「・・・申し訳ないけど、あなたを助けたつもりは無いの・・・。
あのままでは、先に警察があなたを回収する・・・その後どうなるかは分らないけど・・・、
確実にあなたのことが世間に広まる・・・、そうなると、
わたしの夫はまたあなたを追いかけるかもしれない・・・、
自分の命を危険に晒して・・・。」
メリーは黙っていた・・・。
彼女の姿・・・この家に染み付いてる住人の匂いを分析していたのだ・・・。
そしてメリーは途方も無いセリフを口にした。
「あなた・・・、人間じゃないのね・・・?」


第三十三話
その言葉に女性――その言葉から主婦であることは分る――その主婦は反応した。
「失礼ね、人形のあなたに言われたくはないわ。
 ・・・それに間違いなく人間よ。
あなたの言う人間とは・・・種族が異なるだけよ。」
彼女の抗議はメリーにとってはどうでもいいことだった。
そして、メリーはその家に誰が住んでいるのか、分析を終えたようだ。
そして小さく、はっきりとつぶやく・・・。
「・・・ここに住んでいる人を、わたしは知っている・・・。
優しくて・・・暖かい人・・・。
あなたは・・・あの人を殺してしまうの?
例えあなた達でも、わたしの鎌はあなた達の命を狩り取ることができるわ・・・。」
主婦の顔が険しくなる。
「やれるものなら・・・やってみなさいよ。
でもね、
これは私達の種族と家族の問題。
赤の他人のあなたに干渉される筋合いはないわ。
  天地の法? ・・・笑わせないで!
わたしがあの人を殺しても、人間の法では罪にはなるけども・・・
わたしの種族が、あなたの言う人間を殺すのは自然の摂理よ!
  あなたの鎌は恨みや憎しみで動くのでは? 
でもあの人は、わたしに殺されても・・・わたしを恨んだり憎しんだりは決して・・・しないわ・・・。」
メリーの心に、この主婦の感情が入り込んできた。
その感情にはメリーに対するわずかな憤りが含まれていたが、
それよりももっと大きなものが、この女性から感じ取れた。
報復衝動など発動するはずがない・・・むしろこれは ・・・。

・・・そのおかげなのだろうか、メリーの四肢にわずかに力が戻ってきた。
ここに長居する必要はない。
最終更新:2007年04月18日 09:36