第二話
風の音はますますひどくなっていて、トーマスたちには、
大きな獣のお腹の中にでも、閉じ込められたようにすら感じているだろう。
年寄りのこういった語りは、子供たちにとっては欠くことのできない娯楽だ。
また、これらの森の伝承は、彼らにとっては全て現実の出来事であり、
人として生活していくためには必須の知識でもある。
・・・とは言うものの、夜が近づいてしまえば誰もが家に入らねばならない。
既に日も沈みかけていたので、ニコラ爺さんは話を締めくくってみんなを家に帰らせた。
「ヤーコブ! おまえ、爺さんの話を聞いて恐くなっちまったかあ?」
「な・・・なに言ってんだ、トーマス! そ、そんなわけあるかよ、恐くねーぜ!」
わんぱくトーマスは帰る道々、何かたくらんだようだ。
「へえ、そうかい? フィーリップ、オットー、おまえらはどうだい?」
「別にぃ、トーマス、何たくらんでんだぁ?」と、フィーリップ。
「いやあ、どうだい? 今度『ユールの日』の頃に一人ずつ、
夜の森に入って度胸試しをするっていうの?」
三人の男の子はあっけに取られていたが、年上のフィーリップが辛うじて口を開いた。
「正気かお前! 冬の夜に森に入れるわけないだろう!
親父達に絶対に見つかっちまうし、
森の中にはフラウ・ガウデンだけじゃないんだぞ!」
「わかってるさ、戦争で死んだ人達の悪霊だろ? 爺さんが前に言ってたな。
嵐の神ヴォーダンとフレイヤが率いる『夜の狩人』だな。・・・だからいいのさ。
もちろん、見返りがなくちゃ。
どうだい? 行って帰ってきた奴には、
春の祭りの時、歌好きのマリーを誘える権利を得られるってのは?」
「・・・トーマス、それが狙いかよー。」
「へっへー♪」
「冗談だろ? 日が一番短い『ユールの日』っつったら奴らが一番現われる頃だぜ。
忘れたのかよ?
村はずれのヨーゼフさんとこ、夜、灯かりをつけて機織の仕事をしてたら、
奴らに見つかって家の中に血だらけの馬の脚を投げつけられたのを!
それが元で一ヵ月後には、カラダ中から血が噴きだして死んじゃったじゃないか!?
夜はあいつらの物なんだ。
起きてるだけで村の中にまでやってくるんだぞ。
生きて帰れるもんか!?」
最終更新:2007年04月19日 04:12