第十五話
 「少々お待ち下さいませ。」
しばらくすると、インターホンのスピーカーから先程の女性の声が再び聞こえた。
カチャッ 「どうぞ お入りください。」 
門のロックが開いたようだ。
周りからどよめきが起きる。中に入ろうとすると、先程の知り合いが、
 「伊藤さん、どうやって入れてもらったんです? 後で取材内容教えて下さい!」
と、寄ってきたが、
 「ごめんな、取材じゃないかもしれないんだ。」
としか言えず、困った表情をしてみせた。
向こうも困惑している、そりゃあそうだろう。
自分でもこの先どうしたいのかよく分らない。
広い庭には池もあり、鯉も泳いでいるようだ。
古ぼけた灯篭や豪勢な松の木、向こうには立派な倉もある。
あちこちにガードマンと思しき人物が立っている。
玄関にようやくたどり着き、敷居をまたぐと、体格のいい男に迎えられた。
 「いらっしゃいませ、秘書の丸山と申します。こちらへどうぞ。」
用意されたスリッパを履き、案内されたのは立派な応接室だった。
私は手袋を外しコートを脱ぎ、これまたいくらするのか想像つかないソファに座った。
 「議員先生は・・・?」と尋ねると、きっぱりと言われてしまった。
 「先生は初対面の方に、直接お会いする事はありません、
 まずは私に用件をお伝え下さい。」 
なかなかうまくいかない・・・。
私が切り出し方を躊躇していると、丸山の方から問いかけてきた。
 「○○神父の使いの方、という事ですが、本当ですか? 名刺か何かお持ちですか?」
 「あ? ・・・え、神父のところから来たのは確かですが、ここへは自分の意思で・・・」
マヌケにも自分の名刺を差し出してしまった。丸山は名刺をチラッと見てため息をついた。
 「お帰りいただけますかな。」
 「・・・いや、待って下さい! ここの先生の命を狙ってる者がいるかも知れないんです。」
一瞬、場の空気が止まった。丸山はしかし動じず、そのまま私に質問した。
 「ほう? どこで知った情報か教えてもらえますかね・・・?」
質問と言うか恫喝だ。だが、ここでひるむわけにはいかない。
 「例の・・・お孫さんが起こした監禁事件、被害者の一家が心中したのはご存知ですか?」
丸山は顔色一つ変えない。

最終更新:2007年04月13日 12:44