第三話
「いいんだよ、やなら・・・オットー。フィーリップも嫌か?」
「くそー、マリーを賭けられたんじゃしょうがない、俺はやるぞー。」
「お・・・おれもやるー・・・。」
「よーし、俺とフィーリップ、ヤーコブの三人で勝負だ。
詳しいルールは後で決めよう。
ほんとに暗くなってきやがった。今から良い子にしてないと父ちゃんの監視がきつくなるしな。
じゃあな、みんな!」
「お、おれはどうなっても知らねーぞー!」
「告げ口すんなよー、オットー!」
年末には毎年恒例の数々の行事が行われる。
お馴染みのサンタクロースも、この時代、この地域では我々の知っているものとは形が違う。
このシュレージェン地方では12月6日に行われる仮装行列、
「聖ニコロ(セント・ニコラウス)とクランプス鬼」の行進は、
年越しをして春を迎えるための儀式の一つであった。ゲルマンにおけるマレビト信仰である。
さて、トーマスは例の賭けに絶対の自信を持っていた。
彼だって死者や魔女はとても恐い。
だけど、トーマスにはみんなを出し抜ける策があったのだ。
フラウ・ガウデンは、そばに人間がいれば、
例え眼に映らなくともその人間の匂いで分ってしまうという。
だけどニコラ爺さんは見つからなかった。
ニコラ爺さんは悪霊除けのお守りを持っているんだ。
トーマスは、爺さんが以前旅に行く前に、悪霊除けのお守りを持っていたのを覚えていた。
彼はそれを、爺さんから借りるかかっぱらう予定であったのだ。
「ニコラ爺さん、ずっと前に悪霊除けのお守りを見せてくれたよね・・・?」
「ああ? そうだったっけか・・・?」
「ねぇ、ちょっと見せてよ。」
爺さんは黙ってた・・・。
トーマスは一瞬やな予感がしたが、しばらくすると爺さんは笑い始めた。
「ああ、あれか! あれはな、前の旅先でペルシアの商人にやっちまったわい!」
「・・・やっちまったぁ!?」
「もちろんただじゃあないぞ・・・、見とれ・・・、お? 待てよー・・・。」
そう言って、爺さんは小屋の奥のズタ袋から小さな黒い像を取り出した。
最終更新:2007年04月20日 05:42