既に陽の光も薄い、冷たく暗い湖の底に達しようとしていた・・・。


第二話
この出来事が起きる、すこし前まで時間を戻してみよう。
ここは、ヨーロッパ中部のある小さな谷あい、周りは万年雪の見える山々に囲まれ、
一方には、暗く深い森があり、湖の周りには小さな草原もある。
人々は主に、放牧や狩猟、また小さな畑でわずかながら作物を収穫していた。
人口はけして多くもなく、産業も豊かとは言えないが、
あまり交易にも頼らず、ある程度は村で自給できるぐらいの共同体が成立していた。
この地方の領主は、この辺りを含むいくつかの村々の支配者でもあったが、
近隣の諸侯との小競り合いがしばしば起こるため、今回この村に一度駐留し、
山向こうの敵対する諸侯との戦への準備を進めていた。
これは、そんな時に起きた物語である。

 「ウオッホン! ・・・よいか、夜の森にはな、恐ろしい悪霊が徘徊しておる・・・。
 特に冬の夜には絶対に森へ出てはならん・・・それはおまえ達が子供だからではない、
 例え、大人になっても、それは同じじゃ・・・。特に陽の一番短い日は、奴らが最も活発に
 なる時じゃ。森のヴィルダーヤークト(荒々しい精霊)、ナハトイェーガー(夜の狩人)共が、
 凄まじい風と共に行軍する。夜は彼らの物じゃ・・・、生ある者がそこを侵してはならぬ。
 もし、それを破ればいかなる者も、奴らに捕まり、死者の王ヴォーダンの元に
 引きずられていくだろう。・・・そして二度とこの世に戻ってくることはない・・・。」
・・・小屋の外は既に強い風が吹いている。陽はまだ落ちきってはいなかったが、
短い冬の日差しは、間もなく到来する暗黒の夜が、すぐそこまでやって来ていることを
小屋にいる者達に告げていた。
 「ねぇ! ニコラ爺さんは夜の森に出かけたことがあるの!?」
好奇心の強いチビのエルマーは、相手が誰だろうと物怖じしない。
 「わしかね? あるともさ! わしがおまえらのような、子供の時じゃ、親父の言いつけを
 守らず、夜の森に出てしまってな、森の真ん中まで来たときに、大勢の兵隊達が
 森の中をさ迷い歩くのを見た。骸骨の行軍をな・・・。鎧の音か、骨の音か、ガチャガチャと
最終更新:2007年04月13日 21:48