Lady メリー外伝「精霊達の森」第一話

小屋の外は風が吠えている・・・。
冬が近いこの頃は特に勢いが強い。
このシュレージェン地方では、風の強い冬の夜は誰も外へ出ない。
日が沈めば、森を支配するのは「夜の狩人」か、悪霊、
・・・そして恐ろしい魔女だけなのだから・・・。

  「・・・フラウ・ガウデンはの、夜の森に現れるんじゃ、彼女は二頭の馬が牽く馬車に乗っておる。
  彼女の魔法に引っかかった者には、その姿は美しいお姫様に見えるじゃろう。
  しかし・・・、その正体は顔にカビの生えた老婆じゃ。
  立派な馬車もボロボロで蜘蛛の巣だらけ、馬に至っては首がない・・・。
  彼女に連れて行かれて戻ってきた者はいない。
  だから夜の森には誰も出て行かないのじゃ・・・。」
ニコラ爺さんはいろんな事を知っている。
爺さんはあちこちを旅してきた人だ。
いつの間にか村から消え、何年かしてからまたひょっこり戻ってくる。
当然、身寄りなんかいない。
ただの乞食といってしまえばそれまでなんだけども。
でもこの村では、この爺さんはみんなに大事にされている。
いつだったか、西の村で疫病が流行った時、たまたま旅から帰ってきた爺さんが、
いち早くみんなに知らせて、この村は事なきを得た、なんて事もあるからだ。
小屋の中では、村の子供達が爺さんの話しに夢中だった。
好奇心の強い、わんぱくトーマスは、思いつくと人の話の途中でも構わず口を開く。
  「・・・ねぇ、・・・ニコラ爺さんも魔女に遭った事があるのかい?」
  「わしかね? あるともさ!
 わしがおまえらのような、子供の時じゃ、
  親父の言いつけを守らずに、夜の森に出ちまってな、
  森の真ん中まで来たときに、向こうから馬車のガタゴトいう音がした・・・。
  急いでわしは大きな樹木の後ろに隠れたんじゃ。
  ・・・そぉっと覗くと首のない馬が通り過ぎていった・・・。
  馬車の窓からは、醜いカサブタだらけのフラウ・ガウデンが顔を出していた。
  しばらくの間、 わしは怖くて一歩も動けんかったわ・・・。」


最終更新:2007年04月19日 04:09