第十話
あたりは夜になっていた。カラダがいやに重い・・・。
ゆっくりと草むらに横たわっていた上体を起こすと、
少し離れたところにあの少年が立っているのに気づいた。
私たちはお互い黙っていたが、ついに私は、何が起きたのか知りたいという欲望に負け、
これらの恐ろしい出来事について、あらゆる事を尋ねてみた。
この少年の目的、事件との関係、緑のもや、先程の気味の悪い生物、妻の行動、
彼女達が行方不明になったことがあるという事実の持つ意味について・・・。
少年は涼しげに答えた・・・。
「昔、リリスという名の女性がいました。・・・あなたも奥さんから聞いたようですね?
後にアダムの妻となったイヴは、蛇に欺かれて『知恵の実』を食べた。
そして人間は楽園を追放され、死すべき者となる、
だけどリリスは『知恵の実』を食べていない、
だから人間のように死にはしないし、『罪』という物も知らない。
そういう意味では、彼女達は君らよりはるかに神に近い存在かな。
そして今、彼女は仲間を増やし、何かを狙っている。
彼女だけでは何もできないはずだが、恐らくは後ろに巨大なものがついている。
たぶん、彼女の連れ合いである『蛇』だろうね。
ぼく?
残念だけど君らには理解できないさ・・・。
さあて、僕はもう帰らなきゃいけない、
じっとしていて下さいよ?
動いたら・・・命の保障はしません・・・。」
そう言って、少年はゆっくりと私に近づき、私の額に指を伸ばした。
瞬間、私のカラダに電流が走った。
その時すべてが真っ白になり、私は何も知覚できなくなった。
- ショックからゆっくりと開放された時、私はいつものように、
会社から家に向かう電車の中で、吊革に捕まってぼーっとしている自分に気づいた。
すべてがいつもと同じだった。
草や土で汚れた衣服を除いてだが・・・。
最終更新:2007年04月14日 11:54