第五話
ああ、麻衣はなんて可愛いんだろう?
一人で悦に入ってると、携帯の向こうから「ママに代わって? 」
という妻の声が聞こえてきた。
「あなた?」 ハッと我にかえる自分。
「あ、ああ、何だい、百合子?」
「麻衣の言ったお祖母ちゃんの事は気にしないで・・・。
子供のいう事だし・・・。」
「ああ、大丈夫だよ、気になんかしちゃいないさ。」
「それよりあなた。」
「ん? 何だい?」
実を言うと、妻はこの一瞬の間が怖い。いつかお見せしよう。
「無理しちゃ駄目よ、危ないと思ったら、・・・手を引いてね。」
「・・・ありがとう百合子、決して危ないことはしないさ・・・!」
今日、二回目の「ありがとう」が自然に口に出た。そういや、前はいつだったかな?
私はおやすみを告げて、携帯を切った。
「よーし! やるぞーッ!」
我ながら現金である。
カラ元気だけではない。電話してるうちにふとした事に気づいたのだ。
被害者の一家は熱心なクリスチャンだったはず。麻衣の言ってた「じゅーじか」で思い出した。
彼らは毎週日曜には、親子三人で教会に通っていたとも聞いている。
実際のところ、そこも引っかかっていた。(神社で自殺するものかな?)
私は、駄目もとで、車を教会まで走らせた。場所はある程度把握してたが、まだ取材の対象にしていなかった。
うまく行けば教会関係者に、事件の感想ぐらいは取れると思う。
教会の敷地には何台か車が止まっていた。そのうちの一台に目が留まった。
あの家族の車だ! ここに来ていたのか?
私は車を敷地に停め、教会の正面の大きな扉を開けた。
「すいませーん、夜分失礼しまーす」
しばらくすると、神父と思しき白髪交じりの年配の男性が現れた。
「・・・どちら様ですか・・・?」
とりあえず記者という身分は隠して・・・
「○○さんがこちらにいらっしゃると、伺ったんですが・・・」
神父はあからさまに迷惑そうな顔をして
「もうお帰りになりましたよ。」
と、ぶっきらぼうに答えた。ごまかされるものか。
「ですが、車は表に停まったままですよ?」
突然、神父の表情に変化が生じる。
何か良くないことが起こったのだろうか・・・?
最終更新:2007年04月13日 10:04