不気味な音を鳴らして歩いとった・・・。そして、その後ろには、森の魔女・・・
 フラウ・ガウデンが首のない馬車に乗って通り過ぎおった・・・。」


第三話
ニコラ爺さんはいろんな事を知っている。爺さんはあちこちを旅してきた人だ。
いつの間にか村から消え、何年かしてからまたひょっこり帰ってくる。
身寄りはない、・・・ただの乞食といってしまえばそれまでなのだけど。
しかし、村ではこの爺さんはみんなに大事にされている。
いつだったか、西の村で疫病が流行った時、たまたま旅から帰ってきた爺さんが、
いち早くみんなに知らせて、この村は事なきを得た、なんて事もあるからだ。
 「・・・フラウ・ガウデンはの、二頭の馬が牽く馬車に乗っておった。
 彼女は、見る者によっては美しいお姫様に見えるというが、
 わしが見たのは蜘蛛の巣や醜いかさぶたに覆われた、ボロボロの老婆じゃ。
 わしは大きな樹木の後ろに隠れていたんじゃが、しばらくの間、
 わしは怖くて一歩も動けんかったわ・・・。」
風の音はますますひどくなっていた・・・。
子供たちには、大きな獣の中にでも閉じ込められたようにすら感じているだろう。
年寄りのこういった語りは、子供たちにとっては欠くことのできない娯楽だ。
また、これらの森の伝承は、彼らにとっては全て現実の出来事であり、
人として生活していくためには必須の知識でもあった。
 「さぁーて、そろそろ、陽も落ちてきたぞ。続きはまた明日じゃ・・・、
 フィーリップ、親父さんによろしくな、トーマス、夜更かしするんじゃあないぞ。
 ハンス、お母さんに「煮込み、うまかった」と伝えてくれ!
 マリー、エルマー、帰り道は気をつけるんじゃぞ、領主様がいらしておるそうじゃ、
 みんなも砦の方には近づくな、戦があるかもしれんのでな。さ、みんな、おやすみ!」

 「姉ちゃん、砦の方・・・ちょっと帰りに覗いて見ようよ!」
チビのエルマーは時々、無謀な発言をして、周りの者を困らせる。
歌好きのマリーはいいお年頃で、村の独り者や少年達から憧れの目で見られているのだが、
弟の世話や家事が忙しく、本人にはなかなかその自覚がない。
最終更新:2007年04月14日 00:25