45 名前:恐らく健二×夏希 非エロ[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 00:59:37 ID:67mw04b7
ハッキングAI「ラブマシーン」の暴走も止まり、OZの平和が訪れたその日。
陣内栄の葬式は事情を知らない来訪者には、場所を間違えたのではないかと思う程の賑やかな弔いで行われた。
夜になり、後片付けが済むと、世界と家族を救った少年、小磯健二は、はぁっと嘆息をはいた。

「今日は、知らない人だらけで、皆して僕のこと聞いてくるから、疲れたなー……」

ソファでうなだれるようにして、座っている背中には疲労の二文字がありありと描かれている

でも、と健二は昼間の出来事を思い出す。

「夏希先輩とキスしちゃった……!」

えへへー、と顔をだらしなく緩ませるその顔は、あの数字に向き合った時の鋭さのひとかけらも残っていなかった。
それと補足すると、キスと言っても「頬」に「相手」からされたという、へたれっぷりを見せている。
更に言うとその後、当の本人は鼻血を噴水の様に吹き出し気絶してしまう始末だ。
誰もが情けないと口から出してしまうシチュエーションでも(実際に自分の半分ぐらいの年齢の子ども達に言わていれた)
付き合ったことのなかった健二には、天にも上る気持ちだった。

「でも、次こそはちゃんと口と口で……!」

拳を握り、小さく願望をもらす草食系男子一名。


ただその後から、男性陣と女性陣で仕事の分担が違ったため、気絶から覚醒した健二は、夏希の姿を見ていないのだ。
なので、いまいちあの喜びを実感することができない。
もしかしたらあれは全部夢で、「大好き」と言った自分に対して「嬉しい」と返してくれた夏希先輩は存在しないのではなかろうか。
時間が経つにつれそんなことも思い始め、座りながらうんうん唸っていると、後ろからちょんちょんと、控えめに肩を叩かれた。

「健二くん、そんなとこで何してるの?」

振り返ると、いまさっきまで思考の大半を占めていた人物、篠原夏希本人が上から健二を覗きこんでいた。

「うわわっ!」

予期せぬ不意打ちに健二は情けない声を出し、派手に体を仰け反らせてしまいソファに不格好な姿で寝転んでしまった。

「だ、大丈夫健二くん!?」

心配してしまう夏希を見て、健二はすぐに立ち上がって必死に目の前で両手を振った。



46 名前:恐らく健二×夏希 非エロ 2[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 01:01:40 ID:67mw04b7
「ちちちちがうんです!夏希先輩が悪いわけじゃないんです!ただ僕がぼーっとしてたのが悪くて、なんというかその……とにかくすいませんで

した!」

ソファを挟んで、呆然とする夏希と気をつけの姿勢から腰を曲げて謝罪する健二。
そのまま、時が止まったかのように沈黙が流れた。
そうやってどうしたらいいか分からず腰を曲げ続けていた健二の耳に入ったのは夏希の笑い声だった。

「あっははは!もー、なんで健二くんが謝ってるのよ!あー、ダメダメ!ツボにはまっちゃった!」

お腹を押さえて笑い続ける夏希に、顔をあげた健二はあはははー、と愛想笑いをするしかなかった。
しばらく経って、ようやく笑いが収まると、まだ苦しそうにしながら、夏希が喋り始めた。

「いやー、私の方が一段落着いて、そういえば健二くん見かけないなーと思ったら、丁度見つけたから声を掛けてみたんだよね」

「き、奇遇ですね!僕も夏希先輩と昼間に会ってから、顔見てないなーと思っていたんですよ!」

「それでうんうん、唸ってたの?」

どゆこと?と尋ねる夏希に健二は本当のことを言えるはずもなく、口だけ笑ったまま目を逸らすしかなかった。

「そ、そういえば、僕を探してたって何かあったんですか?僕でよければ手伝いますよ!」

「うーん……何かあるってわけじゃないけどー」

そういいながら、指先をあごにつけて、思案するポーズをとる。
そのひとつひとつの仕草がわざとらしいものであっても、健二は目を奪われてしまう。

「ほら、近くにいる彼氏さんを探すのに理由なんてないんじゃないかなー……なんて」

最後の方を若干恥じらいながら言う夏希に、健二は顔が一気に赤くなるのを感じた。

(可愛すぎるーーー!!)

同時についさっきまでの心配が杞憂なことを知り、心の中で自分を叱りつけた。

(馬鹿!俺の馬鹿!あれが夢なわけないじゃないか!)

そんな自分を取り繕うかのように健二は、早口で弁解する。

「そそそうですよね!そんなの全然全然変じゃないですよ!」

そんな健二の慌てっぷりを見て、夏希の方も恥ずかしさが込み上げてしまい、「だよね……」と言ったきり喋ることができず
健二もまたそんな夏希を見て、頭が真っ白になってしまい、またお互いに黙りこくってしまった。

「……先輩が僕のことを探してくれて嬉しかった……です」


47 名前:恐らく健二×夏希 非エロ 3[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 01:09:09 ID:67mw04b7
これ以上の無言はまずいと思い、頭をフル回転させて出てきた健二の言葉は、少々場違い気味の言葉ではあったが、本心であった。
言った後で、足をもじもじしながら、下を向いて相手の反応を待つ。

(そんなこと言われてどう返せばいいのよ……あー、もうなんだか私っぽくないなー!いつもならもっと、良い返し思いつくのに)

夏希も夏希で、予想外ながらも自分が作ったこの状況に戸惑ってしまう。
それなら、と夏希が自分を取り戻すために言った言葉は、本来の最初に言おうと思ってた目的だった。

「それじゃあ、嬉しいついでにさ。私のわがまま聞いてくれる?」

健二はすぐに顔を上げるとぽかんとした顔で、こっくりとうなずく。

「今日一緒にさー……寝ませんか?」



風呂も入り、寝巻き姿になった二人は、今、健二の部屋にいる。
縁側から見える空は、雲ひとつない快晴で月の光で藍色に染まっている。
時折吹く心地よい風が、今日一日の疲れを労わってくれているようだった。
風鈴の音や、鈴虫の鳴き声もあまり馴染みのない健二は、自然と目をつぶって聞き入っていた。

その隣で夏希も同じように目を閉じている。
お互いの感覚を共有し合うかのように、二人は並ぶ。
今度の沈黙に、どこの気まずさもない。
どちらも自然体でいることに喜びを感じているようだった。

本当は同じ部屋の蚊帳の中にいる夏希を必要以上に意識しないために始めたことだったが、結果的にいい雰囲気になれたので
健二は心の中で小さくガッツポーズをとる。



48 名前:恐らく健二×夏希 非エロ 4[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 01:11:16 ID:67mw04b7
「ねえ、何か健二くんの特技やってみせてよ」

目を瞑りながら夏希は言う。
僕の特技……と考える自分には数学しかないことを自負しているし、夏希もまたそういう意味でいったのだろうと健二は考えた。

「……それじゃあ、一桁の数字を思い浮かべてください」

んー、と考えてることを伝えるためのような声を出す。

「はい、思い浮かべたよ」

「その数に5を掛けてください。それに3を足してください。」

5を掛けて……と、自分の口で反復しながら、夏希は計算を進めた。

「はい、できました」

「そしたら、その数字に2を掛けて最初と別の数の一桁の数字を足して、それから6を引いてみてください」

むむむ、と眉間にしわを寄せて考える夏希の顔を、ちらりと横目で見た健二は、その必死さに苦笑してしまう。

「できたよ健二君」

「その数字を言ってみてください。」

「28」

「それなら、最初に思い浮かべた数字が2で後で覚えた数字が8になっているはずです」

「あ!ほんとだ!なんで!?」

いきなり目を開くと、びっくりした様子で、健二に詰め寄る。
その近さに頭の血が逆流するんじゃないかと思うほど、顔が熱くなっているのがわかる。

「先輩近いです!近すぎます!」

「あ、ごめんごめん。ついつい……。で、なんでこうなんの?」

「ちゃんと式をかくと、簡単なお遊びだってわかるんですよ。」

こんな感じに、というとカバンから筆記用具を取り出し、クセのある数字で式を書いていく。

[2(X×5+3)+Y-6=10X+Y]

「ほら、計算すると必ずこうなるんです。なので、さっき夏希先輩が思い浮かべた数字もわかるというわけで……」

難しげな顔で聞いていた夏希を見て、この人数学に弱いんだろうかと考えてしまう。

(先輩に『数学教えましょうか』って今度誘ってみようかな……パソコンを教えるついでとか言っちゃって)

「あーわかった!なるほどねー。やっぱ健二君はすごいわー」

そう言うと、たはー、と息を吐いて大の字に仰向けになる夏樹。
その無防備な姿を見た健二は、無意識に喉を鳴らす。

(ダメだ!とってもいい雰囲気なのに、僕は何を考えているんだ!)

そう思い、胸や首に釘付けになっている視線を、無理やり外に戻した。



49 名前:恐らく健二×夏希 非エロ 5[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 01:19:49 ID:67mw04b7
「こ、これは、よくある数字遊びなんで、僕が考えたってわけでもないんですよ」

「そうなの?でも、健二くんが言うと、なんかマジシャンみたいなんだよねー」

そう言って、よっこいせ、という言葉で夏希は体勢を座った状態にもどし、再び健二の隣に着いた。

「マジシャン……ですか、確かにタネも仕掛けもありますし、そういった意味では」

「ちがーう。そういうことじゃなくてー」

えっ、と顔を引きつらせ横を見ると、夏希は「これだから男の子は」と言った言葉がありありとわかるような顔している。

「す、すいません!僕、そういう味な真似……っていうのかな?そういうの全然わからくて!」

土下座をしながら謝る健二を見て、夏希ははぁとため息をついて

「まぁ、そういうところも健二くんらしいよね」

と言って、呆れ顔で笑った。

「というか健二くんて謝りすぎじゃない?もっと、違う返しがあるでしょうに」

「あ、すいま……」

また謝ってしまいそうになったことに気付き慌てて口を押さえる。
その動きを見て、ふふふとまた夏希は笑っている。

(なんだか笑われてばかりだなぁ、俺って)
そう考えながらも嫌とは思えないのは惚れた弱みというやつだろうか。
それなら、この三日の間に何度も痛感させられたことだ。

(なんせ彼氏の振りだもんなぁ)

初日にそう言われた時は、この旅行の後に立ち直れるか本気で心配したものだ。
それが今では本当の彼氏になっている。これも全て

「おばあさんのおかげですね」

「え?」

つい口に出してしまった言葉に、健二は言葉を付け足す。

「多分、おばあさんと会ってなければ、こうしてここにいることも、ラブマシーンと戦うことも無かったんだと思います」
そして

「な、夏希先輩とこうしていることもっ……!」

最後のセリフに耳が赤くなっているのが自分でもわかってしまう。
ちらりと、横を見ると同じように頬を赤らめた夏希の姿があった。
しかし、数瞬の後、真顔に戻ると、夏樹は独白めいた口調でしゃべりだした。


50 名前:恐らく健二×夏希 非エロ 6[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 01:21:44 ID:67mw04b7
「うん……本当、そうだよね。おばあちゃんがいなきゃ、あたし、どんな人になってたんだろうって思っちゃう。
それぐらいあたしにとって大切な人。
……ううん、多分私の家族や、知り合いの人みーんなにとっても大切な人なんだと思う。
だから、あたしおばあちゃんが死んじゃった時本当にどうしたらいいかわからなかった。侘助叔父さんもいなくなるし、家族がバラバラに

なっちゃって……
もう世界なんか滅んじゃえー!って」

「それはまた、極端な考えでしたね……」

そう言いながらも健二はその気持ちがわかる気がする。
会って二日しか触れ合ってない自分ががそう思うのだから、とずっと一緒にいた夏希の言葉に健二は説得力を感じた。

「でも健二君がが頑張ってる姿見てたら、あたしも、このままじゃいけないんだーって思えてね……かっこよかったよ健二くん」

そんな突然の誉め言葉に健二は頭を掻くことで照れ隠しをすることしか出来なかった。

「そんな健二くんの姿を見てたらさ、おばあちゃんが死んじゃったことも大丈夫だと思ったんだ。
おばあちゃんはずっと見ていてくれるって、皆もそれをわかってるって」

そんな夏希の独白を健二は、横顔を見ながら聞いていた。
その顔は、言葉とは裏腹に寂しげであり、学校で見るいつも勝ち気で活発な面影はなく、 そこにいたのは幼い少女のような顔だった。

「あたしはもう大丈夫。明日からきちんと生きていける」


でもさ、と夏希の手に力が入り丸まっていき、擦れた畳の音がやけに響く。
下唇を噛む姿は、触れると壊れてしまうのではないかと思うほど儚げで

俯いて発した言葉を健二は一生忘れないだろう。





「ごめん、今日で最後にするから 泣かせて」

そういうと夏希は、健二の胸に飛び込むように抱きついた。
健二は急な相手の行動に、反応する間さえなく、気付いたら腕の中には夏希の姿があった。


51 名前:恐らく健二×夏希 非エロ 7[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 01:23:07 ID:67mw04b7
「な、なな、なななな……!」

口をぱくぱくと開けて、上手く言葉が発せられない。
思考の余地がない。
すがりつくようにして、泣いている夏樹先輩をどうすることも出来ず、頭の中はこの現実を受け止めるだけで精一杯だ。
その間も夏希先輩は子供のように、大泣きをしている。
まるで、嫌な夢を見た子供が必死に嫌なイメージを追い払うかのように。

そうして泣き声がこだまする時間が大分続き、ようやく健二に周りを見る余裕が出来てくると、
今度はこの状況のヤバさに気付き始めた。 (そういえば夏希先輩がこんなに近い…、というか夏希先輩の匂いが!!た、体温も。む、胸も微妙に当たってるー!?
ヤバ……意識したら勃ってきちゃった……)

これはまずいと、目をぎゅっと瞑り両手で肩を掴むと、ぐいっと腕を伸ばして、夏希を引き剥がす。
目を開くと、そこには涙で目が潤んでいる夏木の顔があった。
泣き続けて体温が上がったのか、ほのかに顔を赤く、汗ばんだ顔に髪の毛が数本くっついている。

(………………!!)

それを見た健二は頭の中で何かがふっ切れたような音がする。
健二はじっと夏木を見つめ、自分の意思を目だけで伝えようとする。
その血走った目から、発せられるメッセージは、今日昼間に為しえなかった行為に対する再戦。
それを読み取ったのか恐らく読み取ってないのだろうが、雰囲気から夏木はゆっくりと、目を瞑り、口を軽く閉じると待ちの状態にする。
それを見た健二が自身も目を閉じ、ゆっくりと口を突き出すようにして顔だけが接近していく。
顔が近いのがわかる、鼻息が荒くないだろうか。そんなことを気にしながらも静止することはなく、ましてや後退などあるはずがない。

あと5センチ、3センチ、1センチ……

月明かりをバックに二つの影が重なり合わさろうとした……その時である。

「夏希ぃぃぃぃぃぃ!!!!!何かあったのかーーーー!!」


52 名前:恐らく健二×夏希 非エロ 8 完[sage] 投稿日:2009/08/13(木) 01:27:20 ID:67mw04b7
バイクのような騒音を出しながらやってくるやいなや襖を開けた人物は最早お約束とも言うべき人物。

人間バイク陣内翔太その人だった。

「…………」

健二と夏木は体勢はそのまま顔だけ翔太に向けている。
その見つめられている本人も、予想していた事態とかけ離れた状況に顔が叫んだ状態で止まっている。
が、その直後

「お前は、夏希にナニしとんじゃぁぁぁぁ!!!!」

復活した翔太が家全体に轟く程の大声で吼えると、蚊帳に入って健二に掴み掛かった。
我を忘れ馬乗りになって健二につかみかかる翔太とそれを静止しようとする夏希の声に親戚一同が集まってくる。

「あらあら、夏希ちゃんどうしたの?」

「こいつが俺の夏希をぉぉぉ!!」

別にお前のじゃねえだろ!と数人に言われた後、レスキュー三兄弟に取り押さえられあえなく撃沈する馬鹿一名。

「新婚さんの邪魔をするんじゃないよ全く!」

「ちがっ……!新婚さんじゃないからー!」

「そうよ、新婚さんはそこにいるし」

じゃあダブル新婚さんだ、あっそうか。めでたいねーなどと息のあった掛け合いをする女性達にに『お、俺まで巻き込むなよ!』と翔太の腕

を極めた形で 顔を赤らめながら講義する邦彦。

もー!、と言って赤くなる夏希に再三茶々を入れるとずるずるとノックダウンした翔太を引きづって、一同は散らばっていった。
一連のやりとりからようやく立ち直った夏希は、気が抜けて畳に女の子座りで座り込んだ。
皆が去ってからも、夏樹はあーもう、と後悔の混じった息を吐く。

しかし、この変わらない流れが、これからも変わらない絆を確認させてくれることであると夏希はそう感じた。

(もう大丈夫だよ。おばあちゃん。あたしのことを守ってくれる人、見つけたから)

そう月に向かってつぶやくと、夏希はまだ倒れている健二に声をかけた。

「ふぅ……ごめんね、健二くん。翔太兄はこれだから……って健二くん?健二くん!?ちょっと万作おじさーん!!来てーー!!」

どたどたと、夏希が急いで万作の部屋まで走っていく。

その現場には、泡を吹き白目になって倒れている健二の姿があった。
その目からはどうしてこんなことに、という悲痛な叫びが表れた涙が流れていたとか。

おしまい

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最終更新:2009年08月16日 20:25