第二十七話
それはメリーにとって、予想外の反応だった。
(この男は何故、振り返らない? エミリーとは何のこと?)
そして次に彼女はこう思った。
(何を言ってるか分らないが、この男は背後にいる自分の存在を既に知覚している・・・。
振り向かなくても刑は執行できる! )
メリーは、その両手で抱える死神の鎌を、容赦なく振るおうと力を込めた。
! ?
( 腕 が ・ ・ ・ 動 か な い ・ ・ ・ ! ? )
何が起きているのか? 人形のか細い腕が、メリーの意思に従わない・・・!
カラダが硬直してしまっている・・・。
メリーの混乱はこの時から始まったのだ、
この男の声を聞いた、その時から・・・。
メリーが鎌を振り上げたまま固まっていると、
ようやく赤いフードの男は椅子に座ったまま、クルリとメリーを振り返った。
「 お・・・おおおぉ! あの時と変わらないぃ・・・! 美しいよ、エミリ〜ィ、
・・・いや、それとも・・・、
マリィィィ〜・・・?
いやいや、今はメリ〜と名乗っているのかぁぁぁい?」
もはやその声は、受光式で威厳のある声を発していた者とはまるで別人であった・・・。
その表情はいやらしく歪み、不気味な歯を見せて大きく笑う・・・、
舌なめずりしながら喋っているのではないかと錯覚するほどだ。
アーハッハッハッハーァ・・・
「・・・ほお〜ら、わたしだよぉ〜・・・わたしは今・・・おまえの目の前にいるよぉ〜・・・!」
そう言って、「天聖上君」と呼ばれているはずの男はゆっくりフードを外し、
その白い顔を人形メリーの前に晒した・・・。
その瞬間、メリーの意識に電撃のようなものが走った・・・!
それは自分の記憶・・・恐怖・・・絶望・・・!
人形になったその日から、決して感じることの無かったはずのものが、
堤防が洪水によって一気に破られてしまう様に、
今、メリーの心に破滅的な勢いで流れ込んできたのだ。
・・・あまりにも色素の薄い灰緑色の瞳がそこにある。
まだ自分がエミリーという名の少女であった頃の凄惨な記憶・・・
生きながら数々の拷問の後に殺された、あの時と同じ目がそこにあったのだ・・・。
最終更新:2007年04月18日 08:33