メリーは主婦に背中を向けてその場から立ち去ろうとしたが、
何か言い足りないことがあったように、クルっと首だけ戻した。


第三十四話(最終話)
「あなたにもお礼を・・・、赤い手袋・・・ありがとう・・・。」
今までのメリーからすれば、発するはずのない言動だったかもしれない。
昨晩の混乱から完全に立ち直っていないだけかもしれなかったし、
人間だった時の記憶をほじくり返されたせいかもしれない。
・・・再び静寂があったが、主婦はほんの少しだけ恥ずかしそうな顔を見せた。
 「それもあの人の為よ、あなたなんかに彼を殺されたくはないもの・・・。」
それを聞いて何故か人形は満足そうだった。
勿論、そんな表情は見えないが・・・。
最後にメリーはポツリと言った。
 「あなたも永い時を生きるのね・・・知恵の実を食べなかった人達・・・。」
主婦は静かに微笑む。
 「あなたほどじゃないわ、生命の実を食べたからといって、
 永遠に生きるわけじゃない、老いもすれば死にもする。
 それに適当な時期になったら、世間から姿を隠さなければならない。
 少し先の未来が見通せたとしても、私達には私達の原罪がある・・・。
 その鎖からは永久に逃れられない・・・。
 あなたの持つその鎌が・・・運命を断ち切れる鎌ならよかったのにね・・・。
 あなた自身も・・・。」
メリーはその言葉に、自分の鎌を見下ろした・・・。
もう一度主婦を見上げた後、メリーは後ろを向いて、
羽ばたく小鳥のように身構えた後、信じられないほどの跳躍をしてその場を立ち去った。
    うぅ らぁ らぁ・・・

・・・しばらくその主婦はメリーの姿を見送っていた・・・。
程なくして、その家の玄関の扉がチャイムと共に開いた。
 「ママー? ただいま〜!」
ランドセルをしょった女の子が帰ってきた、・・・この家の小学生だろう。
主婦は玄関の方へと向かう。
 「お帰りなさい、今日はパパ帰ってくるって。
 うがいして手を洗ったら、
 戸棚におやつあるからね、・・・麻衣。」

    (Lady メリー第四章「Lady メリーと赤い魔法使い」 終了)
最終更新:2007年04月18日 09:35