第六話
 何がどうなったんだ? 
トーマスは驚きのあまり、尻もちをついて、冷たいのも忘れてそのまま考え込んだ。
 フィーリップ! こんな事するのは奴しかいない! あんちくしょうめ、
 俺より早く着いたんだ!
答えを見つけるのに大して時間はかからなかった。
 「おい、フィーリップどこだ?
 手の込んだことしやがって、判ってるぞ、出てこいよー!」

 「・・・でかい声出すな、ここだ、ここだ。」
トーマスはすぐ真上から聞こえてきたフィーリップの声に、ビクッとしながらも、
それみたかと、心の中で笑っていた。
 「やられたよ、フィーリップ、おまえの勝ちだ。
 あ〜あ、さあ、あとはヤーコブを脅かすか?」
そう言って彼は樹を登りだしたが、その時トーマスは、
その年上の少年の様子がおかしいことに気づいた。
 「フィーリップ?」
 「・・・俺じゃない、トーマス、俺じゃない、俺はあんな馬の骨なんて知らない・・・!」
彼の声はうわずっていた・・・。
トーマスは信じられぬという表情で、
 「よせよ、もう。あんまりしつこいと怒るぜ。
 それよりお目当ての犬の頭はどうした? 何処に隠したんだ?」 と、言った。
 「俺が着いた時にはもうなかった・・・。」
風は前よりさらに威力を増して、樹からぶら下げられている馬の骨が、
ガチャガチャ気味の悪い音を立てていた。
トーマスも事の意味に気づいたようである。二人はお互い黙り込んでしまった・・・。
風は甲高い叫び声を上げ、その声の主は、
二人のいる場所にだんだんと近づいてくるかのようでもあった。
 「き、きっとオットーの奴だよ、あいつがこんな事するとは思わないけど、
 誰かに喋ったんだ、そうだ! ハンスだ、奴ならやりかねない。
 ノッポのハンス、間違いないよ!」
 「ほんとにそう思うのか、トーマス・・・?」


最終更新:2007年04月20日 05:56