429 名前:夕立(1)[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 04:09:01 ID:tAmaRUWh
「ねぇねぇ、健二くん、ほら、ここ! いい景色でしょ?」
「な…夏希先輩…そろそろ日が暮れますし…戻りませんか?」
元気に坂を駆け上がる少女に比べ、息を切らしながら付いていく少年はへたばり気味だ。
運動部と文化部の差が思いっきり効いてきている。
「大丈夫よ! ここからなら走れば家まで十分もかからないから!」
「あ、できれば走るのはなしの方向で…」
情けない。本当に情けないけど、セーブしておかないと最悪背負われて連れて帰られることになってしまう可能性さえ否定できない。
そんな自体だけは絶対に避けたい。
「ほら!」
「あ…確かに…」
「ね!」
夕日に照らされた丘の上からの景色は美しかった。
もっとも、ようやく小休止できる安堵感が感動を盛り上げてくれてる割合もかなり大きいかもしれない。
でも…。健二はそっと隣の様子をうかがった。
大事件も一段落ついて落ち着いてきた晴れた午後。
東京に帰る前に田舎を案内してあげる、と言ってくれた彼女の気持ちはとても嬉しかった。
そして、はしゃいで楽しそうに笑う彼女の笑顔はとても…。
「…あれ?」
(見とれてること気付かれた!?)
夏希の呟きに慌てて視線を逸らす健二だったがそれは杞憂だった。夏希の視線は真上へと向かっていた。
「…え…雨?」
ようやく気付いた健二が呟いたとたん、周囲は凄まじい音に包まれた。
「嘘…」
「せ…先輩、取りあえずどこかに!」
「…そこ!」
呆然と立ちつくす夏希だったが、健二の声に我に返ると少し離れた木陰を指さして走り出した。


430 名前:夕立(2)[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 04:11:34 ID:tAmaRUWh

「ごめんね…こんなことになって…」
ちょっと落ち込んだ夏希は、地面を見つめてそう呟いた。
「い、いえ、そんな…」
そう返事してはくれるものの、先ほどから健二は妙に言葉が少ない。
(はしゃぎすぎてたかな…)
自己嫌悪に陥っていたため、夏希が健二の様子の不自然さが怒っているためではないことに気付くのにはしばらくかかった。
(え…やだっ!)
雨でびしょびしょになった服がぴったりと体に張り付き、下着と体の線がくっきりと浮き出てしまっている。
夏希は凍り付いたまま動けなくなった。
ここで体を隠すような仕草をしたら、気付いたことが健二にばれてしまう。
そのことが無性に恥ずかしくて、動けなかった。
健二は顔を真っ赤にして顔を逸らしているが、時々我慢できなくなったように、
一瞬だけこちらに視線だけ向けてくる。その度に夏希の心拍数は高まった。
(え…何これ!)
突然、新たなる変化に気付き夏希は狼狽えた。胸の先に感じるこの違和感は…。
(うそ…私、健二くんに見られて…それで? だ…だめっ!)
ブラがあるからよほどのことがない限り気付かれないはずである。
それでも乳首の先端が尖ってきているのを見破られてしまいそうな気がして…。
今すぐにでも隠したいのに隠せない。
まるで、体が見えない鎖で縛り上げられてしまっているよう…。
夏希は自分の呼吸が次第に荒くなっていくのを感じた。
自分の息の音がまるで喘ぎ声のように聞こえてくる。
ふっ、と体から力が抜けて健二へともたれかかった。
健二がぎくっとして硬直するのがわかる。
「先輩!」
(…気付かれちゃった!)
脳裏に、泥だらけの地面に押し倒される自分の姿が浮かんだ。
押しのけようとしても真剣な目で見つめられたとたんに力が抜けて、そのまま服を脱がされてしまって…。


431 名前:夕立(3)(終)[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 04:12:15 ID:tAmaRUWh

「雨…上がりましたよ?」
「ふぇ?」
我に返った夏希はその勢いのまま立ち上がった。
「そ…それじゃ帰ろうかっ!」
「はい」
(はあ…よかったあ…。でも、ちょっと残念かも…って、そ、そんなことないっ!)
慌てて首を振ってから健二を振り返ると、一瞬きょとんとしながらも、ぎこちなく微笑んでくれた。
(うん、今はまだこれでいい)
見上げた空は美しい橙色から星を散りばめた蒼色へとゆっくりその色を変えつつあった。

~終わり~

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最終更新:2009年08月30日 08:46