第十三話
 「被害届けを出すかどうか悩んでいた少女が死んだ・・・
 既に被害届けを出していた他の女の子達はどう思ったのかな・・・。」
若い刑事は独り言のようにつぶやいた。
 「まさか、脅迫・・・その為の材料にするためにあの子を・・・。」 
自分の体が震えているのがわかった。止められそうにない。
 「和解を申し出ていた弁護士以外に、彼女達に何らかの接触をした者がいるんじゃないか、と思って、調べてたら、ここの責任者に行き着いたんだけど・・・、死体になっちゃこれ以上は無理かな・・・。」
 「これ以上は捜査できないと・・・!?」
 「監禁事件は終了、自殺・心中事件もこれ以上捜査の必要なし、
 と上が判断すればそうなるでしょうね。
 こっちの事件は確実に殺人だから、
 むしろ、こっちに力を入れる事になるだろう。
 死体の損壊程度から言って、中国マフィアが絡んでるかもしれない。」
私は我慢ができなくなって叫んだ! 
 「では、自殺に見せかけられた少女の真犯人は捕まえられないッ!
 指示をした警察OBには手出しできないと、言うのですか!?」
刑事は眉をしかめ、別れ際にこうつぶやいて、私から離れた。
 「だから何度も言ったでしょう・・・我々は証拠がなければ動けないんです・・・。」

私はもはやジャーナリストとしてより、一人の親としての想いが自分を動かしてたように思う。
心中した家族が自分の家庭に重なり、また今朝、神父から聞いた天国にも行けない少女の話、
永遠の苦しみを味わう悲しい話を、この痛ましい事件に重ね合わせていた。
もしも麻衣が同じような目に遭うとしたら・・・、
私には麻衣の怖がる姿すら、とても想像できない・・・
誰も助けに来てくれない、逃げる事もできない永遠の絶望・・・。
あの家族の尊厳を守り、少しでも恨みを晴らしてやりたい、
できうる限りのことを調べてマスコミに公表する。
それが私のなすべきことだ。
この時、この建設現場の三人が誰に殺されたか・・・、彼らが何か知っていて(もしかしたら、彼女を自殺に見せかけて殺した実行犯かも)、
口封じの為に殺されたのではないか、と私は思っていた。
妻の「無理はしないでね」という、電話の声も頭に残る。
最終更新:2007年04月13日 12:27