第五話
後ろに四人の幹部達を従えて、彼らはゆっくりと壇上に用意された席に座る。
幹部の一人でもある中年のほっそりした女性は、児島の妻だという。
司会の女性は拍手が鳴り止むのを待ってから、息を飲み込むかのように緊張して、
改めて赤づくめの男、小伏晴臣を呼びかけた。
彼は再び拍手に迎えられながら・・・ゆっくりと演説台に向かう。
・・・相変わらず顔は鼻と口しか見えない。
「・・・皆さん、ダイナスティの受光式に ようこそ。
ここには 神の真理と・・・真実へ至る道が用意されています・・・、
その道は あまりに細く・・・あまりに脆い・・・。
しかし 恐れることはない・・・正しき心を持ちて、我らと共に歩めば・・・
必ず天の高みにあなた方は引き上げられることだろう・・・。」
またもや洪水のような拍手。教祖はすぐに席についてしまった。
ここで、日浦義純は見逃さなかった・・・。恐らく会場のほとんどは気づかないだろう・・・、
彼の演説の声に独特の訛りがあったこと・・・、そしてフードの下から見える特徴ある顔立ち・・・。
(・・・日本人じゃない・・・?)
ほとんどの者には、その喋り方は日本人とは区別できないだろう、
それぐらい上手な喋り方だ。顔立ちも見分けがつきづらいが、
長いことイギリスにいた義純にしか判るまい。その顔は欧米系のものである。
義純の観察をよそに、式はたんたんと進行してゆく・・・。
信者の表彰式、新規信者の入会の儀式・・・聖酒とやらを振舞われる。
児島の講演・・・幹部信者の話・・・本来、このあたりは退屈なものだと義純は思っていたが、
会場全体が不思議な雰囲気に包まれていることに気づいた。
特に信者達の様子がおかしい。
そわそわしているというか、もじもじしているというか、落ち着きがない。
聖酒を飲んだ新規の信者達も、目をぎらつかせて妙に興奮している。
酒に何か含まれているな・・・、そして恐らくこの後も・・・。
いろいろと、日本のカルト宗教を見てきた彼の目をごまかすことはできない。
そして受光式はクライマックスを迎える・・・。
最終更新:2007年04月16日 10:30