227 名前:カズマ誘拐凌辱1[sage] 投稿日:2009/08/26(水) 22:11:35
ID:???
古びた金属の臭い。
何か今の状況のヒントになるものはないかと鼻を利かせようとすると、埃を吸い込んで
咳き込みそうになった。いつ汚したのか、汗ばんだ体に砂が纏わりついてざらざらする。
真っ暗な視界で、佳主馬は神経を尖らせていた。
じっとりと嫌な汗を含んだタンクトップが肌に張り付いて不快だったが、
後ろ手に縛られたこの状況ではどうにも出来ない。
(落ち着け、落ち着け…!)
ともすれば恐怖でパニックを起こしそうになるのを、意思の力で何とか留める。
噛み締めた猿轡は、既に唾液でぐっしょりと濡れていた。
ギィイ。
嫌な音と共に、人が入って来る気配がした。
多分男、それも大人の、それも数人。
塞がれた視界でも、彼らの視線が自分に突き刺さるのが分かった。
得体の知れないそれから少しでも逃れたくて、無駄な努力と知りつつ佳主馬は身を捩る。
ジャリ。
誰かが近づいて来る。一歩一歩、佳主馬に知らしめるようにゆっくりと。
大きな手で頬を撫でられ、佳主馬は息を飲んだ。どくどくと心臓の音がうるさい。
男の手がアイマスクに掛かる。
あれほど外そうと奮闘していたそれがあっさりと落ちるのを、
佳主馬は目を固く閉じて拒んだ。
228 名前:カズマ誘拐凌辱2[sage] 投稿日:2009/08/26(水) 22:12:38 ID:???
臨月へと入った聖美に代わり、佳主馬は(佳主馬にしては、と言う程度だが)
積極的に家の手伝いをするようになった。「助かるわぁ」と大きなお腹を揺らして感謝する母に、
「別に」と答えながら洗濯物を取り込む。まだ時計の針は真上にあるというのに、
朝干したそれらは、夏に逆戻りしたような陽気のおかげですっかり乾いていた。
「ほんとありがとね、佳主馬。お母さん助かっちゃった」
「別に、このくらい何でもないよ。他に何かすることない?」
「もうないわよ。あんたも、家のことはいいから少し外で遊んでらっしゃい」
「いいよ、暑いし」
言うが早いか、快適な自室のパソコン目指して踵を返した息子の肩を聖美はむんずと掴んだ。
「あんた、日曜の昼間からそんな自堕落な生活するもんじゃないの。そうだ、プール!
市民プール行ってらっしゃいよ!こんなに暑いんだし、ちょうどいいじゃない」
妊婦と言えども、陣内家の血を引く女だ。有無を言わせない。
10分もしないうちに、佳主馬は海パンとタオルの入ったビニールバッグをぶら下げて、
炎天下の往来を歩く羽目になった。
229 名前:カズマ誘拐凌辱3[sage] 投稿日:2009/08/26(水) 22:13:41 ID:???
「…あっつー…」
夏休みが終わって2週間は過ぎたと言うのに、陽射しは真夏のそれだ。
じりじりと音を立てて攻撃して来るような陽射しから少しでも身を守ろうと
木陰を選んで歩くが、あまり効果はなさそうだ。
(これ以上黒くなったら、どっちが前だか分かんなくなっちゃう)
父親が笑いながら言った言葉だが、この陽射しでは冗談にならない。
出発した時は嫌々だったが、今は一刻も早く冷たい水に浸かりたい。
佳主馬はサンダルを履いた足を速めたが、ふと、誰かに見られているような気がして立ち止まった。
「……?」
昼下がりの住宅街は閑散として、佳主馬以外の人影はない。
大分少なくなった蝉の鳴き声だけが、通りに響く。
頭がおかしくなりそうな、けたたましい鳴き声のせいだ、きっと。
佳主馬は頭を小さく振って、再び小走りに走り出した。市民プールへの最後の角を
曲がると、白く大きなバンが停めてあった。街路樹の下に隠れるようにして存在しているそれに、
ちらりと目を遣ったその時、勢いよく開いたドアの中からにゅうっと毛むくじゃらの手が伸びた。
ぎょっとする間もなく、佳主馬の腕は力強く掴まれた。
「な…」
反射的に身を引こうとするも、逞しい手が二の腕をぎりりと掴んで離れそうにない。
――なにすんだよ、このヘンタイ!
思いっきり大声を出してやろうと開いた口は、後ろから乱暴に塞がれた。
「んむっ!!」
後ろにも、男がいた。
佳主馬より頭2つ分は大きいその男は、はあはあと息を荒げながら小さな体をきつく抱き締めてくる。
汗と煙草と酒の混ざったきつい体臭に包まれて、ぞっと鳥肌が立った。
後ろから覆い被されるように羽交い絞めにされた佳主馬の脳裏に、終業式に配られたプリントの「変質者に注意しましょう」の文字が浮かぶ。
「んー、んーー!!」
必死で身を捩り、口を塞ぐ大きな手を外そうとガリガリ引っ掻くが逞しい腕はびくともしない。
佳主馬は為す術もなく、車内に引き込まれた。
「出せ!」
ドアが閉まるが速いか否か、バンは勢いよく走り出した。
ほんの数秒の出来事で、後には何も残されなかった。
両手に買い物袋をぶら提げた主婦が急に角を曲がってきた大型のバンに轢かれそうになり、
「危ないじゃない」と走り去る姿に叫んだけれど、それだけだった。
230 名前:カズマ誘拐凌辱4[sage] 投稿日:2009/08/26(水) 22:14:45 ID:???
「…ああ、分かった」
助手席に座る男が二言三言話してから、電話を切った。
助手席というのは佳主馬の予想で、本当はまったく違う席にいるのかも知れなかった。
アイマスク、猿轡に手足を縛るロープ。あっと言う間に佳主馬は身動きが取れなくなった。
隙あらば蹴りの1つも入れてやろうと思っていたが、狭い車内で数人の男に抑えられているのだ。
ただでさえ細身の佳主馬に、抵抗らしい抵抗など出来るはずがなかった。
後ろにいた男を含め、車内には少なくとも3人。
人数の多さと手際の良さに、ただの変質者ではなく始めから自分を狙っていたのだと分かった。
(何で?誘拐?僕が?)
特別裕福という訳ではない、中流家庭だ。佳主馬には訳が分からなかった。
それでも、大人しくしている訳にはいかない。
どこかよその家と間違えて自分をさらったのだとしたら、お金持ちの子供じゃないと分かれば殺されてしまうかもしれない。
何と言っても、誘拐するような連中なのだ。佳主馬は恐怖に震えだしそうになる体を抑えて、必死に考えた。
カンカンカンカン。
踏切だ。前の席の男が舌打ちをする。すぐ近くに、キュッと自転車の止まる音が2つ。
踏切の警報音に負けずに高い声できゃらきゃらと話し始めた。恐らく女子高生だ。
「んーー!んんーーー!!」
佳主馬はあらん限りの力を振り絞って声を出し暴れた。
縛られた足首を必死に伸ばし、ドンとドアを蹴ることまで成功した。
が、そこまでだった。
「静かに、ね」
ひた、と湿った手のひらが顔の中央に被せられた。
口いっぱいに猿轡が噛まされた今の状態で、鼻を塞がれたら。
男の冷静な声に、これ以上暴れたら間違いなくそうするだろうという確信を持ち、佳主馬はそれ以上動けなかった。
「いい子、いい子」
大人しくなった佳主馬の剥き出しの肩を、男の分厚い手が撫でた。
首筋を流れる汗を辿るような執拗な手つきに、佳主馬は吐き気を催した。
231 名前:カズマ誘拐凌辱5[sage] 投稿日:2009/08/26(水) 22:16:07 ID:???
車での旅は数分にも数時間にも感じられた。どこをどう曲がったかなど、もうまったく覚えていなかった。
ようやく止まったかと思えば、人気のない場所なのだろうか、周囲を気にした様子もなく軽々と車から運び出され、
埃っぽい部屋に縛られた状態のままで放置された。
そして、今に至る。
佳主馬はアイマスクを外されても、固く目を瞑って決して開かなかった。
誘拐犯の顔を見てしまえば、無事に帰れる可能性が低くなると判断したからだ。
『顔を見られたからには生かして帰す訳には行かなくなった』
これは、誰と見たドラマの台詞だったろうか?
続けて猿轡が外され、佳主馬はけほけほと咳き込んだ。
「佳主馬くん、目を開けていいんだよ」
思いもかけない優しげな声が掛けられて、佳主馬は思わず目を開いてしまった。
そして、その場の異様さに息を呑んだ。
思ったよりも広い部屋だった。10畳ほどだろうか。使われなくなった倉庫の一室、という印象だ。
窓があったらしき場所は内側から板が打ちつけられ、外の様子はまったく伺い知れない。
そのとき佳主馬は自分が転がされていたのが古いベッドだとようやく知った。
錆びた骨組みの上にところどころスプリングの飛び出たマットが置かれただけの、ボロボロの代物だ。
薄暗い室内で、マスクを付けた男たちが4人、こちらを向いて立っていた。
何よりも異様なのは、その顔だ。彼らの顔につけられたマスクには、どこか見覚えがあった。
すべて、OZで使われる動物のアバターを模したものだ。ポップなデザインのそれらは、今の状況にあまりに似つかわしくなかった。
佳主馬のアイマスクを外した男が立ちあがり仲間の許へと歩いていったが、その顔にはなんとミッフィーのお面が付けられている。
男の大きな顔を到底隠しきれず、日焼けした逞しい顔が可愛らしいウサギの下から覗いて、異常な雰囲気を強めていた。
(1…2、3…4、5…)
5人。
佳主馬はごくりと唾を飲み込んだ。大人の男が5人も揃って、何だと言うのだ?
不自由な体で何とか身を起こし、彼らを睨みつけた。
「何なの、アンタら…」
怯えてなんかいないと威嚇するつもりだったのに、語尾が震えてしまった。
彼らは佳主馬の問いには答えず、ベッドから数メートル離れたところに置いてあるテーブルで何かを熱心に操作していた。
その中心にあるものに気付いた時、佳主馬は冷静さを忘れて声を上げた。
「それ、僕のケータイ!」
232 名前:カズマ誘拐凌辱6[sage] 投稿日:2009/08/26(水) 22:16:59 ID:???
男たちは制止に耳を貸した様子もなく、佳主馬のケータイをパソコンに繋いだ。
カタカタと短い操作音の後、パソコンの画面に現れたのは佳主馬のアバター、キングカズマだった。
おお、と感嘆に近い声が上がる。
犬、猫、鳥、牛、そしてお面のウサギがこちらを振り返る。
マスクの奥から熱っぽい視線を注がれて、佳主馬は居心地の悪さに身じろぎした。
「な、なんなの…」
「池沢佳主馬くん、君がキングカズマだね」
「…だったら何」
「僕たちの顔に、見覚えはないかな」
「顔って…」
マスクした顔で言われても。
佳主馬の困惑が伝わったのか、犬のマスクの男が小さく笑って自らのマスクを指さす。
「この顔だよ」
「OZのアバター…?」
言われてみれば、どの顔もOZの、それもOMCで何度か見かけたことがある、ような気がする。
いや、間違いない。
あのサイケデリックな模様の鳥頭に、つい先日かかと落としを決めたはずだ。
いつもの通り瞬殺だったから、名前までは覚えていない。
233 名前:カズマ誘拐凌辱7[sage] 投稿日:2009/08/26(水) 22:18:12 ID:???
佳主馬の思考を読んだかのように、鳥頭が続けた。
「ここにいるのは皆、OMCでキングカズマにこっぴどくやられた者たちだ」
犬も猫も牛もウサギも、一様にうんうんと頷く。
なぜ自分が、という一番の疑問が解決されると同時に理不尽な怒りが沸き上がり、佳主馬は勢い込んで叫んだ。
「だから何?OMCで勝てないから現実でリンチでもしようっての?いい大人が揃いも揃って、バッカみたい!」
「違う!!」
それまで一言も喋らなかった牛のマスクの男が、佳主馬の言葉に激昂したように叫んだ。
縦にも横にも大きな、それこそ牛をイメージさせる男の激しい反応に佳主馬はびくりと身を竦ませた。
鈍重なイメージに似合わない速さで、佳主馬のいるベッドの足元に歩み寄る。
(なっ、殴られる!)
佳主馬は目を瞑ってきゅっと奥歯を噛んだが、予想していた衝撃はやって来なかった。
おそるおそる片目を薄く開いてから、佳主馬は驚きに目を大きく見開いた。
大男が佳主馬の足元に跪いていたのだ。間の抜けた牛のマスクをつけた大男が、
縛られ身動きの出来ない自分の足元に跪いているのは何とも奇妙な光景だった。
こちらを見上げるマスク越しの瞳に傷ついた色を見つけて、佳主馬は困惑した。
「…キングカズマは皆の憧れだよ」
「は……?」
「誰も敵わない…誰も届かない、孤高のヒーローだ」
この男は何を言っているんだろう。佳主馬は戸惑い、答えを探して顔を上げた。
いつの間にか、他の男たちも佳主馬のいるベッドに近づいていた。
後ろに回ったらしい男がベッドに乗り上げ、スプリングがぎしりと嫌な音を立てる。
数人の男にじわじわと詰め寄られて、佳主馬は本能的な危機感にぞくりと身を震わせた。
「だから、リンチなんてするもんか。ただ…触れたいだけなんだ。OZではどうしたって触れられないキングカズマに」
跪いたままの男が、佳主馬の裸足の指にそっと口づけた。