606 名前:侘助×夏希 1[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 05:18:42
ID:ux3dTo4h
>>599です。ごめん、途中までで一旦あげます。
すみません。残業の馬鹿。
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あの夏が終わり、俺は東京に居を構えた。
栄の気配がまだ色濃く残るあの屋敷で、暫くは何も考えず過ごしたいと思った。
だけど、親戚間の長年のわだかまりはそうすぐには消えるもんじゃない。
栄を失った経緯を考えれば俺自身のなかにも忸怩たるものがあった。
引き留める者もいた。正直、嬉しいと感じた。
だがあの濃密な近所づきあいの中で日々を過ごすには、まだ早いと思った。
マンションの部屋中をパソコンと配線だらけにして画面と睨み合い、
ソファや床に転がっては思考に耽る日々を繰り返す。
そして、また夏が来た。
玄関のチャイムが鳴っている。思考が中断される。
どうせセールスかなんかだろう。
住所を知らせたのは身内だけだが、その彼らにしてもまだ誰も訪ねては来ていない。
いつも通り放っておけばすぐいなくなるだろうと言う俺の目論見は、だが外れた。
たっぷり3分は経つのに、扉の向こうの輩は実に根気よくチャイムを鳴らし続けている。
…コイツを追い返した後は即行チャイムの回路を断線してやると、
荒々しい気分のまま足音をたてて玄関に向かう。
勢いそのままに、ドアを開ける。
「っだよ!しつっこいんだよ!…って、夏希じゃねーか。いきなりどうした?」
突然の訪問者は、姪の夏希だった。
607 名前:侘助×夏希 2 [sage] 投稿日:2009/09/03(木) 05:22:44 ID:ux3dTo4h
この一年、メールや電話でのやり取り(と言ってもロクな返答もしていないが)は
何度かしていたが、こうして面と向かうのはあの夏以来だった。
夏希には感謝してもしきれなかった。
あの時、夏希が電話をくれたおかげで自分は栄にちゃんとお別れができたのだ。
そして、昔から唯一俺を好いてくれた身内だった。
会いたい身内と言えば夏希くらいだったが(他の奴らが嫌いなわけではないが)、
夏希も受験と新たな大学生活、それにあの彼氏との付き合いで忙しかろうと、
あえてこちらから連絡を取ったり招いたりはしなかった。
11年前の夏希も一年前の夏希も、夏希はいつでも元気で生気に溢れ、
実に健康的な、そう、太陽のような雰囲気の子だった。
それが、今目の前にいる夏希は目に見えてしゅんとして
今にもふっと消えてしまいそうな佇まいだ。
「えへへ…ごめんね、突然。来る時は連絡しろって言われてたのに…」
そう言って笑おうとするが、笑顔と言うよりは泣き笑いの表情で固まってしまう。
夏希の背後の通路から見える空は真っ暗で、思わず時計を確認すると、もう夜も大分更けていた。
こんな時間にまわれ右させて帰らせる訳にもいかないな。
こいつ、なんか様子変だし。
「まあ、取りあえず入れよ」
「ありがと、侘助おじさん…」
608 名前:侘助×夏希 3[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 05:23:58 ID:ux3dTo4h
パソコンとかいろいろあって凄いけど、水回りなんかはちゃんとしてるんだね、
感心感心!などと言いながら夏希は俺の部屋をあちこち見ている。
「あんまうろちょろすんなよー!なんか飲むだろ、こっちこい!」
リビングのテーブルにミネラルウォーターのペットボトルを2本置く。
人は対話する時、正対すると緊張すると言う。だから、L字型の位置になるよう夏希を座らせた。
「え~~、お茶とかコーヒーは?」と夏希は不満げにぷぅと頬を膨らます。
こういう所は昔と変わんねーな、と苦笑しつつ「今切らしてるから」と宥める。
「文句あるなら飲まなくていいぞ」と言えば、慌てて
「わーウソウソ!頂きます!」とカチッとキャップを開ける。
一口飲んでふぅ、と息を吐いたのを見て「お前今日どうし…」と聞こうとした途端、遮るように
「侘助おじさん、ゴハンとか普段どうしてるの?ウチのお母さんが何度も食事に誘ってるのに、
おじさん一回も来てくれないんだもん!それにさ」
「夏希」真剣な声音で呼べば、びくりとその肩を震わす。
「どうした?お前は『連絡なしに突然訪ねて来ない』って約束を破るような奴じゃないだろ」
「ねえ、侘助おじさん」
「ん?」
「私って、女として魅力ないのかな?」
609 名前:侘助×夏希 4[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 05:27:30
ID:ux3dTo4h
思わず、手に持ったペットボトルを落としそうになった。
あぶねえ、危うく足の指を折るところだったぜ。
「お前、何を言ってんだ、何を」内心の動揺を上手く隠せて喋れただろうか。
「だって…健二君と付き合ってもう一年になるのに…」
俺が子供の頃、『何故知り合った日から半年過ぎても あなたって手も握らない』
という歌詞の歌が流行った事があった。
あの日、あいつは夏希に頬に軽くキスされたくらいでぶっ倒れてたがまさか…
「あいつ、お前の手も握らないのか?」
ううん、と首を横に振る。そうか、流石にそれはないか。
「キスもしないとか?」
「それはないよ。けど…私からする方が多いかな」
「抱きしめたりは?」
「してくれるし、するよ」
何となく予想はついたが、セクハラ親父みたいで聞くのが少々憚れる。
「じゃあ、その先が…」
夏希は真っ赤になりながら、こくんと頷く。
高校生の男が、こんなにかわいい彼女がいて、一年も事に及ばないとは恐れ入る。
辛抱強いのか意気地がないのか。
けど、俺はあいつの根っこの所での肝の据わり方を知っている。
いかにも優しそうな風貌の健二を思い出す。
もしかして俺と同じ気の遣い方して、ガマンしてるのか?
「…まあ、お前もこの一年受験だ卒業だ、大学進学して新しい生活だで大変だっただろ。
お前のこと気遣ってたんじゃないか?」
「でも…だって」