そして、その事をはっきり自覚すると、自分の心の中に激しい憎悪の念が、
ぐつぐつと煮えたぎり始めるのを、抑える事ができなくなっているのにも気づいてしまった。
もう、時間がない・・・。
激しい嫌悪感と共に、あの領主の気持ち悪い舌で、体中や口の中を舐められた記憶が、
どんどん蘇ってくる・・・、悔しい! 気持ち悪い! 耐えられるわけがない・・・!
 「フラウ・ガウデン・・・一つだけ教えてください・・・。」
老婆もそろそろ、マリーの身体が限界だと悟ったようだ。
 「 ・・・言ってごらん・・・。」
 「なぜ、わざわざ、とりひきを・・・? そのまま 私を食べてもよかったの では・・・?」
しばらく老婆は、マリーの目をじっと見続けてたが、ため息をついて口を開いた。


第十七話
 「・・・いくつか理由はあるけどね、ま、確かに『取引』ってのは口実さ・・・。
 まずは、あたしの手元に、こんな人形を置いときたくないのさ・・・、
 あんたも女なら判ってくれるかい? 
 コレを作ったやつは親切のつもりかもしれないが、余計なお世話さ・・・、
 どうせあたしはこの腐った身体からは離れられない・・・、
 あたしがこの人形に入れれば、また意味は変わってくるんだろうけどねぇ・・・。
 ・・・かといってコイツはあたしの分身みたいなもんだし、そうなると処分するのもねぇ、
 じゃあ、どうしようねぇ? 
 ・・・て時にアンタがいたのさ・・・、アンタみたいな可愛い子だったら、
 模造品とはいえ、あたしの昔の身体を任せてもいいかなってね・・・。
 それに思ったとおり、アンタはあたしの身体を綺麗と言ってくれた。
 ・・・こんな理由じゃ不満かい?」
マリーは静かに首を振った、もう口を開くこともできないようだ・・・、
だが、彼女は既に霊化し始めているせいなのか、フラウ・ガウデンの心が判るような気がした。
フラウ・ガウデンはその外見の醜さとは反対に、心は普通の女性のままなのだ・・・。
もしかすると、この人形になりたかったのは、誰よりもこの森の魔女であったのかもしれない。
・・・既にマリーはこの人形に同化する覚悟はできていた。
もはや問答はただの形式に過ぎない。フラウ・ガウデンは一言だけ、静かに声を発した。
最終更新:2007年04月14日 07:56