弟を失った悲しみ・・・自分が殺された悲しみが強ければ、誰かにその嘆きを聞いて欲しくて、
悲しくて悲しくて、幽鬼となって森や、もしかすると村までも彷徨するかもね・・・
だが、誰も、村人も家族もアンタには気づかない・・・。」
第十二話
「 ・・・イヤよ! どちらもイヤ!! ・・・せめて安らかに死なせて!
こんなに苦しいのはイヤよッ!!」
老婆はマリーの目と鼻の先まで近づいてきた。
普通の神経では、その醜悪な顔面には耐えられやしないだろう、
だが、既に死人同様のマリーはその感覚がだんだんと薄れてきている。
フラウ・ガウデンはニヤリと笑った・・・ように見える。
「そおかい、 なら・・・あたしと取引しないかい・・・?」
「・・・取、引・・・?」
「そおとも、娘、おまえの名前は・・・?」
「・・・マリーです・・・。」
「いい名前だ・・・、マリー、アンタの村では、アタシはどんな化け物なんだい?」
マリーはしばらく思い出すのに時間がかかったようだが、
「ええ・・・と、森の魔女で・・・迷い込んだ子供を捕まえて食べてしまう・・・とか?
魔法にかかると綺麗なお姫様にも見える・・・とか、ニコラお爺さんが言ってたと、思う。」
老婆は舌打ちしたようだ。
「あんのお節介ジジイ、まーだ生きてんのかい!? ・・・まぁいいや、
あんまり時間がないからね・・・、ま、あのジジイの話は当たりでもないが外れでもない。
あたしは化け物には違いないかもしれないが・・・一応、生きている・・・。」
そうなんだ? マリーには意外そうだったが、既に心が麻痺してきたのか、
そのまま黙って老婆の話を聞き続けた。
「正確には一度死んだ・・・、だがあたしは死者の王ヴォーダンの怒りに触れ、
普通に死ぬことを許されなかった・・・。ヴォーダンはあたしを不死の体にして、
この暗い夜の森に、永久に閉じ込めちまったのさ・・・未来永劫・・・ずっとね。
・・・いつかはこの呪いも解けるのかとも思いたいんだが、それがいつなのか、
どうやったら解けるのかもわからない・・・、ああ、どーでもいいね、こんな話はァ・・・。
だがね、たとえ不死の身体でもね、ご覧の通り腐っていくんだよ・・・。」
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最終更新:2007年04月14日 02:09