第十九話
・・・・・・(ここは、どこだろう・・・)
・・・(わたしは何故ここにいるのだろう・・・)
「彼女」が目を覚ました・・・。
その場所は狭い空間、顔の前には大きな障害物があり、
周りには小さな小道具や本が置いてある。
既に「彼女」は、憎しみや無念さをエネルギーとする力を失っていた。
今では普通の非力な女性程度の腕力しか残っていない。
「彼女」はゆっくりとカラダを起こした。
眼前の障害物が邪魔なので、片手で壁に手を当てると、その壁が大きく押し出される。
・・・そこはハッチバックタイプの後部座席の後ろの荷物置き場、
「彼女」が目を覚ましたのは、町で普通に見かけるタイプの軽自動車の中であった・・・。
今までも、「彼女」は一仕事を終え、憎しみの対象を除去した後は、
次の情念を感知するまでは「眠り」につくのが通常だった。
・・・ただしそれは人間の「眠り」とは違い、機械の休止、
あるいはスタンバイ状態といった表現のほうが適正といえる。
もっとも、どちらにせよ、再び目覚める時に、今回のように何故そこにいるのか、
分らなくなっているなんて事は考えられない。
うぅ らぁ らぁ・・・
「彼女」は小さく声をあげる・・・特に意味はない、小鳥がさえずるのと大差無い。
その間も「彼女」は思い出そうとしていた。
記憶がなくなっているわけではない・・・、
混乱しているのだ・・・、混乱?
こんな事は今までに無い・・・初めての事で・・・いや、初めての事では無いかもしれない。
とても・・・遠い昔に・・・一度・・・いや、二度ほどあった事かもしれない。
だが、今、思い出すのはそのことではない・・・、
(私はメリー・・・私は今、この町にいる・・・)
そうだ、いつものように大気に溢れる電波に干渉し、
この「人形」のカラダに入り込んできた想念の、
・・・その想念の怨恨の対象に向けて、自分のカラダは行動を起こしていた。
自分の狩るべき対象ははっきりしていた。
その命を狩った今では、顔を思い出すのは難しいけれど、
あの時点では、虐げられた哀れな者達が、最後に思い描いた憎むべき顔が、
はっきりと自分の脳裏に浮かび上がっていた・・・。
最終更新:2007年04月17日 14:15