領主は先ほどエルマーに使用したその短剣を、無慈悲にもマリーの胸に深々と突き刺した・・・。


第九話
 「 イ ヤ ア ア ア ア ア ァ ッ ! ! 」
マリーは大声でベッドから跳ね起きた・・・。
   あれれ? ・・・?
   ここはどこだろう? 
自分の叫び声に驚いたが、全く見慣れない風景が自分の目に映っているのに気づいて、
何も考えられないまま固まってしまった。
自分はどうしてここにいるのだろう? 自分が目を覚ましたこの部屋は、
自分のウチではない・・・。
年季が入っているが、立派なダブルベッド・・・。少し離れたところに、
大きな荷物の置いてある椅子があり、その奥には大きな暖炉が眩しいくらいのオレンジの光と、
痛いくらいの強烈な熱を発していた。
周りを見回すと、年代物の骨董品、気味の悪い装飾物、何に使うのかよく分らない小物が、
部屋のあちこちに飾られている・・・。
その時突然、誰もいないと思っていた部屋の真ん中から、しわがれた老婆の声が聞こえてきた。
  「気がついたかい・・・?」
声の主は椅子の所から聞こえてきた。歌好きのマリーは二度びっくりした。
椅子に置いてある荷物だと思ったのは、ほとんど身動きしない背中を丸めた老婆だったのである。
老婆はこちらに背を向けているようだ。
 「・・・えと、あの、私? お婆さんはこちらの家の方ですか? 私は何でこちらにいるのでしょう?」
老婆は動かない・・・、本当に生きているのかな・・・?
マリーは長い髪をとかしながら、もう一度聞いてみた。
  「私、・・・もしかしてご迷惑を掛けました?」 もう一度周りを見回す。暖炉の薪をはぜる音、
部屋の中のいろんな小物の影が、炎に照らされて踊ってるようにも見える。
 再び老婆が口を開く・・・。
  「まだ、 ・・・思い出さないかねぇ・・・?」
その言葉に、マリーは首を老婆に向け、素直に自分がどうしてここにいるのか思い出そうとした。
・・・確か・・・、ニコラお爺さんのところで、みんなと一緒にお話を聞いていた・・・。
自分には手のかかる弟、エルマーがいた・・・、あの子と家に帰る途中・・・?
いや、・・・家には帰らなかった・・・あの子が砦に行こう、と言い出して・・・。
最終更新:2007年04月14日 01:26