考の片隅で生まれたもう一つの疑問を消せずにいた。
(……シャドウミラーが時間を自由に操れるのなら。放送で呼ばれたヤマダさんは、もしかして本物の……)
もちろんただの同姓同名である可能性は捨てきれない。
だが現実にシーブックとトビアという違う時代の同一人物というケースと直面し、こう思ってしまったのだ。
このヤマダ・ジロウは、ルリが知っている、腕はいいがどこかずれている熱血好きの、魂の名がダイゴウジ・ガイという男なのではないか。
しかしもう彼は死んでいる。
その真偽を確かめることはできない。
ルリはそこで思考を打ち切った。これ以上考えても益はないと判断したから。
顔を上げて見ればそこは月面エリアへの入り口、光の壁の目の前だった。
【一日目 16:00】
【ヴァン 搭乗機体:ダイゼンガー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:斬艦刀verダンの太刀装備、ガーディアンソード所持 胸部にダメージ中 全身に軽い焦げとダメージ小
現在位置:B-2 月面南部
第一行動方針:ルリがハッキングしている間、襲われないように護衛する
第二行動方針:エレナの仇、カギ爪野郎をぶっ殺す!あん、未参加?まだ決まったわけじゃねぇ!
第三行動方針:ダンを取り戻す。
第四行動方針:ルリと共に施設を目指し、カギ爪の男の情報を集める。
第五行動方針:渚カヲルはぶっ殺す
第六行動方針:カギ爪がいなかったら……
最終行動方針:エレナ……。カギ爪えええええええええええッ!
備考:斬艦刀を使い慣れたダンの太刀、ヴァンの蛮刀に変形できます】
【ホシノルリ(劇場版) 搭乗機体:フェアリオンGシャイン王女機(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:疲労小
機体状況:アサルトブレード装備、中破、EN消費(中)
現在位置:B-2 月面南部
第一行動方針:月面基地施設でハッキングを行う
第二行動方針:街でハッキングに役立つ道具や施設を探す。
第三行動方針:ヴァンと共に行動する。
第四行動方針:自身のハッキング能力を活かせれる機体を見つけたい
最終行動方針:シャドウミラーを打倒する
備考1:ヤマダ・ジロウ(ガイ)は同姓同名の別人だと思っていますが、少し疑問を持っています
備考2:トビアによる首輪の調査結果を聞きました】
■
「――という訳だ。ホシノ君たちは今頃月面の施設にたどり着いているのではないかな」
唐突に現れたソルグラヴィオンのパイロットであるトレーズは、バニングたちにとって幸運なことに敵対的な人物ではなかった。
代表してバニングが情報交換に当たっていると、別行動中のルリたちに聞いてここに来たという。
シーブックの機体にダイヤが乗っていたことだけがトレーズの思惑から外れていたが、おおまかにお互いの事情を話し終え、バニングは一息ついた。
「そちらも渚カヲルに襲われていたか。予想以上に危険なやつだったようだ」
「彼とはいずれ私が決着をつけるつもりだ。すでに二人の人命を奪っている以上、交渉の余地はないだろう」
「うむ。トレーズ、お前はこれからどうするつもりだ? 俺たちと共に行動してくれると助かるが」
「いや、それは遠慮させてもらおう。今は動くとき……戦力を蓄えるのもいいが、その間に取りこぼしてしまうものもある。
ルリ君や大尉、あなたたちのように仲間を持つ者はいいが未だ単独で動いている者もいるだろう。私はそういった者と接触していこうと思っている」
「そうか、俺たちはしばらくここを動けん。先行して仲間を集めてくれるのならありがたい」
「うむ……それとバニング大尉、少しいいだろうか?」
「うん?」
ドモンとダイヤには聞こえないように回線を限定し、トレーズはバニングにのみ話しかけた。
ルリとの接触で知った、シーブックという人物の背景について。
トレーズはトビアから聞いた未来のシーブック=キンケドゥについて、知っている限りのことを話した。
これでトレーズは当面の目的を一つ果たしたことになる。これだけの仲間がいるなら直接顔を合わせる必要もない。
「私に万が一のことがあったときのために伝えた。話すかどうか、判断は任せるよ」
「……未来のアノーだと。一体どうなっている……」
常識外の出来事に慣れたと自分では思っていても、実際に直面してみればそうでないと実感する。
バニングの心労は増すばかりだ。
「それと、ダイヤ君だったな。君は我が友五飛に守られたと聞いているが……」
「五飛さんの友達なの?」
「そのようなものだ。ダイヤ君、君の目に彼はどう映った? 彼は自らの正義を貫けていただろうか」
「うん。最後まで俺たちを守ってくれたよ。敵が三人もいたのに一歩も引かなかった。五飛さんは……強かったよ」
「そうか……」
ダイヤの瞳から窺えるのは五飛に対する感謝と信頼だった。
気高く孤高、死してなおその魂は若き戦士に受け継がれている。
ならばやはり張五飛は勝者のまま逝ったのだろう。それがたまらなくトレーズには誇らしい。
「ツワブキ・ダイヤ。君は力を望むか?」
「えっ……?」
「答えたまえ。君はなぜ、何のために力を欲する? 五飛や草薙剣児少年の仇を討つためか?」
「……違う。ううん、その気持ちがないわけじゃない。でもそれ以上に、俺は守りたいんだ!
剣児さんや五飛さんが俺を守ってくれたように、俺もイルイやみんなを守りたいんだ! そのために俺は強くなりたい……!」
ダイヤの瞳に五飛らガンダムパイロットやトビアと同じ強い意思の輝きがあるのを認め、トレーズは満足げに微笑む。
(この光を持った者こそが未来を創るのだ。そうだろう、我が永遠の友よ……)
自身の無力を嘆き、ひたむきに強くなろうとする少年。
己の弱さを知ってなお逃げずに立ち向かうその姿は、トレーズをして美しいと感嘆せしめる。
だからこそ。
「ツワブキ・ダイヤ――その身のうちに熱き炎を宿す少年よ。君にこそこの太陽の化身、ソルグラヴィオンは相応しい」
「え?」
「機体を交換しよう。私にこの機体はまぶしすぎる……君ならきっと、世界を照らす太陽になれるはずだ」
ソルグラヴィオンから降りたトレーズは確信していた。
ダイヤと一体になったソルグラヴィオンこそが、シャドウミラーという悪を焼き尽くす炎だと。
「で、でも……いいの? トレーズさんはどうするんだよ」
「君の機体を借り受ける。私がガンダムに乗るというのも皮肉な話だが……運命と言う名のガンダム。私にはうってつけだろう」
死んだはずの男が生きていて、殺したはずの男が死んでいく歪んだ運命――だからこそ、トレーズ自身の手で終わらせる。
「どうだろう、バニング大尉。このソルグラヴィオン、デスティニーよりはダイヤ君に合っていると考えるが」
「う……む。こちらとしてはありがたい話だがいいのか? デスティニーは強力な機体だが、ソルグラヴィオンほどではないだろう。単独行動するなら危険だぞ」
「なに、モビルスーツの扱いには慣れている。せっかく拾った命を無駄に捨てる気もない……危険だと判断すれば離脱する。
そのデスティニーは機動性に優れているのだろう? むしろ小回りが利いて助かるくらいだ」
ダイヤにとっては願ってもない話だ。
さっそく機体を交換し、ダイヤはソルグラヴィオンに足を踏み出させた。
「どうだ、ダイヤ?」
「……うん! 動かし方はデスティニーよりガイキングに近い……これなら俺でも動かせるよ!」
炎の力で動かすガイキングと、G因子を用いるグラヴィオン。
もちろん操縦系統は違うが、両者とも特殊なシステムを用いることでモビルスーツほど複雑な操縦システムを搭載しない。
シャドウミラーの技術を介することにより、ガイキング並みとは言わずともデスティニーよりよほど思い通りにソルグラヴィオンは動く。
一方トレーズもデスティニーに乗り込み、瞬く間におおよその性能を把握した。
アフターコロニー世界でガンダムパイロットと互角の腕前を持つのはトレーズとその友ゼクス・マーキスただ二人。
性能的には劣る旧型のトールギスⅡでアルトロンガンダムを駆る五飛を追い詰めたほど、その腕は冴え渡っている。
加えてトレーズはガンダムエピオンを自ら設計するほどの技術者でもある。バニング言うところの下地は十分すぎるほどあった。
自身でも手を焼くと判断したデスティニーを、乗り換えてすぐ自在に操るトレーズにバニングは瞠目する。
なるほどあの腕なら単独行動でも早々不覚は取らないだろう。
見ればドモンも感嘆の眼差しでトレーズを見ていた。
「トレーズ、この殺し合いを終わらせてシャドウミラーを壊滅させた後に俺たちが生き残っていたのなら……どうだろう、俺と手合わせをしてくれないか?」
トレーズをアフターコロニー世界で最強クラスのパイロットとするなら、ドモンも未来世紀世界において最強と呼ばれたキング・オブ・ハート。
相通じるところがあったか、ドモンは殺し合いなどではなく純粋に、トレーズとガンダムファイトをしてみたいと思った。
「ガンダムファイター、異世界の戦士か。光栄だな、王者である君直々に試合を申し込まれるとは。
……いいだろう、もし私が運命に屈することなく勝者となれたなら。そのときは謹んでお手合わせ願おう」
「ああ、約束だ!」
「楽しみにしている……ではそろそろ私は行くよ。月面施設はルリ君たちに任せた。
私は南の雪原を迂回しつつ東側の基地に向かい、仲間となりえる者をピックアップしていく」
「気をつけろよ、トレーズ。渚カヲルに遭遇しても気負いすぎるな」
「フッ、心得ているよ。それでは諸君、失礼する。再会を願っているよ」
「トレーズさん、すぐに俺たちも行くから! だからそれまで無事でいてくれよ!」
ダイヤの声に機体の手を振って答え、トレーズはデスティニーを発進させた。
片手間に機体のデータを詳しく参照し、笑みを漏らす。
「アロンダイト、かの湖の騎士の剣。私の元にこの機体が巡り来たのは皮肉な話だな」
かつてトレーズは、平和を望みながらも痛みを伴う変革を求めた。
トレーズの命令で命を落とした人間は膨大な数に上る。
そのトレーズが今度は守るために剣を取る。
もう世界を背負う必要はなく、今度は何を欺くことも裏切ることもない。
あのガンダムパイロットたちのように、感情のまま純粋に戦うことができる。
「いいだろう……私も運命に抗ってみせよう。このデスティニーと共に!」
【一日目 16:30】
【トレーズ・クシュリナーダ 搭乗機体:デスティニーガンダム+ミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
パイロット状況:良好
機体状況:良好、ミーティア接続中
現在位置:B-5 北部
第一行動方針:雪原地帯を迂回して東に向かい、仲間を探す
第二行動方針:首輪だけでない勝利条件を調べる(会場からの脱出など)
第三行動方針:強い意志を持つものを生き残らせる
第四行動方針:渚カヲルの打倒
最終行動方針:主催者の打倒
備考1:トビアによる首輪の調査結果を聞きました】
【ミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
機体状況:右アーム切断
備考:核以上の出力があり20m前後のモビルスーツ程度の大きさならば、どんな機体でも着脱可能に改造されています】
■
「では、ダイヤ。お前に合う機体とはいえそのまま戦闘に突入させるわけにもいかない。訓練を再開するぞ」
「時間がない、今度は俺も手伝おう。ソルグラヴィオンの挙動を、お前のガイキングと同じレベルまで、完璧に体に叩き込むんだ。できるなダイヤ?」
「はい! よろしくお願いしますっ!」
ソルグラヴィオンと対峙するストライクノワール、そしてボン太くん。
強大な力に溺れることなく自らの意のままに操るために、歴戦の戦士二人を相手にした訓練が始まった。
【一日目 16:30】
【ドモン・カッシュ 搭乗機体:ボン太くん(フルメタル・パニック? ふもっふ)
パイロット状況:健康
機体状況1(ボン太くん):良好、超強化改造済み、ガーベラ・ストレート装備
現在位置:B-4 荒野
第一行動方針:B-4荒野にてダイヤを鍛える。17時までに万丈たちと合流できなければ別行動
第二行動方針:他の参加者と協力して主催者打倒の手段を探す
第三行動方針:シンを助けたい。補給システムからの情報に対しては疑念
第四行動方針:ダイヤとシーブックに期待。
最終行動方針:シャドウミラーを討つ】
【サウス・バニング 搭乗機体:ストライクノワール@機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER
パイロット状況:健康
機体状況:良好
現在位置:B-4 荒野
第1行動方針:B-4荒野にてダイヤを鍛える。17時までに万丈たちと合流できなければ別行動
第2行動方針:アナベル・ガトー、イネス・フレサンジュ、遠見真矢、渚カヲルを警戒
最終行動方針:シャドウミラーを打倒する】
【ツワブキ・ダイヤ 搭乗機体:ソルグラヴィオン(超重神グラヴィオン)
パイロット状態:頭部に包帯。軽い貧血
機体状況:良好
現在位置:B-4 荒野
第一行動指針:ドモンとバニングに鍛えてもらう。17時までに万丈たちと合流できなければ別行動
第二行動方針:イルイをもっと強くなって護る。もう誰も失いたくない。
最終行動方針:皆で帰る】
最終更新:2010年06月19日 14:45