「・・・主よ、万物の生みの王にして支配する者ヴォーダンよ・・・、あの子の魂に安らぎを・・・、
罪深き我らには寛大なる死を賜り給え・・・。」
・・・そう言って、はっきり何時と言うこともなく、
ゆっくりと朝の森に、彼らの姿は溶け込んで消えていってしまった・・・。
一方、「マリー」という名の人形は、ある場所へと走っていた、狼よりもすばやく森の中を、
猿よりもすばしこく木々の枝をくぐり抜けて。
「彼女」自身の思い入れではなく、「人形」の本能のようなもので、
マリーの弟、チビのエルマーの悲しい遺体・・・、
兎のように殺された、弟の死に場所へ辿りついていた・・・。
森深くの谷坂の斜面・・・、「彼女」は谷の上からかつての自分の弟を見下ろしていた・・・。
フラウ・ガウデンの言ってたように、エルマーの魂と呼べるようなものは既に存在していない。
すでに悲しくもない・・・つらくなんかもない・・・。
だが、「人形」はその死体の周りに、凛として存在するエルマーの恐怖、無念、苦しみ、絶望、
それらの思念の残骸を余すことなくその身に集めていた・・・、
自らの復讐への力と変換する為に。
第二十一話
ほぼ同時刻、村では朝から大騒ぎになっていた。既に夜の内から、
マリー達の両親が村の隅々まで探し回っていたのだが、村人達は悪霊達を恐れて、
家から出ようとせず、二人は何とか砦にも足をのばしたのだが、しらばっくれた見張りの兵士に、
にべもなく追い払われていたのである。
既に両親は衰弱しきっており、母親は夫にしがみついていなければ、
歩く事もままならない状態であった。村人達も冷淡なわけではない、それ程、
冬の夜の森を恐れているだけなのだ、それ故、その負い目から、
太陽さえ昇れば村中総出で探し出そうとする。
マリーと同年代のフィーリップ、年下だがハンスにトーマス等の必死ぶりは半端ではない。
親に止められなければ、昨晩のうちにでも夜の森に出かけていたかもしれない。
今も、彼らはマリー達の両親に言葉をかけてから捜索に行こうとしてた時、
目ざといトーマスが、白い帽子をかぶり、
集会所の先の丘の上に立っているニコラ爺さんに気づいた。
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最終更新:2007年04月14日 08:56