「後悔するがいい、弟を兎のように殺したことを・・・
後悔するがいい、自らの欲望のために私を嬲り殺したことを・・・。
そして わたしは断罪する、 ・・・おまえの汚れた命を・・・!」
領主の口からは、最後の・・・一際大きい気泡が水面へ昇っていった・・・。
その顔は恐ろしいまでの苦悶の表情を挺し、
後は、生体反応としての痙攣を繰り返すのみだった・・・。
陽の光もうっすらとしか届かない湖底に達すると・・・、もはや領主の身体に、
命が残ってないことを感知したのか、かつてマリーと呼ばれた少女の人形は、
その自分の身体からも、急速に力が失なわれていくことに気づいていた・・・。
いつの間にか、領主のカラダにからみついていた手足をほどき、
穏やかな水の流れにカラダを委ね、
ゆっくりとその場から離されていった・・・。
第二十三話(最終話)
湖の岸辺では、あわててる兵隊達を、黙って見詰めているニコラ爺さんの姿があった。
もちろん、爺さんは兵隊達なんかに用はない。
いつの間にか、爺さんの後ろには、ワタリガラス、灰色の狐、ずんぐりした熊が後ろに控えていた。
「フラウ・ガウデン・・・余計なお節介焼きはいったいどちらだと言うんじゃ・・・。」
「可哀そうなマリーよ・・・、いつか、必ずおまえの魂を救ってやるからな・・・。」
・・・そう小さく呟くと、ニコラ爺さんは三匹の動物達と共に、その小さな村を後にした。
湖の底では・・・、依然としてマリーの意識ははっきりとしていた。
ドレスの裾が、水の動きにあわせてゆらめくのを感じる。
湖の上から、ぼんやりとした日の光が射してくるのも感じる。
自分の傍を、藻の塊が漂っていたり、何匹かの魚が泳いでいるのも感じる。
その気になれば、腕ぐらいは動かせる・・・湖底を歩き、湖から上がって、
森へも移動できるかもしれない。
だが、もはや彼女にはそんな目的も衝動もない・・・。
ただ、その瞳に映る、水中の景色を、ぼんやりと眺めているだけだ・・・。
熱くもなく寒くもなく・・・、痛くもなく苦しくもなく、嬉しくもなく悲しくもない・・・。
このまま、魂が消え去るまで、ずうっと、湖底で悠久の時を過ごせばよいのだろうか?
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最終更新:2007年04月14日 09:11