マリーっていうお嬢さんがこの人形の宿主だよ、Ladyにはしたない格好はさせちゃあいけない。」
・・・薄いレースのキャミソール、薔薇の刺繍の黒いドレス、
ドレスと同じ素材の肩の膨らんだボレロ、
そしてフラウ・ガウデンが、人形の背中に白いコルセットの紐を締める頃には、
人形の眼球は落ち着いた動きをするようになっていた。
 「・・・どうだい? あたしの声が判るかい? 身体は動かせるかい・・・?」
膝までの粗い網目のタイツを履かせながら、フラウ・ガウデンは横目でマリーに話しかけた。
マリーは、ゆっくりと・・・ 指を・・・ 首を・・・ 腕を動かし・・・ 
そして自分の両手を不思議そうに見詰めながら、ゆっくりと上体を起こした・・・。
術は成功だ・・・。
古の魔法使いによって作られた「人形」は、マリーという少女の魂を注がれて、
今ここに、新しい「生命」として誕生したのである。


第十九話
人形の唇は、薄く隙間が開いてはいるが動くわけではない。それでも声は出るようだ。
どうゆう魔法なんだろう?
 「・・・心は楽です、でも・・・身体がすごく・・・抑えの利かない力が湧きあがって来て・・・
 今にも 勝手に動き出してしまいそう・・・。」
それを聞いて、フラウ・ガウデンはニタリと笑った。
 「うまくいったようだね? その力はアンタの恨みや憎しみ、悲しみさ・・・。
 それらがある限りアンタは動き続ける。
 それからね、今、アンタに着せた衣装にも魔法がかかっている。
 その人形もドレスも・・・どんなに壊れたり破れたりしても、
 アンタの蓄えている情念によって再生する。
 ・・・逆に言えば、アンタの心が弱いときは、アンタは何もできないからね、
 よぉーく覚えておきな!」
マリーはヒールのある靴を履き、完全に立ち上がった。そしてマリーは完全に理解した。
フラウ・ガウデンが語った言葉の数々を。
マリーにはもはや迷いもなく、内から湧き上がる衝動によって、
次に自分が為すべき行動を認知するようになっていた。
彼女がキョロキョロ左右を見回すと、フラウ・ガウデンはそれを見越したかのように、
暖炉のある部屋まで戻って、マリーに声を掛けた。
最終更新:2007年04月14日 08:12