「心配いらないよ、こいつはあたしより無害だ、何せ人は食わないからねぇ・・・」
男は身体を前後に揺らし始めた・・・。
「 おーほーほー、おーじょーおーさーんー♪」
・・・嬉しい・・・のか?
マリーは固まったまま、その男をしげしげと見た・・・確かに害意はなさそうだ・・・。
「こいつはあたしの連れ合いさね・・・、あたしと同様、罰を受けてこんな姿になっちまった・・・。
年をとらない身体なのはいいんだが、代わりに知能をとられてねぇ。
まぁ、考えることができないから苦しくはないのかもねぇ。」
第十六話
マリーは、嬉しそうに身体を揺らす男と人形を見比べた。
この綺麗な人のだんな様・・・? やっぱり若い時はかっこよかったのかな?
いや、今はそんなこと考えてる時じゃない。
「わたし、人形になったら・・・この人みたいになるの・・・?」
それを聞いてさらに老婆は笑った。
「違う違う、はぁっはぁっは、似てるかもしれないが違う・・・。
人形は『感じること』がなくなる・・・、ただ考えることはできる。
そいつは『考える』事ができない。・・・だが、感情はちゃんと残ってる・・・。
ま、ぼけ老人みたいなもんだ・・・。一応、ボケなりに考えてるみたいだけどね。」
枯れ木の男は老婆の言葉を気にしてないようだ。
「フラウ・ガウデン・・・その女の子、おまえとどっち可愛い? おまえが可愛い?
その子が可愛い? それともオレが可愛い?」 あやうくマリーは噴き出すところだ。
「うるさいねぇ、Ladyに失礼なこと言ってんじゃないよ、ま、人間の時のアンタに会わせたら、
あたしが嫉妬するぐらいだよ。」
だんだん、マリーはこの状況に慣れてきた、というか、この二人の見た目のグロテスクさが、
何となくコミカルにすら感じて居心地が良くなってきたのである。
だが、非情な現実はそれを許してくれなかった・・・。マリーは自分の感覚の違和感が、
さっきよりもどんどん増大していくのを感じ取っていた。
・・・視点が定まらない・・・彼らの声が鼓膜以外のところから聞こえるようになっていた・・・。
最終更新:2007年04月14日 07:46