第三話
「・・・おれはその身の毛もよだつような恐ろしさのあまり動くこともできなかった・・・。
ところが、穴の奥には何かが動いているんだ、・・・それもたくさん・・・。
湿っていて・・・、冷たくて・・・、汚らしくって・・・。
そいつらが群れをなして襲ってきたんだ、
だから・・・! え・・・?」
話の途中で妻は時計を見せてくれた、確かに寝ぼけている場合じゃない。
なかば追い出されるような感じで私は家を出て行った。
会社では、事件からもう三日たつというのに、まだあの事を口にする奴がいる。
もっとも、事件の担当の記者が直接遭遇したのだから無理はないが・・・。
一緒に今度の事件を担当した同僚もお手上げの状態だったが、
とりあえず締め切りまでには、
「緑の恐怖! 妻子ある若き男性、謎の連続変死体!!」
と題する記事ができた。
それからしばらくたったある日のことだ。
虫の知らせというのだろうか、気分が悪くなり、
早めに会社を切り上げて帰って来た事があった。
家には鍵がかかっていた。 百合子は外出しているのだろうか?
鍵を取り出しドアを開けた。
その瞬間、例えようもない衝撃が私の全身に走った。
・・・そこにはあの、緑のもやが充満していたのだ!
私はこの世の破滅が来たような気がした。
猛悪な地縛霊にでも獲り憑かれてしまったかのように、絶望と恐怖で足を動かすこともできない。
・・・待て、声だ、声が聞こえるぞ、
かすかな声だったが、紛れもない百合子の声だ。
・・・そしてさらに、気味の悪い老婆のような声が聞こえてくる・・・。
私は勇気を奮い起こし、あらん限りの大声で叫んだ。
恐慌状態はカラダの重さを無にし、自分の身の危険を顧みず、
声の聞こえてくる部屋の扉を開けた・・・。
最終更新:2007年04月14日 11:20