魔人同盟◆POvMLKAPKM




森林の緑の中に一点、真紅の巨人が膝をついている。
機体を乗り換えた春日井甲洋は、ガルムレイド・ブレイズの性能を把握し、機体にあった戦い方も見出し終えた。

バルゴラ・グローリーはその戦闘力の大部分をガナリー・カーバーに依存していた。
ガナリー・カーバーが攻撃力の源だとすれば、他の機体に持ち替えればバルゴラの攻撃力をほぼそのまま上乗せできるということだ。

次に新しい機体、ガルムレイド・ブレイズ。
ガルムレイドは本来近接戦闘に優れたフォームGと遠距離戦闘を担当するフォームSの二種類の形態を使い分ける。
当然二人のパイロットが乗っていなければまともに変形させることはできないが、ここではシャドウミラーの改造により一人での操縦が可能となっている。
だが、ここで問題がある。
ロウガこそ無事であったものの、右腕をシンのスレードゲルミルとの戦いにより奪い去られていたことだ。
格闘戦を重視するフォームGが腕を一本失くすということは戦力の半減に直結する。
加えて最強武器と言えるエクスキューション・レイドを放つには、右腕のロウガ・クラッシャーが必要不可欠だ。
左腕でも使えないことはないかもしれないが、そうするとガナリー・カーバーを保持する腕がなくなる。
ガナリー・カーバーの威力は甲洋も頼りにするところであり、使わない手はない。
そうすると取るべき道はおのずと決まる。

腕以外の武装が豊富であり防御力・遠距離攻撃能力に優れるフォームSに、接近戦武装を持つガナリー・カーバーを併用すれば隙はなくなる。
すると敵は砲撃をかいくぐって接近し、ガナリー・カーバーを破壊するなり引き離すなりして無力化を狙うだろう。
そうなればフォームGの出番。一瞬にしてスタンスを変えるガルムレイドに対応できる敵は早々いないはずだ。

「……よし、行けるな。ん……?」

西側から近づいてくる影をレーダーが捉えた。

「そうだ、こいつに聞こう……何か知ってるかもしれない」

ガルムレイドを近づいてくる機体の進路上に移動させ、待ち受ける。
現れたのは両腕にプロペラを持つ片足のない赤い巨人――ビッグデュオだった。
甲洋が問いかける前にその機体から通信がつなげられた。

「やあ、僕に何か用があるのかい?」
「聞きたいことがある! 真壁一騎、遠見真矢、羽佐間翔子、このうち誰か知ってるやつはいるか!?」
「いいや、すまないが知らないね」

涼やかな少年の声。得るものがないと知った甲洋は即座にガナリー・カーバーに攻撃を命じた。
ブイ・ストレイターレットが一直線にビッグデュオに向かう。
しかし弾丸はビッグデュオを貫く寸前で赤い壁に弾かれた。

「……なにっ!?」
「乱暴だね。それより君の名前を聞かせてくれないかな?」
「この……!」

敵のまったく動揺のない声に苛立ち、甲洋は続けて攻撃を叩き込んでいく。
マシン・アニマリートレイドをパージし、それぞれ別方向からビッグデュオに向かわせる。
ガルムレイド自身はブラッディレイ、TEスフィア・ブレイザー、そしてガナリー・カーバーの出力を上げハイ・ストレイターレットを放った。
呵責ない飽和攻撃にさらされ、ビッグデュオが炎に包まれる。

「これなら……」
「ああ、忘れていたよ。僕は渚カヲルというんだ」

だがまだ終わってはいない。
仕留めたという手応えとは裏腹に、爆炎の中から変わらないカヲルの声が甲洋の耳に届いた。
いっそう強く輝いている光の壁――ATフィールドの向こう側で、ビッグデュオが変わらずその姿を保っている。
先ほどまでの違いと言えば、無骨な両腕にロウガとヒオウががっちりと囚われていることだ。
砲撃はすべて防がれ、不用意に接近したマシン・アニマリートたちはビッグデュオの装甲を貫けず逆に捕獲された。

「くっ……!」

甲洋の歪められた思考が回転する。
どうやら敵はかなり強固なバリアを持っているようだ。
あれを貫くにはもっと強力な攻撃が――フォームGでのエクスキューション・レイドか、ガナリー・カーバーを最大出力で解放するしかないだろう。
だが前者はロウガを、後者は数秒のチャージを必要とする。

(どうする? どう戦う……?)

戦っている間は思考が滑らかになる。
現在の状況、取り得る手段、自分と敵機の性能比較……流れるように情報が踊る。

(この状況、一騎ならどうやって……違う! 俺はあいつとは違う! 俺の力だけで切り抜けるんだ……守るんだ!)

一騎ならどう戦うか。
総士ならどんな指示を下すか。
無意識にそう考えた甲洋の中にカッと怒りが爆発する。

あいつらは『  』を守れなかった。だから『  』は自分が守る……そのための力がある。
目的が定まらないまま湧き上がった感情は端から機体を通してガナリー・カーバーに流れ込んでいく。
天井知らずに上がるガナリー・カーバーの出力に、これならいける、と確信した。

「君は面白いね……人よりは僕に近い。しかし使徒でもない」

しかし甲洋が動く前に、ビッグデュオがおもむろに手を開いた。
ロウガとヒオウが解放される。握り潰すこともできただろうに、まったく損傷はない。
その行為に虚を突かれ甲洋の出鼻はくじかれた。

「どういうつもりだ……?」
「僕に君と戦う理由はないってことさ。君も何か大事な用があったから、僕に声をかけたんだろう?」

もしここでヴィレッタのときのようにカヲルが反撃してくれば、どちらかが死ぬまで甲洋は戦いをやめなかっただろう。
だが戦場に不似合いなほど静かなカヲルの声に毒気を削がれてしまった。
タスクを殺したときと同じ種類の気持ち悪さを思い出し、相手も自分と同じ人間なのだとことさらに実感してしまう。

「真壁一騎、遠見真矢、だっけ。あと一人は放送で呼ばれたようだけど、その人たちを探しているんだろう?」
「……そうだ」

ガナリー・カーバーに悲しみを食われ、皮肉にも思考能力を取り戻してしまったがゆえに甲洋は殺人機械に戻れなくなった。
戦意がある相手ならともかく、こうして会話を求めてくれば無視して攻撃することもできなくなって。

「実は僕にも探している人がいるんだ。碇シンジっていう君と同じくらいの男の子なんだけど、知らないかな?」
「いや、知らない」
「そうかい。残念だな」
「……待ってくれ、碇シンジだって?」
「ん?」
「知ってる。いや、ここで会ったことはないが……」

そう、甲洋がジョーカーとしてこの戦いに参加するように言われたとき、たしかにその名を聞いていた。
甲洋にとっては他のジョーカーなど意味のない存在であったため失念していたが、思考能力を取り戻したことに伴い記憶も回復してきたのだ。

「ふうん。とにかくシンジ君が今どこにいるかは知らない?」
「ああ、そうだ」
「そうか……」

ジョーカーのことまで教えてやる義理はない。
嘘は言っていないし、これで情報を隠すなと襲ってくるなら今度こそ戦うだけだと、甲洋は警戒してカヲルの出方を待つ。

「まあいいか。僕も彼も生きているんだからそのうち会えるだろうし。それより今は君かな」
「何?」
「少し興味が湧いてね。君は優勝を目指しているのかい?」

カヲルから問われ、甲洋は答えに窮した。
違う、優勝が目的ではない。守ることが目的だ。
『  』を守る……だが誰を守るのかが思い出せない。
だから確かめるために一騎と遠見を探しているのだ。その先はまだ……決まっていない。

「……わからない。俺は……守るんだ。それ以外のことはどうでもいい」
「ふむ。結局は探し人を見つけてからか。なら、さ。僕と一緒に行かないか?」
「え?」
「君は人を探している。僕も人を探している。そして君は僕の敵ではない……なら、協力してみるのも面白いと思うよ」

戸惑う。こいつは何を言っているのだろう。

「君は誰かを守るために他の誰かを殺そうとしているんだろう。なんなら手伝ってあげてもいい」
「どういうつもりだ?」
「一人でいると寂しいのさ。シンジ君ほどじゃないが君と話しているのも楽しい……君の心は痛みと悲しみに満ちているからね」

掴みどころのないカヲルに戸惑いながらも甲洋はその申し出を吟味する。
今まで一人で戦い続けてきたが、当然消耗もかなりのものだ。
単純に戦力が二倍になるなら悪い申し出ではないが。

「僕が信用できない?」
「当たり前だろ。今戦ったばかりだぞ」
「僕は何もしてないけどね……じゃあこうしよう。期限はお互いの探し人が見つかるまで。
 見つかったらその時点で別れるのもいいし、戦ってもいい。一緒にいる間は僕からは君に何もしない。それでどうだい?」
「……」

何か裏はあるだろう。
だが……それに目をつぶれば、魅力的な誘いではあった。
渚カヲルの、ビッグデュオの力は甲洋も目にした通りだ。
相方がいればもっと効率的に戦える。アルヴィスで訓練を受けた陣形、ツインドッグに近い連携も可能だろう。
ヴィレッタと遭遇したときは相手も一人だったからよかったものの、これから先は集団と接する機会も増えてくるだろう。
カヲルと同行するならそのとき取れる選択肢は大幅に広がる。
撤退の援護、状況の撹乱、あるいは挟み撃ちで殲滅など。

決して油断はしない。気は許さない。
もし先に碇シンジを見つけてしまえば――再会の隙を突いて、二人とも倒す。
それを忘れなければ、この取り引きは悪くない。

「……わかった。一騎か遠見、それにシンジってやつを見つけるまでだ」
「よかった。じゃあ、よろしく……と、君の名前。まだ聞いてないよ」

にこやかなカヲルの声。絶対に信用はしない、その硬い意思を込めて。

「春日井甲洋だ。甲洋でいい」

春日井君、とは呼ばせない。
それは『  』に呼ばれていた名だから――無意識のうちに、甲洋は唇を噛み締めていた。




ファフナー・ノートゥングモデルを操縦するために生み出された子供たちは、みな遺伝子操作を施されている。
フェストゥムの読心能力を防ぐための措置。その代償にファフナーに乗るたびにパイロットは同化現象と直面することになる。
もはやこの時点で尋常な人間とは言いがたい。特に甲洋は直接フェストゥムに同化され、アルヴィスの誰よりも同化現象は進んでいる。
その上、この場で本来ありえべからざるモノ――太極へと至る標、『悲しみの乙女』のスフィアとの接触を果たし、同調してしまった。
力と引き換えに人間ではなくなっていく、それがスフィアのもたらす変化。

渚カヲルが春日井甲洋を指して面白いといったのは、そこだ。
人ではない者が人のふりをして人であろうとしている。その悲しくもひたむきな有り様にカヲルは強く興味を覚えた。
生き残るべきは人か、使徒か。
破嵐万丈やヴァンといった好ましい人物たちとは違う、そのカテゴリに入らない異物である甲洋が、最期にたどり着く場所はいったいどこなのか。
神ならぬ身のカヲルにはわからない。だがだからこそ、知りたいと思う。


人でない者が二人、暮れ始めた空を駆けていく。
彼らが次に出会う『人』は――



【一日目 15:40】

【渚カヲル 搭乗機体:ビッグデュオ(THE BIG・O)
 パイロット状態:良好
 機体状態:マシンセル寄生 損傷修復中  装甲にダメージ(中)右足消失
 現在位置:D-4北部
 第一行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす
 第二行動方針:しばらく甲洋と共に行動する(シンジ、一騎、真矢を見つけるまで)
 最終行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす】


【春日井甲洋 搭乗機体:ガルムレイド・ブレイズ(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:同化により記憶及び思考能力低下&スフィアと同調することで思考能力の回復
 機体状況:EN20% 右腕損失。胸部、左腕損傷。ガナリー・カーバー装備
 現在位置:D-4北部 
 第一行動方針:翔子が守りたかった相手かを確かめる
 第二行動方針:一騎と真矢から翔子のことを聞き出す
 第三行動方針:しばらくカヲルと共に行動する(シンジ、一騎、真矢を見つけるまで)
 最終行動目標:守るんだ………………誰を?
 ※フェストゥムに同化された直後から参戦です。
 ※具体的にどのくらい思考能力や記憶を取り戻しているか、どの程度安定しているかはその場に合わせて一任します。
   好きなように書いてもらって構いません】

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最終更新:2010年06月19日 14:46