第十九話
丸山は静かに出て行った。
騒ぎは静まろうとしない。私は必死に冷静になろうとした。
相手が例え危険な暴漢だとしても、これだけの人数の護衛がいて、
なぜ捕まえられない? 何か武器を持ってるのか?
「メリー」だとしたら死神の鎌を持っている・・・?
止せばいいのに・・・私は恐怖に怯えながらもドアの外へ出て行こうとした。
扉の外・・・広間があり、その向こうは和室であった。
先ほど、異形を見たのはその和室でだと思う。
応接室の入り口から見えない和室の向こうの部分では、怒鳴り声と争いあう音が聞こえている。
既に応接室では足の踏み場がないほどだ、スリッパを履かせてもらってなければ、ガラスで足を切りそうだ。
あたりを慎重に見回し、ゆっくり移動しているうちに騒ぎは静かになってきていた。
いや、騒ぎの音が少なくなったというべきなのか・・・、
応接室から和室へ移動する際、廊下で仕切られているのだが、
その廊下じゅうに・・・秘書やガードマン達の肉体が転がっていた!
血の海であった・・・。
転がっている身体は、全く動かない者・・・ピクピクと痙攣している者、
身体の一部分がなくなっている者・・・私の足からはもう、力が抜け去ってしまい、動くことができずに、そこにしゃがみこんでしまった。
気がつくと廊下の先から、ゴッ ゴッ とゆっくりとした足音が聞こえている。
木製の廊下でハイヒールを履くと、こんな音がするのだろうか?
私の視線は廊下の壁に釘付けになった・・・。
壁に「それ」の影が映っていたからだ。
もう男達の声も、争う音も聞こえない。
影はだんだん、こちらに向かって近づいてくる・・・。
そしてついに、細い廊下の先に、不気味な光の鎌と共に、
私の眼前に 「彼女」が姿を現した!
紛れもない人形! 銀色に光る長い髪、薔薇の刺繍の黒いドレスを纏い!
ウェストは白いコルセットで締められ、肩やドレスの裾からは折れそうなほどのか細い手足!
そしてその素肌は不気味なほどに青白い・・・!
ゆっくりとした動作で「彼女」はこちらを振り返った・・・私の存在に気がついたのである。
彼女は銀色の瞳をグルッと動かすと、文様のある大きな鎌を振りかぶって近づいてきた!
ああぁ・・・百合子! 麻衣ッ!
最終更新:2007年04月13日 13:57