「あんた、また、馬鹿なことを言わないで! もうじき夜になるわ、ニコラお爺さんに
 言われたばかりでしょ!?」
 「どうせ、帰り道から少し外れるだけじゃん! 見るだけ、見るだけ! すぐ帰るよぉ!」
 「・・・もぅ〜、しょうがないわねぇ〜。」


第四話
普段から弟の世話を焼いている歌好きのマリーは、しっかり者ではあったのだが、
実際、砦は彼らの家から遠くもなく、マリー本人も兵隊達に興味があったので、
 「すぐに帰るわよ。」 という条件付きで覗いて見ることにした。

  うーらーらーら〜♪
  ねぇ、あなた、行ってしまわないで、
  こんなに貴方が好きなのに、
  こんなに貴方を愛してるの、
  うーらーらーら〜♪
  ねぇ、あなた、行ってしまわないで、
  貴方にさよならを言われたら、
  私は間違いなく死んでしまうことでしょう♪

 「・・・ちょっとぉ、ゆっくり行きなさいよぉ!」 「急いでって言ったの姉ちゃんじゃん。」
最初は歌を歌っていたマリーだったが、すばしこいチビのエルマーについてくのは
一苦労のようだ。歌ってる余裕がなくなって機嫌が悪い。
砦は、斜面の深い谷の小高い場所に位置しており、その向こうには、広大な森が広がっている。
普段は、見張り程度の人数しかいないのだが、今回は領主の出陣ともあり、
大勢の兵隊が既に終結していた。
 「うわ〜、かっこいいぃ〜・・・」
陽はまだ沈んでいなかったが、既に山あいに隠れてしまい、兵士達はかがり火を焚く。
武具の手入れをする者、馬の世話をする者、食事の準備をする者などがせわしなく動いている。
二人の姉弟は寒くないようにくっつきながら、物陰に隠れて兵士達の動きをみていた。
この二人は、あまり戦争や戦というものを知らなかった。戦いの前の兵隊達が、
どれほど、気が荒くなっているか、また、この時代の権力者達は、
しばしば、山賊と大差がないほどモラルの低い者達がいたということに。

 「何だ、おまえ達は・・・?」 不意に背後から威圧的な声がする。
そこには羽飾りの兜をかぶり、ビロードのマントを纏った男が立っていた・・・。


最終更新:2007年04月14日 00:35