225 名前:161[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:50:01 ID:bD0Y78el [1/6]
>>219 >>222 こうですか! わかりません!



「待って、待って、夏希先輩!」
振り回される細い手首。こんな腕でよくも竹刀や木刀をああも軽々振り回せるものだ。
「もう!ばか!」
どんどん顔の赤さが酷くなるのにつれて腕の速度が落ちている。咄嗟に手を広げたらパシンといい音がして両方の手首を同時につかめた。ビリビリする。熱い。
「あっ……!」
掠れる様な声を引きずるように先輩の背後にあるロッカーへ押し付けると、鉄の塊がほんのり冷たくてホッとした。がたん、とロッカーのドアが閉まる音。
腕を壁に押し付けて、顔を近付けるとまた汗と石鹸の混じったぬくい匂いがして、くらくら目が回る。肩と首の間に顔を埋めて大きく息を吸い込んだ。……馬鹿になりそう。
耳元で引きつったような悲鳴のようなしゃっくりのような、不思議なものが聞こえる。
「ああ、だめ……こんなとこで……!」
緊張で筋張った首は硬くて、そこに流れる汗も愛しい。
ああそうだ、とても愛しい。
食べてしまいたいほど。
「あひゃぁあぁぁぁぁ……!」
ぷちゅぷちゅ音を立てて唇で噛み付いた。舌を口の中で這わせながら汗を舐め取って、吸う。つるつると上下に頭を滑らせながら溶けるアイスをしゃぶるように。
「~~~~~~っ!」
夏希先輩の肌があわ立っているのが何故か嬉しかった。もう腕に力なんて全然入れてないのに引き剥がそうともしないのが嬉しかった。声を上げないように我慢しているのも嬉しい。
両手から力を抜いたらガガッとロッカーが軋みを上げて少しこちらに傾いだ。よほど力を込めたのだろう。……余裕なくてみっともない……
小刻みな呼吸音が二つ。ようやく聴力がまともになったのか、蝉の声と部活の練習音が耳に届き始めた。全身に血が通うと同時に、弛緩した汗腺からどっと汗が噴き出ている感覚さえ鮮明だ。
僕が正気に戻るより先に先輩が状態を回復していたら、或いは僕はそのまま素直に殴られたり怒られたりして、高いアイスクリームを奢らされていたに違いない。けれど僕は彼女が一息つくより先に動けた。
いや、意地で動いた。
力なく床に座り込んで僕に少し背を向け、ハァハァと震えている彼女の白い剣道着。
ところで剣道着というものは体の動きを阻害しない為、袖口が大変大きく開いています。その大きさたるや逆方向から腕を入れても身体に手が余裕で届くくらい。

226 名前:161[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:50:33 ID:bD0Y78el [2/6]


「ひぃやぁぁぁぁ~~~!」
ジタバタ暴れるから嫌がっているのかもしれないけれど、全然説得力がない。だってほとんど力が入ってないんだもの。
背中から覆いかぶさって左手の袂から右腕を突っ込んで、その先のわき腹に指を滑らせる。Tシャツがびしょびしょでなんだか日差しで温まったこれから干す洗濯物みたい。
「あぁぁあぁぁぁ~だめ、だめ、だめだってばぁぁぁ~!」
更に指をまさぐると、胴着と同じ硬さのヒモを見つけた。特に下心もなく引っ張ってみたら意外と簡単に解けたけれど、勢い込んで腕を突っ込みすぎてもうそれ以上動かない。
仕方なしに腕を引っ張り出したら、その勢いで剣道着が引きずられて胸元が大きくがばっと開いてしまった。
……な、なるほど……あのヒモはコレを防止する為のストッパーだったのか……!
驚き半分、感心半分でまじまじと観察していたら、違和感を見つけた。
あれ。
なんかTシャツに“いつもならあるべき線”が見当たらない。
「な、なつきせんぱい……も、しかして、ぶっ……ぶらじゃー、して、ない、んです、か」
「~~~だ、だってしょうがないじゃない~~暑中稽古のときブラなんか着けてたらめちゃくちゃになっちゃうんだもん~~~!」
ひーん、とかわいい声で泣きながら先輩が床に伏せるみたいにして胸を庇った。
……そ、そんな格好したら……ものすごく劣情を刺激されるので逆効果なのですが……!
剣道袴というのもこれでなかなか素敵な服で、腰のところに大きな【脇あき】と呼ばれる切れ込みが入っていることは皆様ご承知の通り。
……実際は前身ごろと後ろ身頃の接続部分で、ここが大きく開いているが故に袴というのはある程度フリーサイズなのだそうな。閑話休題。
ぺしゃんと座り込んでいるものだから、その切れ込みも大きくたわんで、下の剣道着が大きく見えている。もちろんその下は汗でしっとり吸い付くような素肌。
これに燃えない男が居ようか! いや! いないっ! だから僕が手を突っ込んでしまうのは必然なのだっ!
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
分厚い剣道着がずっしり重く湿っていて、差し込んだ掌がふやけそう。熱いスベスベの太腿の感触を例えるならばなんだろう? 目一杯強く張ったシーツかな、濡れたラップかな、少し冷めたお餅かな。
「あ。あ。あ。あぁァあぁ~~……!」
指が動くたびに先輩が変な声を上げるのが面白くてぷにぷにぷにぷに太股を摩ってたら、ついにせんぱいがふにゃっと床に全身倒れてしまった。
「せ、先輩……あの、き、汚いですよ、床……」
「~~~~~~っ」
「あ、あの。大丈夫ですか?」
「けっ……けんじくんが! 体触るからぁ!! こ、し、立たない……!」
うううう~っと唸り声みたいなものが聞こえた後にすすり泣きが聞こえてきて、僕ははっとして身体を起こした。自分と、彼女のを同時に。

227 名前:161[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:50:59 ID:bD0Y78el [3/6]


「す、すいません! 調子に乗り過ぎました!」
両肩を掴んで顔を真っ青にし、ともかく謝罪を入れる。ああどうしよう! 泣かせちゃった!
「だめ、って、ゆった、の、に……!」
ぽろぽろ大粒の涙をこぼしながら真っ赤な頬の夏希先輩が、見た事もないような顔で途切れ途切れに喉を震わせる。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「そんなことされたら、へんになって、どうしたらいいか、わかんないよ」
うぐうぐ言いながら乱れた髪が喉や唇の近くに張り付いてる先輩は、涙と汗で顔中ぐちゃぐちゃだ。
ぐちゃぐちゃなんだけど……そのぐちゃぐちゃ具合が……こう……なんというか……! おかげで『もう先輩が嫌がることしません』という台詞を絞り出すのが、ものっすごく大変だった。
だからその次の彼女の台詞を脳味噌が理解するのに時間が掛かった。
「し、しないの……?」
「……………………………………………………………………………………はい?」
それはそれは間の抜けた声に、彼女がまた紅い顔を更に赤くして呻いた。
「……ち、ちがう……忘れて……!」
両手で顔を覆い、女の子座りでペタンと蹲ってしまった先輩はとても小さくて儚い形をしている。照れているのか、泣いているのか、僕には判別がつかなくておっかなかった。
おっかなくておっかなくて堪らないから、全身でやっと搾り出した声。
「こ。……んな、とこで、しても、いい?」
痺れている思考回路が理性的な要素をみんなみんなふっ飛ばしてしまって、制服と、汗と、剣道着の匂いが物理部の部屋の熱と湿気で蒸され、正気ならきっと眉を顰めただろうに。
「~~~~~~~っ!」
亀のように、お饅頭のように、彼女がお団子頭を抱え小さく丸まって唸りのような悲鳴のような謎の音を出した。足が小さくジタバタしてるのを見て背中とお腹に同時でモゾモゾしたものが湧き上がる。
僕はそっと覆いかぶさるように小さな背を胸に抱いた。
汗の匂いでしっとりしてて、熱い。
髪を上げたうなじに流れる玉のような雫が行く筋も流れて、思わず唇で掬う。しょっぱい。
「ひぁ……ぁぁぁ~~……!」
ごわごわの剣道着は乱れてて、少し引っ張っただけで袴の帯の戒めから抜けてしまいそうで、それがなんだか怖いような気がする。
「あ、あ、あ、あ……」
薄いTシャツ一枚。熱く濡れた布が一枚、あこがれの素肌に張り付いているだけ。
……は、剥ぎ取ってしまいたい……!
歯がゆくて、焦れったくて、もどかしい。手のひらに、指先のどれかに、かすかに当たる硬く押し上げるものをこの目に焼き付けたい……けれどそれを口に出すことも出来ない僕は、ただただ首筋の柔らかな肉を吸い続ける。

228 名前:161[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:51:51 ID:bD0Y78el [4/6]


「や、や、や……! いた……いた……!」
ヘロヘロの言葉がやっとのことで抵抗を意味していたけれど、蕩け潤んだ艶声ではちっとも効果がない。
……それどころか、そんなカワイイこと云われると……なんかものすごく凶暴な気持ちに……
「せ、先輩……先輩……先輩……!」
呟いたら口から涎が伸びていた。
……だめだ、もうだめだ。
半袖で拭う。
手をベルトのバックルにかける。学生用の布ベルトだから余った一方をガチャガチャ揺さぶれば片手で外せるのがありがたかった。
「ひ……っ!?」
金属音を耳にした彼女が身体をこわばらせたけれど、もう止まらない。止まるハズがない。
後はもうどこをどうしたのかさっぱり思い出せず、気がついたら袴の左裾を左手で無理やり捲り上げて、右手は右脇あきに滑り込んで布の感触を確かめてた。
「……ぬ、ぬれてますね……」
「~~~~~~~~~~~~~~!」
声なき声がビリビリ鼓膜に響いている。それともこれは自分の震えだろうか。……もうそんなのどうだっていいけど。
「こんな、濡れてたら、もう穿けませんよ」
ドキドキなんてもんじゃない。どくんどくんなんて遠に過ぎた。どどどどど!と、まるで大きな花火大会の連射みたいな心臓の音。死にそう。死んでたまるか。気が狂いそう。狂ってたまるか。
ぶぢ、ぶづづづづづ。
「きゃあああああ……!」
自分にこんな力があったとは。いや、女性の下着は作りが繊細だと伝え聞いたことがある。けしからん、最後の砦だというのになんて脆さだ。実にけしからん。
見よ、この薄い装甲。こんな、薄緑の、こんな、無地で……汗で透けちゃうくらいペラペラで……! お、おまけに……!
「………………い……糸、引いてます……」
「いいい言わないでェェェ~~……!」
今向こう側から先輩を見たら、一体どんな顔をしているんだろう。いや、いや、なんて言いながら抵抗する素振りさえも見せない彼女は、どんな風に真っ赤なんだろう。
そして、今自分はどんな顔をしているんだろう。
知りたくて、見たくない。
見せたくて、知られたくない。
せめぎ合う矛盾した思いが欲望の杖に絡み合う二匹の蛇が如く僕の正気を締め上げる。
「……い、入れていい、です、か?」
返事はない。
恨めしくて悔し涙がこぼれた。
ひた押しに押して頼み、達って願って、とうとう特別にここまでやってきて、挙句この体たらくの自分の卑劣さに。

229 名前:161[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:52:59 ID:bD0Y78el [5/6]


「だめ、ですか」
もう一度尋ねた。精一杯ありったけの祈りを込めるように。
五分。十九時間。……いや、八日ほど経ったかもしれない。そのくらい長い時間が過ぎてからぶるぶる震えた夏希先輩がついに怒鳴った。
「健二くんくらい……わ、わたし、投げ飛ばせるのよ……っ! 陣内の家系の女はみんな強いんだから! わたし剣道やるし! 栄おばあちゃんは薙刀だし! だから……だから……!」
ゾワっと耳元で血がざわついた。
「……………………………い……っ……………じわる、しないで……!」
喉から血を吐くみたいにやっとのことで言葉にされた告白に、僕の意識は混濁し、朦朧と、脳に血を押し上げる筈の心臓に肝心の力が入らない。己が欲望で彼女を切り開き中身を確かめる儀式の為にぼんやり夢想していた計らいなど一瞬にして消し飛んでしまった。
ただ、ただ一心不乱に首筋を吸い、身体を揺さぶる。足か膝かどこかで袴紐を踏んでて上手に体がゆすれないのがもどかしくてもどかしくて。
途切れ途切れの嬌声と、ため息、息切れ、涎を啜る音、しゃっくり、咳き込み、堪える呻き。
「い、た、く、ないで、すか」
「……ん、うん、うん…っ…」
恍惚、背徳、恥、照れ、優位性。
そんなものに惑う暇がない。
ああ。
好きだ。
好きだ。
大好きだ。
この人が。
こんなにも。
一生懸命に我慢してくれる姿が好きだ。精一杯喜んでくれている心根が好きだ。上手く伝えられぬと悲しんでくれる優しさが好きだ。こんなにかわいい姿を見せてくれる彼女の全部が好きだ!
「な、つ、き」
「……は、い」
硬い布が擦れる雑音と、抜かるんだ田んぼを踏むようなリズム、上手く発音できない。
「    」
なんと言ったか伝わったろうか。
それを尋ねようと、僕は思わなかった。
過酷で無体な重量に耐えている彼女の細腕がその床に対する反発を放棄し、全身を小さく震わせて痙攣してから後、動くのを止めてしまったから。
「……わ、わ、わ……!」
急にそんな刺激が来たら若葉マークにも程がある僕なんか、ひとたまりもない。
ほんとうに、ひとたまりもなかった。

230 名前:161[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:53:37 ID:bD0Y78el [6/6]
10
「……ひどい……」
悦んだ末に悦び疲れて、うっとりと言うには少し覇気なく掠れた声で言われた。
僕はもうすっかり土下座したまま動けない。
「下着、破いた……」
渋い。全身が渋い。他にどう表現していいか解らないが、そんな気持ち。
「避妊、してない……」
怒気を帯びた声ならば、或いは全身全霊で謝罪の言葉でも述べられるのだが。
「初めてだったのに……学校で、部室とか……」
せめて泣いて恨みをぶつけてくれて居るならば、この腹割いて侘びとする。
「……けんじくん」
でもどれでもない。本当に、自分の想定する何にも当てはまらない、声。
「――――――はい」
「どうしよう」
「……な、なにがでしょう?」
「………………きもちよかった……」
懺悔。そいつが一番違和感なく当てはまる。
「………は、初めてなのに……こ、こんな……! わたし……へ、変態かもしんない……!」
わあっと顔を覆ったのだろう。篭ってて間の抜けた、泣き声だか悲鳴だか判断に困るよーな告白が聞こえたので僕は意を決して顔を上げ、言った。
「夏希先輩! 僕をお婿さんに貰ってください!」
「……………………………へ…ぇ…ぁ…?」
「夏希先輩が変態でも僕は構いません! むしろどんと来いと言うか! 渡りに船というか! ご褒美です!」
「……………あ…?」
「ショットガンウェディング上等です! 薙刀で刺されてもいい!」
「……え、い、いや、あの……」
「責任取ります!」
両手を握って血走った目の自分が夏希先輩の真っ黒な瞳に映ってるのを見てた。
「……お……」
彼女はきっと、僕の鳶色がかった茶色の瞳に映る自分の真っ赤な顔を見ていることだろう。
「…お…ねがい、しまぁ、す……」


おしまい。

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最終更新:2010年10月11日 02:49