第一話
・・・神奈川県O市・・・、
皆さんはご存知だろうか?
ここには、このところ急速な勢いで信者を増やしている新興宗教、
「ダイナスティ」という教会の本拠地がある・・・。
バイパスを降り、山あいの方へ車を走らすと、
古い紡績関連の工場跡地を買い取って作り上げた教会本部が見える。
工場といっても、従業員20名足らずで操業していたようなので、
広さは学校の体育館の半分程度だ。
2階は面積が少なく事務室や休憩室、3階は社長室等があるようだが、
今はもっぱら、幹部信者の寝泊りに使われているようだ。外にはプレハブ小屋もある。
今日は月に一度、開かれる教会主催のイベント、受光式の行われる日だ。
このイベントは、年会費を払ってる信者はもちろん、五千円の入場料を払えば、
一般の人間も見学できる。ただし、会場で行われる儀式に参加することはできない。
さらに言えば、一般信者といえども、高額な参加費を払わねば、
教祖自ら与えられる福音を授かることはできない。
このイベントには何種類かの儀式が用意されており、支払った献金額によって、
受けられる祝福に差があるというわけだ。
「はーい、一般の方のお席はこちらになりまーす!」
「はい、こちらで受付をお願いいたします、はい、日浦・・・義純さんですね、
ご参加は初めてですか? ・・・こちらのバッジをお付けくださいね。」
・・・見れば若い女性も多い。宗教にハマりそうな「独特」の雰囲気を持つ子もいれば、
そこいらの若者となんら区別のできない者もいる。
年配のものは、儀式の準備に余念がない。人員配置にも気を配っているようだ。
今、受付を済ませた男、日浦義純は信者ではない。
かといって、現代社会に憂いを覚え、宗教に救いを求めた迷える子羊ですらもない。
仕事である。
それも、他人にその素性を明かすことのできない、特殊な事情に身を置いている・・・。
彼もまた、この現代社会においては異端の存在なのである。
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最終更新:2007年04月15日 01:59