第四話
・・・だが、そこには誰もいなかった。
ただ、周りと同様、緑色の気体が立ち込めているだけだったのだ・・・。
隣の部屋では、四つになる娘の麻衣が、いつものように幼稚園から帰って、
ベッドの上で昼寝をしていた。
体を揺すって起こしてみたが、何を聞いても、
「ぜんぜんしんない」
と、不機嫌そうに答えるだけだった。
わかったわかった、起こしたのは悪かったから・・・。
そのあいだ、例の気体はいつのまにか、空気中に溶け込んで消えてしまっていた。
「あら? 何で鍵が開いているの? 麻衣? 麻衣ー!?」
玄関で百合子の声が聞こえた。
私は彼女の、「何でこんなに早く家に帰ってきたの?」 という問いを無視し、
先程の異常な体験を、一息もつかず一気に説明した・・・。
私の言葉を信じていないことは、彼女の目がはっきり告げていた。
緑のもやというのが、胡散臭かったらしい・・・。
しばらく沈黙が続いていたが、辛うじて話題を変えることに成功した。
「どこ行ってたんだ、子供を置いて・・・?」
スーパーのビニール袋を見せながら彼女は答えた。
「今日はお肉の特売日なの、麻衣だっていつもこの時間は眠ってるもの、
起きる時間も決まってるから、それまでにはいつも帰ってるわ、
毎日、買い物に行く時はだいたいこの時間よ。」
私の頭には、例の殺人事件が浮かび上がっていた。
この時は、とにかく万一のことが無いよう、妻に注意するだけで精一杯だった。
こんな事件が起こってからというもの、仕事を口実に今まで起きた一連の事件を、
詳しく調べなおすことにした。
前に殺された会社員の家にも、私が遭遇した緑の霧は発生したのであろうか?
遺族に会うのは初めてだが、何となく気が進まなかった。
心の中で、理由は分らないが何かが引きとめるのだ、
あの家には行くなと・・・。
最終更新:2007年04月14日 11:23