第四話
真二の、うろたえた声を聞く男の背筋に寒気が走った。
「おぃ、今の音は何じゃ!? エモノは持っとるな? 近場の奴を応援に行かす、
それまで持ちこたえとけ! 」
(何じゃ? ただのクスリでおかしくなった奴ちがうんか?
対立組織? まさか? こんなふざけた手口の奴らなぞおらんわ!
しかも三階から事務所に侵入したじゃと?)
そう考えていると、電話の向こうから真二の強がる声が聞こえた。
『と・・・隣の部屋やと思います。今もなんかごそごそやってます! 物盗りかもしれません、
大丈夫っすよ・・・一人で片付けます!』
そうは言うものの、男の胸中には言い知れぬ不安感がぬぐえなかった。
「お・・・おい、ちょっと待たれ・・・」
『先輩・・・一度、電話きり ま す・・・う わ あ あ
(ガチャーン!)』
激しい窓ガラスの破れる音が聞こえた。今度は電話口のすぐそばだ。
真二の叫びが早かったかもしれない、窓の外に「それ」を見たのだろうか?
また、それと前後して、携帯を床に落としたような衝撃音も続いた。
「おい! 真二ぃ! 真二ぃぃ!!」電話口からは人間の声というより、
動物の悲鳴のような嗚咽が断続的に聞こえている。
何かを引きちぎるような嫌な音も聞こえる。
男は必死で呼びかけるが、悲鳴はもはやそれ以上発せられることはなかった・・・。
電話口ではまだなにかゴソゴソ、音が聞こえる・・・
「真二ぃ・・・!」何が起きたかは想像に難くない、
彼が携帯に向かって怒鳴り声をあげようとしたまさにその時、
向こうの電話を拾い上げるような音が入ってきた。
相手の呼吸音が小さく聞き取れる・・・間違いなくそれは真二のものとは違う。
「おまえ・・・誰じゃ・・・!」
小さな声は、しかしはっきりと男の耳に届いた・・・。
『わたし、 メリー・・・ 若くして 生きることを奪われた少女に 安らぎを・・・。』
最終更新:2007年04月13日 07:29