第六話
その家ではこれといった情報は何も得られなかった。
しかし、この未亡人と話している間、先程の少年の言ったことがずっと気になっていた。
果てして聞いて良いものだろうか、黙っているべきだろうか?
いいや、構うものか、どうせクチバシの黄色い高校生のたわ言だ、
尋ねてまずいということはあるまい。
 「失礼ですが奥さん、あなたは幼少のころ、神隠しに遭ったことはないですか?」
その時である。
それまで穏やかだった彼女の顔が、見る見る変化を遂げ、
恐ろしい形相に変わっていったのだ・・・!
 「誰に聞いたのです・・・?」
ゆっくりとした言葉だったが、その響きには凄まじい殺気が込められていた。
 「い、いや、さっきこちらの家の前をうろちょろしていた高校生がそんなことを・・・、
 じょ、冗談だと思っていたものですから・・・、
 た、立ち入ったことを聞いて申し訳ありません。 ・・・え?」
 「その少年の名は何と言ってました・・・?」
もともと名前などは知らないが、すっかり慌ててしまった私は、少年の身を案ずる余裕もなく、
ついうっかりその特徴を言ってしまった。
その若き未亡人は彼を知っているようで、顔をこわばらせながらこう言った。
 「あの・・・あいつらついに・・・!」
 「え? なんですって? ご存知なんですか・・・?」

・・・その後、私はその家をあっけなく追い出された。
以来、私は例えようのない不安に襲われ始めた。
・・・まさか、いや、そんな馬鹿な・・・、そんな事があるはずがない・・・。
ある日、私は電話をかけてみる決心をした。
近所の電話ボックスで・・・。
五回ぐらいルルルルルル・・・という呼び出し音が繰り返された。
こうでもせねば、胸に重くのしかかる不安は消せなかったのである。
相手が受話器を取った。
 「・・・はい、安曇です。」 妻、百合子の実家だった。
しばらくの間、何を話していたのか良く思い出せない。
ただ、この一部分だけは頭にはっきり残っている。
 「あ〜、そんなことあったなぁ〜。」


最終更新:2007年04月14日 11:33