第九話
・・・今の声は何だったのだろう?
会場のほとんどの者は、気にしていないか、
「なんだぁ、今の?」といぶかしがるか、どちらかであった。
赤いローブの小伏晴臣は一度足を止めたが、すぐに児島たち幹部と会場を出て行った。
また、日浦義純もその会場を後にした。
・・・辺りは日が沈んで薄い霧も発生していた。
日浦は一度、携帯を開いて事務所に連絡を入れ、ヘッドライトをつけて車を発進させる。
彼の事務所は隣のS市にあるが、車なら30分程度の所だ。
バイパスに乗っかってしまえば、この方向なら渋滞にも引っかからない。
・・・そのバイパスに向かう途中、義純は不思議なものを見た。
カーブの多い曲がりくねった道を走る途中、彼の車のヘッドライトの光の中を、
何か大きなものが通り過ぎ去っていったのだ。
「 う っ わ っ ! !」
反射的にブレーキを踏む。
後続の車は来ない・・・、何だったんだ今のは・・・?
大きな・・・人間の大きさでありながら、間違いなく人間ではない何かが、
道を横切って小高い丘のほう・・・、
自分が今までいた、ダイナスティの教会本部の方角へ走り去って行ったのだ。
彼はたった今目撃した瞬間的な映像を、正確に思い出そうとして背筋が寒くなった・・・。
大きな刃物のようなものを持っていた・・・? 持っていたって・・・?
・・・ならばそれは人間・・・? いや、人間にあんな動きはできない・・・。
それに恐らく顔の位置にあった、ぎらつく目玉のような光の反射・・・一度こちらを振り向いた・・・?
義純は身震いして、「それ」の走り去った方を確認した。
・・・戻ってこない・・・よな?
駄目だ・・・恐ろしいことを想像しようとしている!
会場であんなシーンを見せられて、気が昂ぶっているのかもしれない・・・。
義純は逃げるようにして、そこから車を再び発進させた。
だがそのとき、彼の脳裏には、サブリミナル映像のように、
その恐ろしい物体の顔のようなものの映像が刷り込まれてしまっていた・・・。
モノトーンの無表情な造り物の顔を・・・。
最終更新:2007年04月16日 11:15